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人の話を聞こう②

聞き上手になる。口で言うのは簡単だけれど。


「・・・まあ、話は分かりましたが、聞き上手になるって言われても、具体的にどんなことをしたらいいんですか?」


人の話を聞くなんて、授業中嫌ってくらいしている。つまり、普段の経験知的には話すよりも何倍も鍛錬をしていると僕は内心そんなことを感じていた。


「安心してくれ給えよ。私がきっちり教えていくから。と言っても、いきなりあれこれと言われても混乱するだろう。だから今日は、人の話を聞く上で最も重要なことを教えてあげよう。」


そう言うと、四方里は先程書いた字の下にまたでかでかと文字を書く。書き終わると、そこには「認める」という文字があった。


「・・・認める・・・ですか?」

「そうだ。英語で言うとacknowledgementアクナレッジメントとも言われて、カウンセリングとかコーチングとかの技法でよく言われることなんだけど、そこで仔羊君。認めるってどんな意味だと思う?」

「うーん、正直に言って考えたことはないですけど、普通に考えたら相手の実力とか能力とかを評価するとか、考えや意見に同意するみたいな感じですかね?」

「そうだ、勿論その通りだろう。けれど、実はそれだけじゃあない。と言うよりも本来の意味はそうではないんだよ。」

「と言うと?」

「つまり、認めるという行為には肯定や賛同などの感情は必要ない。認めるというのは、そこにあるありのままの事象をそのままただ認識する、ただそれだけなのさ。」

「ありのままをただ認識する?」


うーん、そう言われてもあまりピンとこない。そんな僕の心情を察したのか、四方里は言った。


「どうやらあまりピンときていないようだね。それじゃあ、例としてこれから夢莉くんに対して認める行為をしていこうか。」


そう彼が言うと、それまでひっそりと後ろの方で控えていた助守が一歩前に歩み出た。


「さて仔羊君。夢莉くんの姿を見て、どう思うかな?」


まるで通販番組で商品を紹介するかのように手を広げながら話す四方里。どうと、言われてもなあ。

そう言われて改めて助守夢莉という少女を眺める。小柄だとは思っていたけれど、改めてみるとかなり小柄な少女だ。もしかしたら身長は150cmもないかもしれない。けれど、幼さが残るものの整った容姿もあり、身長の低さは問題にはならないだろうな。


・・・まあ、口に出すことは出来そうにないけれど。


「・・・身綺麗にしていて、肩口付近で切り揃えられた髪型もよく似合っているのではないかと・・・。」

「・・・それだけですか?」

「・・・はい、すみません。」


いや、自分的にはかなり頑張ったんだですけど!?そのジト目、止めてくれませんか!?

そう蛇に睨まれた蛙のような気持ちで助守の視線に耐えていると、見かねたのか、四方里が助け舟を出してきた。


「まあまあ夢莉くん、そう虐めてやるんじゃあない。なかなかいい感じだと思う。ただ、一つ指摘するとすれば、夢莉くんの髪型について。ここで言う認める行為で言うなら、肩口で切り揃えられているロブである、と言うだけでいい。別に似合っているという言葉は要らないんだ。勿論、私も夢莉くんの髪型はとてもよく似合っていると思っているがね。」

「ぶ、部長!」


四方里の言葉に、ポッと頬を桜色に染める助守。

ああ、なるほど。今の状況を四方里の言う認めるで表現するなら、想い人であろう人の似合っているという言葉に密かに喜びを感じている少女と、密かにとは言ったものの、明らかに好意を抱いていると分かる少女の様子に、まったく気付いていなさそうな鈍感な男が目の前にいるなぁ、こんな感じだろうか。


でも、僕はやっぱりまだ未熟なんだろうな。ただ何の評価もなく、この光景を認めることは出来ずにいる。何だろう、控え目に言って反吐が出そうだ。あっ、全然控え目に言えてないけど、まあいいか。


ただ当然、そんな僕の心情など知ることもなく・・・、いや、今までの感じだと察しながらも気にしていないのか?四方里は話を続けた。


「とまあ、このように、言葉からだけではなく、見た目だけでも色々その人について、知ることが出来る。だからこそ、昨日も言ったように、人付き合いにおいて、見た目というのは大切だし、その人がどういう人がと興味を持って観察をすることが大切なのさ。現に、人と言うのは髪型を変えたとか、新しいアクセサリーを買ったとか、そういった変化に気付いてくれると嬉しいものなのは君も聞いたことはあるんじゃないかな?特に、女性はそういった傾向が強いらしいよ。」

「・・・まあはい、それは確かに。で、これが人の話を聞く上でどう大切なんですか?」

「分からないかい?相手を認めるというのは、当然その人の見た目だけじゃない。発言においてもそうなんだよ。」

「・・・あっ。」


ああ、なるほど。そりゃそうだ。

そんな僕の様子を見て、四方里はニヤリと笑う。


「気付いたようだね。そう、どんな人も自分の意見や考えが当然ある。会話において、自分の意見や考えが相手と上手く合致すれば何の問題もないんだけど、当然そう上手くはいかない。自分と相手の意見や考えが合わないことがあるし、むしろ合わないことがほとんどなんだ。そう言った時に必要なのが————。」

「相手を認める気持ち・・・ですか?」

「そうだ。何度も言うが、別にいつも相手の考えや意見に賛同し、従うというわけではない。「あっ、こういう意見もあるんだなぁ」くらいの感じで、肯定も否定もなく相手の話に耳を傾ける心を持つこと。それが聞き上手になる第一歩だよ。」


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