第97話
第97話 蛇神との闘い3
第三形態となる蛇神ユベルは、異形をしており、双頭の頭は残して腹部には、顔らしき物が浮かび上がっていた。
フィルは、変身した蛇神の能力が変わっていることにすぐに気が付いた。
なぜなら、今までその場を動かなかった蛇神がフィル目掛け一直線に攻撃を仕掛けてきたためだ。
フィルは、魔法使いであり近接戦闘を得意としない。
魔法発動させるためにも時間や距離を保つ必要がある。
よって近接攻撃にはめっぽう弱い。しかし、強力な魔法障壁があるおかげで今までは難を逃れることができた。
フィルは、魔法障壁を張りながら、攻撃を見極め回避している。
攻撃は反撃手段がない限りには、基本的に受けてはいけない。
魔法障壁があるとはいえ、簡単にそれを貫いてくる可能性もある。どれほどの技量を持っている相手なのか判断がつかないため、フィルは回避に徹していた。
しかし、蛇神ユベルの攻撃は、複雑な動きをしており、回避に専念しているとはいえ、近接戦闘が苦手なフィルにとってはとても厄介であった。
そして、フィルの回避を搔い潜り、蛇神ユベルの複雑な軌道をした攻撃が魔法障壁に衝突した。
魔法障壁は、破壊されることはなかった。しかし、フィルは口から血を吐いた。
「ごはっ!・・・!?」
一体、何が起きたか理解できなかった。
魔法障壁で攻撃は完全に防いだ。しかし、ダメージを受けた。
フィルは、もともと天使ではあるが肉体はヒューマンのそれである。亜人や獣人ほど強靭な体をしていない。魔法障壁によってダメージをなくすことで今までは戦ってきた。
今はその魔法障壁が意味をなしていない。
フィルは考えた。
この第三形態の能力は、鎧通しのような障壁を貫通する効果なのだと。
よって、魔法障壁は意味がない。攻撃を回避することに専念するしかないと思った。
しかし、それでは反撃の一手が出せない。
複雑にうねり、当たれば強烈な一撃となる攻撃を避け続けるのは、限界がある。
相手も一手も二手も先を考えて攻撃してくる。
物言わぬ蛇神ユベルは、フィルめがけて猛攻を仕掛けてくる。
魔法障壁に蛇神の攻撃が当たる度にフィルにダメージが入る。
間髪入れない攻撃に反撃の隙がないフィルは、『黒紫電』を放つ余裕がなかった。
「くっ!何とかして隙を作らないと・・・。」
詠唱が不要であるフィルでも接近戦に持ち込まれてしまえば、魔力を練る時間もなく魔法は発動できない。
本来であれば従者たちが隙を作り、強力な魔法を打ち込むのがいつものパターンだが、今はそれができない。
フィルは緊急用に作っていた呪具を使うことにした。
といっても、簡易的な目くらまし程度であり、さほど効果は期待できない。
小袋を蛇神に投げつけると、黒い煙幕が辺りに広がった。
目くらましのほかに、刺激臭のある煙は、魔法を放つ時間を稼ぐには十分のはずだった。
フィルの姿を見失った蛇神は、手あたり次第に巨木に攻撃している。
巨木に身体を打ち付ける衝撃がフィルを襲った。
「ぐっ!」
最初は理解できなかったが、フィルの考えていた鎧通しの効果は間違っていた。
蛇神ユベルの第三形態の効果は、自分が受ける物理ダメージを相手に転換するものだった。
巨木に体を打ち付ける衝撃がフィルに転換され、魔法障壁を通り抜けフィルはダメージを負う。
自壊攻撃が転換されるため、フィルに攻撃しなくてもダメージを与えることができる蛇神であったが、魔法を撃たせまいとフィルに攻撃していた。
目くらましでフィルを見失った今、自壊攻撃でフィルに遠隔でダメージを与えている。
巨木にたたきつけられる感触を体に受け、意識が飛びそうになるフィル。
そこに現れたのは魔力切れ寸前のクロムウェルだった。
「フィル様苦戦しておられますね。」
しゃべっている余裕はフィルにはない。
クロムウェルは、巨木に自壊攻撃を仕掛けている蛇神ユベルに近づき、残り少ない魔力で攻撃した。
しかし、到着したばかりのクロムウェルは蛇神ユベルの能力を理解していない。
クロムウェルの放った魔法は衝撃を与える爆発する魔法だった。
「『ヘイト・バスター』」
蛇神ユベルは爆発した。と同時に、クロムウェルも爆破した。
上半身が吹き飛び、跡形もなく吹き飛んだクロムウェルの下半身だけがその場に残った。
その一瞬、フィルは効果対象から外れたようで、蛇神ユベルの攻撃から解き放たれた。
しかし、その場に手をつき血を垂らしながら、意識を保つので精一杯であった。
蛇神ユベルがフィルに気づき、近寄り最後の一撃を加えようとしたとき、背後では、クロムウェルの下半身に黒い影が集まり始め、上半身を築いていく。
「悪魔は魔法では死にません。私にも一応破壊耐性がありますので、フィル様には手を出さないでもらえますか?」
蛇神ユベルが振り返ると完全に元の姿に戻ったクロムウェルが立っていた。
「なにやらおかしな能力をお持ちのようで。魔法を反射する効果と言ったところでしょうか。」
「ち、違う。クロムウェル・・・。物理衝撃を反射させるんだ・・・。」
「おや、フィル様大丈夫ですか?私は回復魔法を使えませんので、自力でこの状況を乗り切ってください。あと、魔力も残り少ないので、あと一、二発が限度です。突破口をお考え下さい。」
「・・・。」
歯を食いしばって立ち上がり、魔力をため始めたフィル。
クロムウェルが蛇神のヘイトを買う。
手の先から出た鋭利なかぎ爪で蛇神ユベルを攻撃している。
その攻撃はすべてクロムウェルに跳ね返り、体がボロボロになっていくが、黒い靄が体に集まりだし、回復する。
悪魔は、そう簡単に死なない。
それを逆手に取り、攻撃を繰り返すクロムウェル。
「『ヘイト・バスター』」
またも巨大な爆発が起こり、辺りに砂埃が舞う。
フィルは、この機を見逃さず、最後の魔法を放った。
「『黒紫電』」
暗雲から落とされた黒い雷は、蛇神ユベルを直撃した。
雷が発生させる音速を超えた衝撃派がフィルを襲った。巨木に叩きつけられ完全に意識を失った。
蛇神ユベルは、大量の電流が体をめぐり、即死した。
クロムウェルは、ゆっくりと上半身を再生させていたのでことの顛末を見ることができなかった。
「これはまずいですね・・・。」
姿を復元したクロムウェルは、フィルの状態をみた瞬間、魔力切れでその場に仰向けに倒れた。
蛇神ユベルの第三形態を倒し、この世から蛇神ユベルの恐怖を取り去ったフィルだが、身体へのダメージはかなりのものだった。
辺りは蛇神ユベルの猛攻で巨木は破壊され、鬱蒼とした森に光が差し込んでいた。
フィルとクロムウェルの両者は完全に沈黙し、巨木と共に倒れたままだった。
激戦の跡地にエルフの集団が集まって来た。
他のエルフの亡骸やフィルとクロムウェルを回収し、フィニアに急いで運んだ。
フィルが蛇神ユベルと激戦し、大ダメージを追っているころ、魔大陸のリンと紅と茶々丸は、赤褐色の荒野を未だ歩いていた。




