携帯電話の持ち込み
主人公は田真里みなみという中学生の女の子。控えめで、ドジな面がある
私達の学年は先週の金曜日、遠足に行ってきた。班にわかれて、事前に計画した神社やお店を時間通りに回りに行くイベントだ。
普段の授業とちがってほとんど遊びなので、ほとんどの生徒にとっては良い日だっただろう。ただ学校の遠足なので、制約も多い。
計画したお店以外には行けないので、ゲーセンとか公園で遊べはしない。
あと個人のスマホを持ち歩けない(学校貸出の携帯は班ごとに配られている)。
ただそれを耐えかねた一部の生徒は、スマホを持ってきて電車内やらバスの待ち時間やらの暇を潰していた。
私は流石にもっては来なかったが、班員の[イジルくん]はスマホを持ってきていた。
私は他人がどうしようとどうでも良いので、何食わぬ顔でいたし、他の班員も、「先生に見つかるなよ」とだけ警告して、あとは放置だった。
しかし、翌日、私たちは修羅場に立たされることになる。
朝の会の代わりに、学年を集めて集会が始まる。
朝の先生たちの顔が険しい。生徒たちは何食わぬ顔で集合した。少なくとも私は、誰かがなんかやらかしたか、あるいは単に遠足の振り返りで教頭先生から話があるのか、くらいの感覚だった。
「先日の遠足はみなさん無事に楽しんでこれたみたいで良かったです。
と、いいたかったのだけど、、」
「とても残念なことがありました。」
嫌な予感。
「遠足の後日、携帯電話を持ち歩いていた生徒がいることを教えてくれる子がいました。」
「先生は、みんなを信じられなくなった。」
「遠足から本部に戻ってきて、班長の子が笑顔で、「問題ありませんでした」って報告してくれたのに、、」
「話によるともっと多くの生徒が携帯電話を持ち出していることがわかっています。
もちろん、持ってきた生徒が一番悪い。」
「これはもちろん許せない」
「でも、携帯電話を持っきている子がいることを知っていた人」
「知っていながら、先生に報告してくれなかった人」
「先生に教えてくれた人より、黙ってやり過ごそうとした人」
「こいつも許せない。」
「あなたがたの常識を疑います。」
「あなたたちは周りに悪いことをしている人がいるというのに、見ないふりをするのですか?」
「、、社会の授業で覚えている人もいるかな。」
「かつて、ナチスドイツという国では、国全体が間違った戦争に舵をきりました。当時もおかしいと思って、ナチスと戦っていた人たちはいたけれども、大半の人は何も言わずに間違ったことに加担しました。」
「あなた方は、間違った認識をたださないといけない。」
「このあと教室にもどったら、皆さんにアンケートに答えてもらいます。
もし、この言葉が届いた人がいるなら、恐れずに、先生に報告してください。
もし、ここで名乗り出なくて、後から携帯を持ち歩いていたことが発覚した班は、班員全員許しません。」
「以上です。」
---教室---
「さて、ではアンケートを配ります。
みんな、ちゃんと書くんだよ
社会に出たら二回目のチャンスなんてないんだからね。
ここで間違わないでください。」
先生の最後通牒のようなセリフを背景に、生徒たちは思い思いに考えてアンケートと向き合う。
女子生徒A(心の声):「やった! 私、セーフ!!」
男子生徒B(心の声):「あぁ……まじかよ……」
男子生徒C(心の声):「えぇ、俺やってねぇよぉ……。でも知ってるやつはいるけど、、裏切ったことになるからなあ」
男子生徒D(心の声):「どうしよう……。」
私(心の声):「はあ、面倒くさいことになったな。」
---昼休み---
アンケートは昼休みの終わりまでに提出することになっていた。早くどうするか決めて提出しないとな。
にしても誰かに見られると面倒くさい。
そうだ。トイレに行くついでに、こっそり職員室に持っていこう。
そう思って席を立ったときだった。
「おい、田真里、お前携帯もってきてんのかよ。」
突然、後ろから肩を叩かれた。振り返るとそこにはクラスで一番ガタイの大きい男子生徒が立っていた。
私は正直、こいつが苦手だ。普段もあまり関わりたくない。そんなやつに声をかけられた。
無視してもよかったのだが、流石にそれは感じが悪いだろうと思い、応じることにした。
「いいえ、私はもってないよ?」
私は、できるだけそいつを刺激しないように返事をしたつもりだったが、相手は違ったようだ。
「嘘つけ。俺は見たぞ!
おまえ、昨日、電車に乗ってるときにスマホいじってたじゃねえか。
バスの中でもずっと使ってたろ。」
「え?、え?」
これは、、脅しだろうか。。
もし私が先生に密告するような真似をすれば、私にもスマホ持ち出しの疑惑を被せてやるぞという...!:「い、いえ、あれは私のじゃないです。」
私は必死に弁明した。しかし、それが逆効果だったらしい。
「いいわけすんじゃねぇよ。」
「俺たちは見てたんだからな。」
他の班員たちも揃って彼に同調する。
男子は私の耳元にまで近づき、ちいさく粒やいた
「わかってるよな。自分だけ助かるなよ。
遠足の日、お前のせいで電車遅らせてるんだからな。」
ドキッ
そうだ。。遠足の日、私は寝坊をした。そのせいで、班員たちは私を待つために駅のホームで長々と待たされることになったのだ。
そのとき、素真帆くんが携帯を持っていたことで、みんなの暇つぶしができたという、結果オーライな現象があった。
遅刻自体はすでに公然のこととはいえ、私はみんなに貸しがある。
「...流石に密告はしないよ..」
その呟きを聞いた男子生徒たちは、何もいわずに去っていった
私は自分の席に戻り、急いでアンケートを書き始めた。
---社会の授業---
「さて、それでは、先ほどのアンケートを返していきたいと思います。」
「携帯電話を持ち歩いていた生徒の名前は、、、」
「田真里さんです。」
やっぱり……
「田真里さんのアンケートには、「自分はもっていない」と書いてあります。」
「でも、田真里さん、あなたはもっていたんですね。」
「...いいえ」
「あなたは自分が悪いことをしている自覚があるということですね。」
「……」
「あなたは、悪いことだと認識していたうえで、先生に報告しなかった。」
「つまり、先生に相談する気はなかったということですよね。」
「……」
「先生は悲しいですよ。」
「君みたいな子がいるから、社会が悪くなっていくんだ。」
「……」
「君は自分が何をしたのか理解していますか?」
「……」
「君がやったことは犯罪行為です。」
「……」
「学校のルールを守らない。ならばこの学校にいられては困ります。
もし、親御さんに連絡がいったらどうなると思う?」
「……」
「なんにも言えないんだね」
私の頭の中は絶望一色だった。もうどうでもいい。
違うって言い張ってたほうが良いのだろうか。
信じてもらえるわけがない。
ここで先生が言ってるということは、少なくとも誰かが私を告発したことになる。
そうなれば、私かその子、どちらが本当の事を言っているのかの信用勝負になる。
口下手な私には勝てる自信がない。。
それにもし勝ったとしても、その子から陰湿ないじめをされる未来は避けられない。
だったらもう、流れるままに身を任せるしかない。
私は先生の目を睨みながら、黙秘権を行使し続けた。




