表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/21

第14話:次なる目標

「お、御種……?」


 月光に照らされた寝室で、俺は呆けた声を漏らした。

 そんな俺の身体に跨るヒルデは、薄いネグリジェ姿のまま、至極真面目な顔で首を傾げる。


「はい、御種です。子種、あるいは精液……と、お呼びした方がよろしいでしょうか?」

「いや、意味は分かった。分かったからいい」


 そう言いながら、改めて彼女の姿を見る。


 月の光を透かす薄布一枚を隔てただけの肢体。

 豊満な曲線と、そこから覗く白い肌。


 昼間の勇ましいパイロット姿とのギャップも相まって、その破壊力は超銀河級だ。


「えっと……それは、つまり……俺とヒルデちゃんが、その……致すってこと?」

「当然です。何度も申し上げましたが、ライン家の尊き血を後世に繋ぐのも私の役目ですので」

「ふ、ふ~ん……」


 彼女は淡々と、俺の煩悩を刺激してくる。


(……マジか)


 俺はゴクりと喉を鳴らす。


(血を繋ぐって、そういうことだよな? こんな超銀河級の美女と、セッ……できちゃうってことだよな?)


 普通に考えれば唐突すぎるが、ここは貴族社会。

 子孫繁栄は当主の義務だ。

 それに俺はこの数カ月間、本当に死ぬ気で頑張った。


 このライン領を完全な詰みの状況から脱却させ、新たな光明さえ見せられた。

 そんな英雄に、これくらいの役得があったってバチは当たらないはずだ。


(そうだ、これは俺の爛れた性欲じゃない。果たさなければならない崇高な使命なんだ!)


 俺は内心で必死に言い訳を並べ立て、覚悟を決める。


「……分かった。そこまで言うなら、俺も男だ。覚悟を決めよう」

「ありがとうございます。では、早速……」


 そう言って、ヒルデはゴソゴソと背後をまさぐり始めた。

 そして、どこに隠し持っていたのか、奇妙な物体を取り出した。


「……ん? 何、それ?」


 それは円筒状をした金属製の機械だった。

 いや、金属なのは周辺だけで、中心部は柔らかそうな素材で、小さな穴が空いている。


「器具ですが……?」

「き、器具……?」


 ヒルデは平然と答え、側面のスイッチを押した。


 ウィン、ウィン、ウィン、ウィン……。


 機械が規則正しい駆動音を立てて、激しく前後運動を始める。


「これで、効率的かつ衛生的に御種を採取させていただきます」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ったぁッ!」


 俺は反射的に後ずさり、彼女の手を掴んで制止した。


「何故、止められるのですか?」

「当たり前だろ! なんでいきなりそんなマシーンが出てくるんだよ!」

「最新式の医療用機器で、確実な採取が可能です」

「そういう問題じゃねぇ!」


 不思議そうに首を傾げる彼女に、思わず叫ぶ。


「では、何が問題なのですか? 御種の保存については理解を得られたはずですが……」

「問題しかないだろ」

「吸引力がご心配なら、調整も可能ですが? 動きの種類も100パターンに対応しております」

「違う。そうじゃない。いや、それはそれでご褒美感がなくもないというか、マニアックな需要があるのは否定しないけど……」


 ウィンウィンと機械を唸らせているヒルデに、俺はなんとか必死の説得を試みる。


「俺はノーマルだから……もっと、こう……情緒というか、温もりというか……」

「温度調整機能も――」

「だから、そうじゃなくて! せっかくならそのヒルデちゃんと普通に、そういうことがしたいわけよ。種を仕込むというか……愛し合うというか……」


 俺が若干照れながら言うと、ヒルデはきょとんとして瞬きをした。


「それは、『自然交接』のことでしょうか?」

「自然交接……? うん、多分そう! てか、それだ!」


 微妙に卑猥さを感じない、ジャストな言葉を出してくれたと追認した瞬間だった。


「……っ」


 突然、ヒルデの瞳からポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。


「えっ!? ど、どうしたのさ!?」


 目の前で急に泣かれて狼狽えるしかない俺。


 もしかして、そこまで嫌だったのか?

 機械的な作業ならまだしも、直接触れ合うのは生理的に無理だった!?


「ご、ごめん! 嫌ならいいんだ! 忘れてくれ! 俺が悪かった!」


 そんなに嫌われてたのはかなりショックだけど、今はとにかく彼女を泣き止ませるしかなかった。


「……違います。そうではありません」


 しかし、彼女は首を横に振ると、涙を拭いながら感極まった声で言った。


「クラウス様が、私の想像を遥かに超えて、これほどまでにご成長なされていたとは思わず……つい涙が……申し訳有りません……」

「は……? ど、どういうこと……?」


 話の脈絡が全く掴めず、頭の上にはてなマークを浮かばせる。

 そんな俺を涙で濡れた瞳で真っ直ぐに見据えながら、ヒルデちゃんが説明し始めた。


「この銀河帝国アスガルズにおいて、貴族の出産は遺伝子調整された精子と卵子を用いた『人工受精』が一般的です。『自然交接』によって子を成すことは、銀河の覇者である皇帝のみに許された、最も神聖な儀式の一つ」


 彼女はそこで言葉を区切り、熱っぽい息を漏らす。


「つまり、貴方様は今まさに私に宣言されたのですね……。自身が皇帝になると……!」

「……はい?」

「ヴァン派もアース派も諸共に殲滅し、『現在の玉座に納まる偽の皇帝を排し、我こそが真なる銀河の覇者として君臨する』と!」

「いや、ちょ……ちょっと待っ――」


 俺は顔を引きつらせる。

 

(こ、皇帝!? 俺はただ煩悩に従おうとしただけで、そんな覇道シナリオを選択した覚えなんてないんだけど……)


「ああ、クラウス様……! 貴方のその底知れぬ野心と覇気に、私は身も心も震えています……!」


 制止する俺の声は、ヒルデの耳に全く届いていない。

 己の全てであるライン家の血が、遂に銀河の覇を獲ろうとしていることに感極まってしまっている。


「ちょ、訂正させて! 俺はそこまでのつも――」


 ――ムニッ……。


 必死に抵抗しようとした言葉は、押し付けられた柔肌に押し留められた。

 甘い香りと、温かい体温が理性を溶かしていく。


「なれば、この身は全て貴方様に捧げます……共に、銀河を……いえ、宇宙をこの尊き血の物としましょう……」


 恍惚とした表情で、言葉通り俺に身を預けてくるヒルデ。


(流石に、宇宙制覇はハードすぎるって……もうちょい良いデータならともかく、戦力も何もかも足りてないし……)


 頭の片隅で、冷静な俺がストラテジーゲーマーとして警鐘を鳴らす。

 だが、目の前には涙目で頬を染め、俺に全てを委ねようとしている美女がいる。


「うん、すりゅ……」


 性欲に頭を支配された男に、『九九の3の段』以上の計算はできない。

 こうして俺は次なる目標として、この銀河帝国の皇帝となることを余儀なくされた。


 ***


 翌朝、小鳥の囀りと共に目覚めた俺は、重い腰を上げて執務室の机に向かっていた。


「……やっちまった」


 机に肘をついて、頭を抱える。


 蘇るのは昨夜の記憶。

 性欲と勢いに任せて、とんでもないことを言ってしまった。


 銀河皇帝。

 つまり、国内の全勢力を敵に回しての完全勝利エンドだ。

 現状の戦力はボロ戦艦一隻と、稼働時間の短いワンオフ機が一機のみ。

 不可能も不可能の、無理ゲーにも程がある。


「でも、約束しちまった以上はやるしかないよなぁ……」


 ていうかあれだけ喜ばせておいて、破ったら今度こそ間違いなく殺されると思う。


 デスクの上にホログラムを展開し、銀河帝国の勢力図を表示させる。


 ヴァン派、アース派、そして中立勢力や周辺諸国。

 こいつらを全員出し抜き、頂点に立つためのストラテジーを構築しなければならない。


「ただの戦略ゲーなら物量で押しつぶされて終わりだけど、ここはそうじゃない……」


 俺はこのゲームのことを1mmも知らない。

 でも、ここがゲームの世界であるというメタ視点を持っている。


 ストーリー、シナリオ、ナラティブ……呼び方は多々あれど、どんなゲームにも『物語』がある。

 そして、その中心点には必ず、運命の車輪を回す特異点が存在する。


「まずは見つけるとするか……」


 俺は虚空に浮かぶ星図を指でなぞり、一つの結論を導き出す。


「この1mmも知らない世界の主人公を……!」


 1ターン目が終わり、2ターン目にやることは決まった。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。


「面白い」「続きが気になる」と思ってくださった方は、この画面の下から『ブックマークに追加』と『★★★★★』で応援して頂けると嬉しいです。


作者の執筆モチベーションも上がるので、何卒よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ