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秘密基地

ある日団地のゴミ捨て場に大量の家具が捨てられていた。

ベットやソファ、椅子、机、引き出し、食器などの小物類、それらのほとんどがまだ使えそうなきれいなものだった。


団地に住む子どもたちは、それらのゴミを見つけると、彼らは魅了された。

この捨てられているゴミを貰ってなにかに使えないだろうかと。


秘密基地を作ろう


発端は誰かはわからない。

けれども近所に住む子どもたちは続々と集まって、学年を問わない多数の遊びグループからなる15人くらいの大集団がこの事業に参加した。


その場の皆が賛成し、年長の少年が指揮を取り始めた。

中堅の3,4年生の子どもたちは彼に従い、せっせと家具を運ぶ。

重たいものは学年の高い子どもが協力して運び、小さいものは小学1,2年の年少たちがせっせと運ぶ。


皆が秘密基地を作ることを夢見ていた。

皆が協力し、助け合い、各々の役割を果たしているようだった。



夕刻の前、一人のお爺さんがゴミ捨て場を通った。年齢は大学生くらいだろうか。

彼が見ると、子どもたちが粗大ゴミを勝手に持ち出している光景が見えた。

お爺さんは思う。

(なるほど、この子達はゴミを勝手に持ち出して遊んでいるのか)

すぐにこどもたちのやろうとしていることを察知した。


そして、子どもたちのあとつけて、秘密基地を見つける

そこには上級生たちがソファに腰掛け、下級生たちが与えられたベッドや椅子に座って遊んでいる姿が見えた。


ある種のユートピアだった。

だが、その楽園は長くは続かない。お爺さんはスタスタと子どもたちに近づいて、言った

「君たち、ここの家具をどこから持ってきたんだ?」

皆がお爺さんを見て、あたりが静まり返る


皆がきょりょきょりょして互いの尾顔色を伺う。

六年生の少年が代表して口を開いた。

「……ゴミ捨て場にあったんです。もう使ってないやつだから」


お爺さんは腕を組んだまま首を横に振った。

「それは君たちのものじゃない。勝手に持ち出しちゃいけない」


六年生の少年は言い返そうとしたが、言葉が詰まった。

「でも、捨ててあったから……」

「捨ててあっても、“ゴミ”ってのは市のものになるんだ。持ってったら犯罪だ」


「……犯罪」

誰かが小さくつぶやいた。

その響きに空気が固まる。

低学年の子どもたちは互いの顔を見合わせ、何が悪いのか分からないまま不安そうに立っていた。


お爺さんはため息をついた。

「とにかく、全部戻しなさい。今すぐだ」


六年生が渋い顔でうなずくと、子どもたちはしぶしぶ動き始めた。

大人の言葉は理由よりも強かった。

重たいソファを何人かで持ち上げ、ぐらぐらしながら坂道を下る。

ベッドの脚がアスファルトに擦れてギギギと音を立てた。

机の引き出しは開いたまま揺れ、食器がカタカタ鳴った。


途中で泣き出す子もいた。

「なんでだめなの?」と誰かが問うたが、誰も答えなかった。

六年生たちの顔にも怒りとも悔しさともつかない影が落ちていた。


ゴミ捨て場に家具を戻し終えるころには、もう空が薄紫に変わっていた。

風が吹いて、誰かのシャツがはためく。

お爺さんは一言だけ「もうやるなよ」と言い残し、団地の奥へ歩き去った。


子どもたちは黙って立っていた。

秘密基地の跡には、草の上に残ったソファの跡がぽっかりと空いていた。


「……帰ろうか」

六年生の少年がつぶやいた。

みんなはうなずき、それぞれの家に向かって散っていった。


その日以降、誰も例の「秘密基地」の話はしなかった。

よくよく振り返れば、遊びの途中で「これ大丈夫なの?」と聞いてくる子もいた。各々が思うところはあったのだろうが、全員遊びに参加して、もれなく叱られた。それで終わり。


ただ、全員が「ゴミ捨て場のものは取ってはいけないらしいこと」だけは覚えることになったのかもね。

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