その102
そんな訳でまた食いたくなったら依頼を貼っておくんで頼むわ!と言った後に依頼人の爺さん――シェルブっつー名前らしい。依頼者の名前ぐらいは覚えとけって言われたが、塩漬け依頼だから見事にその部分だけ掠れてたって言ったら爆笑してたわ――は帰って行った。簡易的な義足だからか杖を使って補助をしちゃいるが、確かな足取りをしてんな。
「あの爺さん、まだまだ現役で働けそうだな」
「我々もそう思ったのですが、腕が思うように動かないと引退前に言っていたそうでして」
「そこらへんはどうにも出来んか」
老いってのはどうしても蝕んでいくもんだからなあ。油物への耐性に関節の動かしやすさ、更には考えていることが上手くできなくなるやら良くないことだらけだ。それでも今まで蓄積されてきた経験でどうにかするしかないんだがよ。俺も昔みたいに何も考えずにかき揚げやらをたらふく食いたいもんだ…油断するとすぐに胃のもたれが来やがるぜ。
「さて、用も終わったし俺も帰るとするか」
「我儘にお付き合いいただきありがとうございました」
「構わんよ、こっちからすりゃ有用な情報が手に入って大満足だ」
去り際にシレっとシュルブ爺さんがここらで釣れる魚と場所が書かれたメモを渡してきたんだよ。ギルドの資料室よりも正確に書いてあるんで存分に使いなって言うもんで、副ギルマスが呆れてたぜ……
「どうせならこのメモ使うかい」
「いえ、シェルブさんから直に渡されたのですから活用なさってください」
「そうか?」
「ただ…出来ましたら時間のある時に資料室の担当者に見せていただけるとありがたいです」
まぁ、そうした方がいいよな。チラッと見る限りでも場所ごとの魚種や群れの濃さやらが書かれていて、俺一人が抱えていたら勿体なさすぎるぐらいの情報が載っている重要書類だ。こういうのは全面的に広めて他のやつらにも役立ててもらった方がいい…沖なんざまだいけねぇしよ。
「にしてもよくここまでの情報を集めたもんだ」
「恐らく漁港でギルドの漁師と話して集めたのでしょうな」
「漁港?もう引退してんのに行ってんのか」
「あくまでもギルドの加工職人として引退しただけで、ギルドを抜けたわけではありませので」
「そうなのか」
そういやギルド自体を退会したとは言っていなかったか。
「ええ、ほぼ毎日漁港内のどこかで釣りを楽しんでいるようです。漁港で有れば比較的安全ですし、何かあってもうちの者たちが基本居ますから」
ほうほう、あんなに元気なら何かしらはやっているとは思ったが俺とお仲間か。そのうち出会うこともあるだろうし楽しみにしておこう。ああいう手合いが使う釣り具は、年季が入ったものをカスタマイズしていたりして面白いんだよ。ただなぁ…
「本当に腕は動きにくくなってんのか?」
「私には何とも…」
釣り道楽爺さん。
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