第5話
第5話 学園生活
従者4人を召喚し、ついにフィルは魔術学校へ入学した。
「くれぐれもほかのヒューマンや種族に感づかれないようにお願いね。」
「承知いたしました。」
王族であるフィルに与えられた学校の寮の一室はとても大きく、皆が寝泊まりするには十分であった。
「授業の時は、基本的にリリィが側にいてくれたらいいよ。」
「かしこまりましたわ。ご一緒できることこの上ない喜びでございますわ。」
「我々従者は、学園内を自由に利用できるでありんすか?」
「もちろん。生活に必要なものの買い出しとか、お願いすることが多いと思うし、特に何もなかったらのんびりしてていいよ。」
「そうはいきません。フィル様に悪意を持って近づく者や周囲の警戒、索敵、王家への連絡、勉学の向上全てにおいて、尽力させていただきます。」
執事のリンがキリリと言った。
「リリィ。ご無礼のないように、それと厄介ごとは一人で解決しようとしないことを約束しなさい。」
「リンに言われなくてもわかっていますわ。何かあれば眷属を使って知らせますわ。」
「主、すぐ帰ってくる?」
藍はもじもじと聞いてきた。
「う~ん、授業の内容によるけど、早く帰ってくるつもりだよ。どうしたの?」
「あとで街を案内してほしい。」
「そうでありんすね。散歩がてら店の配置やフィル様の趣味嗜好を確認するのも我々の仕事でありんす。」
「そっか。じゃあ、明日にでも街のなかを案内するよ。じゃあ、そろそろ授業だ。リリィ一緒に来て。」
「はいですわ。」
室内でも日傘を差しているリリィは豪奢なドレスを身にまとっていることもあり、かなり学園では浮いている。しかし、第四王子の従者ということと、美人な顔立ちもあり、誰もそのことについて言ってくる者はいない。
「最初の授業は何だっけ?」
「魔術基礎ですわ。フィル様にとっては退屈な時間になりそうですわね。」
「そんなこともないさ。新しい魔法のインスピレーションになるかもしれないし、僕は実践と経験がほとんどないから、実技の時間は重要なんだよ。」
「そうなのですか。それだけの魔力を保有しているのに試したことがないとは不思議ですわ。もう何か国かはフィル様に滅ぼされたと思っておりましたわ。」
「いやいや、そんなことしないよ。戦争中でもないんだから。」
「フィル様の気まぐれで滅ぼしたとしても、抵抗できるものなんてほとんどいなのでわ?」
「そこら辺も含めて僕は最近のこの世界のことあんまり知らないんだよね。歴史は知ってるけど。」
「まあ、私を含め、リンや翆、藍たちに勝てるものも、ほとんどいないでしょうね。S級冒険者が少しは歯ごたえがあるくらいですわ。」
「そうなんだ。」
雑談をしながら学園内の廊下を歩いていると、最初の教室「魔術基礎」についた。
―――――
「はい。私、魔術基礎を教えている、バーキン・チャンバーと言います。早速ですが、授業を始めますね。」
この教室にはヒューマン以外にも亜人が在籍しており、全部で100人程度席について、バーキンの話を聞いている。
魔術に長けた者を広く募っている学校ということもあり、いろいろな種族がいる。そんな中、ヒューマンの貴族出身の者は亜人を見下す傾向にあった。
授業中、紙屑を亜人に飛ばしぶつけるという幼稚なことをしている貴族がちらほらいた。
フィルは嘆息した。亜人だろうがなんだろうが、同じ学友なのにとフィルは憤りを覚えた。
「魔法には、火、水、地、風、光、闇、陽、陰の8つの属性があります。これらは、火、地、光、陽の陽グループと水、風、闇、陰の陰グループに分けることができ、各々の相性があります。複数の属性を同時に発動することはとても困難ですが、努力次第で複数属性を使用することもできます。皆さんは、初等科なので、単一魔法を極めてもらいますが、そのなかでも下位魔法を頑張ってもらいます。いいですね。」
「子供の遊びですわ。」
「しー。」
挑発的なことを言うリリィをフィルはたしなめた。
「まず基本的に下位、中位、上位のこの3つしか段階は存在しません。何事も基礎ができてから次のステップに進みましょう。高等科に行けば上位魔法を使う者も少なくありません。努力次第で魔力量の総量を高め、しっかりとした詠唱が出来れば、誰にでも発動させることが出来るようになりますので、安心して勉学に励んでください。」
すると、バーキンは各生徒に白い紙を渡した。
「手元にある紙は、自分の得意属性を表す紙です。魔力を注ぐと自分の適性に合わせて紙が変化します。陽と陰に関してはこれでは測れないので、何も起きない場合は、陽か陰だと思ってください。火属性の場合は、紙が燃え、水属性なら紙が濡れます。地属性の場合は、ボロボロと崩れ落ち、風属性ならズタズタに割けます。光属性なら紙が発光します。闇属性なら紙が真っ黒になります。では、各々魔力を注いでみてください。」
ここで一つ、複数属性について前もって学んでおこう。
複数の属性を使えるものは、魔力で発動させる属性を切り替えている。要するに意図的に出力する魔法を1つに絞っている。それを混合するのは、また別の資質であり、詠唱魔術に関しては混合魔法を前提としていないため、発動させるには、無詠唱魔術が必須となるとても高度な魔法である。
要するに複数属性の適性があるということと、それを混合して使うということは雲泥の差があるということになる。
今回の魔法紙による属性の認識は、あくまでも適性と言っているが、自身がどの属性の魔力を流し込んだかで決まるものであり、この魔法紙だけでは、複数属性を持っているかは確認できない。
「適性って言ってたけどちょっと違うんだよね。」
フィルは紙に魔力を流し込んだ。すると、紙はくしゃくしゃと縮まり、最終的には消えた。
「え?フィル様、今何をなさったので?」
「し~!。」
「申し訳ありませんわ・・・。」
「陰グループの応用だよ。陰グループはマイナスの要素を持っているんだ。単一属性では発動しないけど、4つ同時に発動させるとマイナスのエネルギーで物体を打ち消してくれるんだよ。」
フィルはこそこそとリリィに言った。
「知りませんでしたわ。そもそも、4つ同時に混合させるなんて神業ですわ。」
「まぁそこら辺は、僕だからってことで。」
ごにょごにょと話していると、各自の属性を確認し終えた生徒たちが、自分の属性に目を輝かせていた。
「では、そろそろ魔法紙を回収しますね。燃えて炭になったものや、ボロボロになったものも回収しますので、私に発現した属性を報告ののちにこの箱に入れてください。」
「ん!?どうしよう消しちゃったよ!さすがに無くなったものを復元するのは無理だ!」
フィルが焦っている様子をみたリリィはあることを思いついた。
次々と生徒がバーキンの下へ報告をしている。そろそろフィルの番がくる。
「『時間遅延』」
リリィは唱え、辺りの時間の進みがものすごく遅くなった。その中を高速で移動し、箱の中から黒くなった紙を取り出し、フィルの元まで戻ってきた。
「フィル様、これを。」
「時間をいじったんだね。ありがとう、助かったよ。」
「では、次の生徒。報告をお願いします。」
「はい。フィル・バン・アドレニスです。発現したのは、闇属性でした。」
「第四王子のフィル様ですね。こんな子供だましのような授業退屈だったでしょう。基本的な授業を一通り終えましたら中等科への編入を進言しておきますね。」
「え?なんでですか?」
「お一人で悪魔憑きを討伐した話は学園にも届いておりますよ。そこまでの実力者なら飛び級してもらわないと、そのお力を存分に振るえないかと。」
「あぁ。そうですか。わかりました。」
「編入の手続き等はお部屋の従者様に送っておきますので、よろしくお願いします。」
「わかりました。」
ふーっと、リリィのファインプレーで難を逃れたフィルは、早々に中等科に編入する話を聞いて内心びくびくしていた。
なぜなら、中等科には、実の姉の王女メルト・バン・アドレニスがいるからだ。
フィルの兄弟は、全員で5人だ。第一王子のガルフ・バン・アドレニス、第二王子サリープ・バン・アドレニス、第一王女メルト・バン・アドレニス、そのメルトと双子の第三王子アルト・バン・アドレニス、そして第四王子のフィルだ。
アルト兄さんはとても優しい人だ。しかし、狂気じみた愛着をフィルに向けているメルトはやばい。
基本的に王族であっても学園に入学したら余程のことがなければ、王宮には帰らない。しかし、メルトは何かと理由をつけて帰ってきては、フィルの世話をしたがっていた。双子の弟のアルトとは違うなにかを愛玩するような、感じがフィルにとっては怖気を感じさせた。
フィルは6歳。メルトとアルトは15歳。サリープは18歳。ガルフは21歳である。
可愛がられるのはいいことだとは思うが、メルトは王宮に帰ってくるとフィルにべったりだったので、嫌気がさしている。
「これは中等科もさっさと飛び級だ!」