Episode:01 宝くじが当たったぞ!
すみれは、ある日、大当たり男に遭遇してしまい——?
向こうのほうから誰かが歩いてきている。その行列は絶えることがない。何せ、廻間宝くじ売り場で、1等と2等が当たったのだから。
それを見て、ニコニコ笑っている店員の名前はすみれだった。すみれはあの日のことをよく覚えている。当時、廻間駅の近くに店を構えた宝くじ売り場は三日で終わると言う噂が囁かれていた。
「それが——、これだもんね……」
すみれは駅を見る。行列は、高架下の横断歩道で一旦分断されていたが、バスがいなくなると、小学校の遠足のように、みんな一挙にわぁっと駆け出した。この辺の人は交通に詳しい。この時刻はバスがいなくなるのだ。——それはすみれも知っていたが、今まであまり活かしたことはなかった。
すみれはまだまだ若いほうだと思っているけれど、流行に疎いから、地元の人から、「あんた四十にしては老けてないネェ、自慢できるよ」なんていわれている。
しかしすみれは、今流行に乗っている。
今の流行は、ここ、廻間宝くじ売り場なのだ。
*
宝くじにも時間にピークというものがあって、昼下がりくらいになると【昼の部】は終わる。昼の部は平日こそあまり売れないものの、休日はそこそこ売れた。
あの日は平日だった。雲ひとつなくて、爽やかな空だ。
すみれは、学生の時、国語が苦手だったが、「天高く馬肥える秋」ということわざだけ、なぜかは知らないけれど、覚えていて、好きだった。
だからか、思わず、「天高く……」と呟いた。
そして、昼下がり——。
「あの……」吃りながらも、ある青年が宝くじを買いに来ていた。
「あ、すみませんが十九歳以上でしょうか? 法令により十九歳未満は宝くじ売り場が購入できないことになっております」
すみれは機械のように、何度も練習させられていた言葉のレパートリーのうちの一つをいった。そういえばこれは特に練習していた。どうしてだろう。いまだにそれはわからない。
「あ、身分証明書ですね」彼はポケットに手をやると財布を取り出し、中から身分証明書を見せた。「1995年生まれ 飯田翔——」と書いてあった。
「お見それしました。それでははんださん——」
「いえ、いいだです」
「ああ、すみません……」すみれはなぜなのか誤ってから、いった。「えっと、お買い求めになられますのは……?」
「あ、スモールビッグ1口と、メガスモール2口、それと十円ビッグを二十口お願いします」
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