笑顔を作ろう②
「笑顔を作る練習?」
僕が少し怪訝な表情を浮かべると、助守がムッとした顔をした。
「・・・ちょっと馬鹿にしてる?笑うくらい出来るって?だったら、言わせてもらう。そんな笑うってことが今、キミは出来ていない。」
「・・・いや、何も言ってないんですけど。」
「顔がそんな感じだと言ってるようなもの。人付き合いにおいて、表情は言葉以上の情報伝達手段。」
そうコミュニケーションについて語る助守。そういう彼女は、この間ずっと無表情だった。
するとすぐに、そんな僕の内心を見透かしたかのように、彼女は言った。
「もしかして、こんな無表情な女の言葉なんて説得力がないって思ってる?じゃあ、お手本も兼ねて見せてあげる。」
そう言うと、助守は一呼吸置いた後、ニパッとこれまでの彼女からは考えられないくらい言葉通りお手本のような笑顔を浮かべた。
「こ、これは・・・。」
悔しいけれど、僕は一瞬彼女の笑顔に見惚れてしまう。無表情の時にはあまり気にしなかったけれど、小柄でどこか幼さが残るあどけない彼女の笑みには、どこか惹かれるものがあると感じた。
すると、隣でその様子を見ていた四方里が何故か誇らしげな顔で言った。
「どうだい、夢莉くんの笑顔は。惚れ惚れするくらい美しいだろ?」
「・・・ええ、まあそうでs————。」
僕がそう軽く同意をしようとしながらチラリと助守の方を見ると、すぐに僕はある異変に気が付いた。
笑顔が崩れている。いや、崩れているというか、どこかぎこちないものになっている。
それに、どこか顔が赤いような———。
ここで恋愛もとい人付き合いに疎い僕もハッと気が付いた。
助守は四方里に対して、特別な感情を抱いているのだろうということを。
いや、冷静に考えて見なくても、恋愛戦略部なんて胡散臭い部もとい同好会に付き合っている時点で、その背景にはそれなりの理由があって然るべきだと。いや、そもそも恋愛戦略部なんて名乗っているということは、おそらくこの二人は———。
「うん?どうした仔羊君?」
僕が途中で言葉を区切ったことを不思議に思ったのか、四方里が言った。ああそうだ、良いことを思いついた。
「・・・いや、ちょっと思ったんですけど、お二人って付き合っているんですか?」
僕はこれまでの仕打ちの仕返しと思い、そう訊ねる。
すると僕が思った通り、助守がピクリと身体を震わせたのを僕は見逃さなかった。反応しているということは、つまりそういうことなのだろう。
まあ、もしかしたら今のいままで疑わない時点でもしかしたらやっぱり僕は人より鈍い方なのかもな。
そんなことを考えていると、四方里が動揺のどの字もないようないつもの調子で言った。
「夢莉くんと僕が?いや、別に付き合ってなどいないけど?」
・・・え?
僕は思わずバッと四方里の方へと顔を向ける。あまり人の感情を読み取ることに自信はないけれど、そんな僕が見た感じ、その表情からも動揺の色は見えなかった。
「・・・えっ、マジですか?」
「マジもマジだよ。それにこんな嘘をついたところで一体何になるっていうんだい。私達の間にそういった感情は一切ないよ、なあ夢莉くん?」
「・・・はい、勿論です。部長。」
そう言うと、四方里は真面目な表情から再び愉快そうな笑顔を浮かべながらガハハと笑った。一方、変わらず笑みは浮かべているものの、どこか暗い雰囲気を纏わせながら助守も笑っていた。
そんな二人を見ながら、僕は改めて思った。
なんで僕はこんな所にいるのだろう、と。