その30
いつもよりちょっと長め。
「わーったからそんな大きな声で言うな。船員どころか市場のやつらにも聞こえるぞ?」
「うっ…!あんたら何も聞いてないね!?」
”俺らはただ作業してるだけっすよ姉さん!”
「ならいいわ…からかわないで下さい」
間違いなく聞こえてるが、まぁ温情ってわけだな。ほれ、そこの寄ってきた野次馬も帰りな――馬に蹴られたくはないだろ?
「いやすまんな。船の金に自分の金も預けてるってなりゃ、絶大な信頼を持たれてるってのが分かるもんでね」
「それはまぁ。彼はだらしないですから、私が支えないとって」
気恥ずかしさはあるが、どこか誇りに思ったような表情で宣言するシキルの嬢ちゃん。あんな感じだが、何だかんだ慕われてはいるんだな。
「ならこの後の確認が大事ってわけか。外界人だし初対面ではあるが、今度会ったときにギルネットにキチンと確認はしてるってのは伝えるぜ」
「それは有り難いです!ゴンゾさんはギルと違って物の確認は間違いなさそうですので」
そらまぁこの歳まで特に問題を起こさずに勤めたし、一応それなりにでかい会社の元管理職だからな…指示をするにも現物や状況がわかってないと意味がない。にしても信頼されてないなギルネット――いや逆に信頼されてるのか?
早速確認作業を木製のクリップボードの上にメモを載せて始めるシキルを他所に、ゴンゾは近くにいる船員に声をかけ始めた。
「そこのお前さんちょっといいか」
”俺ですかい?”
「そうそう…(作業しながらでもいいから、声を抑えて聞いてくれ)」
”…?(わかりやした)”
すり足でゆっくりと声をかけた船員に近づくゴンゾ。
「(こんな良い物件で好意も持たれてんのに、まったく気づかんのかギルネットは?)」
”(あーその話ですか。そうなんすよゴンゾのおじき…たまに2人きりにしたりもするんですけど、兄貴はあの調子で鈍感でしょう?んで姉さんは超奥手だから進展なしでして)”
こいつらもはよくっつけと思って行動を起こしてはいるんだな……こりゃ発破を掛けた甲斐があるかもしれん。
「(また機会があったら2人きりにしてみろ。ギルネットに仕事の話で2人きりで食事でもしろってそそのかしてあるから、進展があるかもしれんぞ?)」
”マジすかゴンゾのおじき!”
「ん?何がマジなんだい?」
驚いて普通の声量で話してしまった船員の声を聞き、何かあったのかと振り向くシキル。
「いや、これから根魚を釣りに行くんでな。余ったらいるかって話してたんだ…こいつも作業はちゃんとしてたぜ?なぁ?」
”も、勿論でさ!”
「……確かにちゃんと箱は洗い終わってるみたいですね。それにしても根魚ですか」
「おう、さっき依頼に向かうって言ったろ?ギルドの道具屋の店員から地図を貰ったんで磯への道が分かってんだよ」
「あの子がそんな物を…あの、良かったらペルセベスもお願いできますか?」
「ペルセベス?確かカメノテの仲間だったか」
確かヨーロッパの一部では高級食材だったはず…日本じゃ見た目で気持ち悪がれてるがな!
「どれぐらいいるんだ」
「正直あればあるだけ嬉しいのですが、そうですね…両掌2杯分ぐらいですかね」
「そんぐらいなら大した手間にならんしいいぞ。どうせカサガイ取りで見つかるだろうしな」
「ありがとうございます!親が好きなのですが仕事に追われて取れに行けないのと、この辺りではそこまで積極的に食べられない物なので市場に並ばないんです」
「まぁ見た目が変わってるからなぁ。正直海老やらも似たような感じだと思うが」
普段から見慣れてるが、改めて考えると大分変だからな甲殻類達は。因みにカメノテもその中に含むぞ。
「ですよね…この後漁獲量の報告と、マジックバッグに有る残りの依頼の魚を届けに行くのでギルドで依頼として受理させていただきます。報酬はそちらででも大丈夫ですか?」
「おう、別にギルネットみたいに現物で後で報告するってのでも構わんぞ」
「そこは規則通りにしておきたいので!というかギルはまたそんな事を……後で謝罪しないと」
あれ横紙破りだったのか…どおりで副ギルマスのジグってのが微妙な顔をしてたわけだわ。
実はギルネット自体のランクが結構上で、筋が通っていれば多少の無茶が通せるというのもあったりします。後は副ギルマスから見て問題なさそうな人物だったのも理由です。
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