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その89

 港に残って網やらの点検をしている現地民に一言声を掛けて、船揚場――漁港にある船を陸に上げるための斜面のことだ。海が大時化やらの時に船が傷つかんように保管をする場所であり、その傷がついた場合の補修場でもある――にてバケツに海水を汲んで改めて仕掛けとラインを繋いだ。これでようやく準備完了だな。


「おっと、グローブを付けるのを忘れてたぜ」

 大事な火傷防止兼滑り止めだからな。きちんと着けて何度か握って開いてを繰り返して閉まり具合やらを確認する。あー…新品だから若干硬いか?ま、使い込んでいくうちに俺の手に馴染んでいくだろうし気にすることでもないか。


「ガイドの間をラインが真っすぐ通るようにロッドを伸ばしてと」

 振り出し竿はここで必ず、しっかりとロッドシャフトを伸ばし切らんと面倒なことになるぞ。いざ投げ釣りを始めようとなった時に緩んだシャフトがカンッて気の抜けた音と共に戻っちまう…んでさらにその衝撃で他のシャフトがさらに戻るってこともあるんで、最初の作業は肝心だぜ?


「後はサビキと同じく道具屋の前で受け取った餌に海水を練りこんで…スプーンやらがねぇしナイフでやるか」

 これでようやく準備完了だ。さて、何故かわからんが早く釣りに移れと急かされてる気がするんでやって行くとしますかね……充分に練った餌をナイフで籠に詰め込む。んでナイフに練り餌を少量乗せて――――落とし込む場所に撒く。


「最初に餌があるのを知らせんと始まらんからな」

 サビキに使うエサはコマセって言ういわゆる撒き餌なんでね…最初に集めんとどうにもならん。ふむ、一回しか撒いていない割に表層に結構集まってきてるか。こりゃもう落としてもよさそうだ。

「本当はアミ餌があればこれと混ぜて持ちの良い餌に出来たんだが…こんだけ集まるんなら大丈夫そうか?」

 おっと、眺めている場合じゃないな。集魚出来ているうちにその場所目掛けてロッドを移動させてリールベールを倒し、手で勢いを調整しながらもゆっくりと海中に仕掛けを落としていく。


「後は底についた反応が来たら」

 コンッ

「ベールを起こしてリールを巻く」

 海に潜っている仕掛けが見えないぐらいに巻いたら、続いてロッドを上下に数回揺らす。これで籠の中のコマセを撒く意味と、釣り針に付いているピンクのスキンをアミ――エビっぽいプランクトンの事だ…ただエビにもアミって名前が付いた種類がいるし、同じように釣り餌に使われたりと結構ややこしいぞ――と思わせる効果がある。


「そんで揺らすのをやめてまた揺らすのを数度繰り返す。周囲の餌が無くなったら回収してまた籠に詰め込んで投入するのを繰り返して掛かるまで続けるってのがサビキ釣り」

 ビクッ!

「……もう掛かったのかよ」

 せめて最後まで言わせてくれんか?

準備パートが長いのに掛かるのが早いんじゃぁ。ただ、実際に釣りの準備ってその日の海の様子や天候で使う道具が異なってくるので、地味に時間がかかるんですよね…


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