第49話
第49話 天使の剣
フィルの従者たちが悪魔を退治しているころ、フィルは堕天使たちに対抗できる武器の作成に取り掛かっていた。
名工ギルドの工房の一室を借りて、試行錯誤していた。
「天使を殺すってなるとまず、ルーン文字数が多くなっちゃうんだよな・・・。108文字か。強度の高い鉱石ってだけじゃ、難しいな。」
「なんじゃ?また行き詰っているのか?」
ダダンが話しかけてきた。
「ルーン文字を180個描きたいんだよね。もっと言うなら200近く。」
「ぐぬぬ。単なる鉱石では、もう限界以上じゃな。合金であればもしかしたら行けるかもしれんが、何を組み合わせればよいのか・・・。」
「アダマンタイトより硬いものを作りたいんだよね。」
「硬いと言ってもどういう状況化にもよるのじゃぞ?例えば、単純な硬度なのか、変形しにくいのか、瞬間的な硬さなのか、持続的な硬さなのかなどいろいろなんじゃ。」
「そうだねぇ。作ろうとしている武器はスティレットのような刺突武器なんだ。だから瞬間的な硬度があれば、良いと思う。」
「それなら、ルーン文字の数で既存の鉱石を強化するのはどうなんじゃ?」
「硬度強化のルーン文字も施すってことか。並大抵の強化じゃダメな気がするんだ。そもそも、200近く文字を描くことができる鉱石自体がないと意味をなさないからなぁ。」
「では、条件としたらまず、200文字程度かける金属ということじゃな。しかし、塑像ならどうなんじゃ?」
「200文字の塑像かぁ。そしたら硬度自体関係なくなるのか。」
「武器が文字だらけになってしまう難点があるのぅ。刺突効果にも弊害が出てしまうかもしれん。」
「・・・。うーん。掘るのと塑像の併用だけじゃ。まだ相手に突き刺すことができそうにないな。」
「何を攻撃しようとしておるんじゃ?」
「あ、いや・・・。最強の盾すら貫く勢いで作りたいなと・・・。」
「今のところは、アダマンタイトが最高硬度じゃろうな。これ以上硬い物だと加工するのも難しくなってしまうのぅ。」
「そうかぁ。じゃあ、いかにして、付与魔術で硬度を上げるかだよね。」
「そうじゃな。塑像は、その描きたい200文字で使うとして、フィル様の光線彫りで掘れる最高の付与をアダマンタイトに施す必要があるのぅ。アダマンタイトにはどれくらい彫刻ができるんじゃったか?」
「アダマンタイト108文字だよ。これ以上は掘るのは無理だった。」
「ということは、刺突強化、硬度強化、鋭利強化、魔力循環その他いろいろを入れたらすぐに終わってしまいそうじゃな。」
「そうなんだよ。同じルーン文字を何回書いても重複して効果を得られなかったんだ。だから、別の方法で倍化出来たらいいなって思ってるんだけど・・・。」
「そうじゃなぁ。塑像なら効果を重複できるんじゃろ?」
「うん。出来るよ。」
「ルーン文字を掘ったところを塑像で完璧に塞いだらどうなるんじゃ?」
「え?やったことない・・・。」
「フィル様なら掘ったとことに寸分の狂いなく塑像出来るんじゃないのか?」
「出来ると思う。ちょっとやってみよう。」
フィルは、ダダンの提案を受け、アダマンタイトのインゴットに刺突強化のルーンを光線彫りした。
その後、掘られた溝と全く同じのルーン文字をアダマンタイトを使い塑像した。
傍から見ると特に凹凸のないアダマンタイトのインゴットが出来上がった。
「刺突効果しかつけてないから何かに突き刺してみよう。これ板状だから刺さんないと思うけど。」
「これならどうじゃ?アダマンタイトの板金じゃ。これにぶつけてみぃ。」
フィルはルーン文字の施したアダマンタイトのインゴットを投げ、板金にぶつけた。すると、インゴットはただの塊にも関わらず、同じ高度の板金を貫いた。
「は?」
「え?」
二人はその結果に驚愕した。
「いやいや、単純に倍とかそういうレベルじゃないぞ。」
「貫く要素ゼロなのに、ぶち抜いたよ!」
「これはルーン文字を彫刻して、そこを完璧に埋め立てた場合ルーン文字の効果が劇的に強化されるということじゃな。」
「同じ効果を重複することができて、かつその効果は倍以上。これなら、あいつらにも手が届く。」
―――――
そして、それは完成した。制作時間は、約3ヶ月。特に塑像による天使を殺す能力を付与するのに時間がかかった。
「出来た。天使の剣。剣って言っても刺突武器なんだけど。」
その武器は、ねじれるような刃先とそのまま柄が繋がっており、完全に刺突特化型の武器であった。
「しかし、作るのに相当量の魔力が持っていかれた・・・。そんな簡単に量産は出来ないな・・・。あと、4本作るのか・・・。かなりしんどいけど、そんなこと言っていられないよね。」
フィルは学園生活を送りながら、その他の時間は全て天使の剣の作成に費やしていた。
ここで、天使の剣の説明をしておく。
この武器は、悪魔殺しの短剣の上位互換であり、天使のみならず悪魔も殺すことができる。
天使殺しとして、利用することができるが、フィルはこれを堕天使たちに刺しても死なないと思っていた。
あくまでも、天使にダメージを与えることができる代物であるが、膨大なエネルギーを保有する堕天使を一撃で殺せるほどの攻撃力はない。よって、一撃で葬り去ることができるまでHPを減らす必要があると考えていた。
現状できる天使にダメージを与える方法というのは、天使の剣を何回も突き刺すことである。
それを堕天使たちが簡単にさせてくれるとは思わない。さらに言えば、どの程度刺せばいいのかという指標もない。
ダメージを与えるすべがなかった現状において、天使の剣は画期的な武器だが、それをもってしても倒すことは難しいと考えるフィルだった。
「・・・。出来たけど。今のままじゃ。到底敵わないよな。」




