その6
一瞬目の前が光り輝き目を閉じると、少し潮を感じる香りが漂い始めた。
「おお、こんな感じに着くのか…みっちみちだな」
同じようにざわつき、友達を探すように動くプレイヤー達の群がる広場を潜り抜け門から出る。門の先には赤茶けた屋根に色鮮やかな赤や青色の壁をした家が何軒も立ち並び、その家たちの間の道を奥まで眺めると――港が見えた。
「いいじゃねぇか。これぞ思い描く海外の港町って感じの雰囲気だ」
肌をなでる風に再びの潮の香りを感じながらも、その発生源に向かい意気揚々と歩き始めた。
”今日はキャロットが安いぜー!”
”今朝焼いたばかりのまだ温かいパンだよ!一個買っていかないかい!”
”多少乱暴に扱っても欠けない包丁!こりゃ買いだよ!”
「この道町のメインストリートだったのか…客引きが多いったらありゃしない」
商魂逞しいと言えばいいのかもしれんが、歩く人歩く人に声をかけるから非常にガヤガヤとしている。その中を冷やかしもせず自分の目的に向かって歩いていくと、ようやくたどり着いた。
「ほう、映像で見た港よりは立派な気がすんな」
丁度漁を終えたのか帆を閉じた船の前には、男たちが何人もあつまり重そうな木箱を運んでいる…中身は言わずもがなだろう。
”おい、そこのドワーフのおっちゃん!”
その運び出し作業をしている中で主導している男がこちらを見ながら声をかけてきたように思えた。
”そこの今やってきてこっちを見てるお前さんだよ!”
「今やってきたドワーフのおっちゃん…俺か?」
周囲を見渡しそれが自分しか居ないことを悟ると、指を自分の方に差し一応俺のことかを聞いてみる。
”そう!今荷運びやってんだけど手が足りねぇから手伝ってくれや!”
「手伝ってくれって…」
見ず知らずのおっさんに頼むことか?
「俺はここに初めてきたばかりの外界人だがいいのか!」
”おう!初めてだろうか外界人であろうが犯罪者じゃねぇ限り構わねぇ!今日は大漁も大漁だから他にも応援呼んでんだがその間だけでもいいからやってくれ!”
「……まぁ道を聞くついでにこの世界の魚に触れられるって考えたらわるかねぇか。ちょっと待ってろ!」
ドタドタト音が出るような動きで――中肉中背にしたんだが、ドワーフにしたら背が下がって肉付きが良くなったんだよなぁ――漁船に近づき、他の男たちに混ざり魚介の入った木箱を受け取り始める。
「こいつは何処におきゃいいんだ?」
ゴンゾが受け取った氷がたんまり入った箱の中にはギラッと光る魚たちが……こりゃ鯖か?
「うお!降ろす手が少し増えたら良いと思っちゃいたが、流石ドワーフ!それを1人で運べるってんなら最高の人手だぜ!」
予想外の働き手に主導している男からは喜びの声が上がり、周りの男たちからもナイスバルク!との声がかかる。
「そいつはこっちに運んでくれや!塩漬けにすんだ!」
足が速いからすぐに加工すんのも同じってわけか。
「あいよ!」
その後も腕力を頼りにされ、結局応援が来た後も最後まで荷運びを手伝うのだった。
鯖の味噌煮が食べたくなりました。
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