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その90

 折角サビキ釣りの醍醐味を話し始めたところだってのに、もう魚が掛かるとはな……いやまぁ、こうして最初から入れ食いみたいな状況になるのもサビキの醍醐味と言えば醍醐味なんだが。


 ビクンッビビビッ


「おおっと、追加で食いついたか」

 サビキは針が複数付いていることが多いんで、数釣りが出来るのも面白いところだ。1匹目が掛かったと思っても、少し待てばまた2匹3匹と食いついてくることが多いんで即上げするのは避けた方が良いぞ。と言ってもそれを待っている間に逃げられることはあるがな。


「いよっと…狙い通りに1匹は釣れたか」

 リールを巻いて暴れる魚をこちらに寄せた後に、ロッドを持ち上げてサビキ仕掛けに付いた魚たちを回収する。中層辺りを動かしていたからこれぞ豆鰺ってのが釣れたのは良いんだが――狙いじゃない方が大量にかかるのは何とも言えん。


「こりゃカタクチイワシか?」

 この仕掛けには6本の針があるんだが、その内の3本に食いつくとは思わんかったぞ。ここまで一気に釣れるのはやっぱ楽しいが、ここまでスレていないってのも意外だ。最初の町だからそういうのに配慮しているってことかねぇ?


「ちょいと表層に近かったのかもしれんか」

 つーか港の中なんか基本表層みたいなもんだし、どこを狙っても掛かっちまう…こりゃあ鯵を狙うのが若干面倒だな。こういう漁港には他にも小魚がいるだろうし、意外と種類を狙っての釣りってのは難しいのかもしれん。


「さて、傷む前に一気に血抜きと行くか」

 今回は獲物が小さいんでナイフを通すと身までも傷める可能性があるんで、鯖折りをやって行こうと思う。相撲の決まり手なんざやってどうすんだって思う中継好きの方々もいると思うが、その語源になった方法をやるってだけだ。


「イワシの背びれの手前を親指で抑えて支点にして、鰓辺りを掴んだら――力を入れて折る!」

 パチッ


 こうやって背骨と頭の繋がっている部分や鰓を引きちぎったらバケツに入れておいた海水に入れて一気に血を抜くってのが鯖折りっていう血抜きで有り締め方だ。こうやって一気に血抜きを行っておくことで生臭さの防止や腐るのを遅らせることが出来るし、名前のもとになった鯖のヒスタミン中毒の阻止にもある……本当は内臓も抜いて綺麗にした方が良いんだが、数が釣れる漁になるとそんなことも言ってられないから編み出された方法と言えるだろう。


「この後は一気に冷やすんだが、それはバケツに木箱の氷を移して寒材にしとけばいいだろ」

 あの時の手伝いが役に立ってんなぁ…やっぱ付き合いも大事か。

鯖折りはナイフを使ったりした締め方より簡単なので、捌きにくい小さな魚や数が釣れまくる時などにおススメ…まぁ見た目はグロいですが。


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