第46話
第46話 傲慢の悪魔2
「藍、今回は出し惜しみしている場合ではありんせん。」
「了解。」
「元第一騎士団ジャック・ボーガン。我を愚弄するものを排除する!」
ボーガンは、水星剣アクアリウゼムを振りかぶり、踏み込み一閃、横切りを放った。
水星剣アクアリウゼムの能力はとてつもない切れ味であり、空気を切り裂き見えない刃となって翆と藍を襲った。
すぐさま、大鉄扇を大きく広げ盾として、身を隠した二人だった。
「フィル様に作っていただいた大鉄扇の強度よりも高い攻撃ではなさそうでありんすね。」
扇の影からアサルトライフルの銃口を出し、氷結弾を撃ち込む藍。
音速を有に超えているはずの弾丸をボーガンは水星剣アクアリウゼムで切り落としている。
「人間離れしすぎ。」
「身体能力の向上も悪魔の仕業でありんしょう。しかし、すでに厄介でありんすね。あの剣、振り下ろすたびに見えない刃が飛んできて反撃の仕様がありんせん。」
「絶対零度使う!」
「魔力を溜めるまでに時間がかかりすぎでありんす。距離を詰められたらおしまいでありんすよ。」
「じゃあどうするの?」
「今考えているでありんす。」
「隠れてちまちま銃で攻撃するのが、貴様らのやり方か!どちらが悪魔かわからんな!」
そういうと、水星剣アクアリウゼムを大きく振りかぶり、叩きつけるように振り下ろした。
「剣技!『打ち水』」
その斬撃は巨大な滝が迫ってくるかのように、地面ごと削り飛ばしながら翆と藍に近づいてくる。
藍が撃ち込む氷結弾は細かい塵となり、消えてなくなっていく。
「大鉄扇投扇興奥義『澪標』」
翆も迫りくる斬撃と同様の大技をぶつけた。
質量のない斬撃同士がぶつかり、砂埃だけが立っていく。風を切る音が辺りに鳴り、さばき切れなかった斬撃が、翆と藍、そしてボーガンを襲う。
翆の放った対悪魔の斬撃はボーガンに当たっていた。しかし、叫び声が聞こえない。通常なら耐えられずに悪魔は叫び声をあげるはずだが、その声が聞こえない。
「なぜ悪魔に効いていないんでありんしょう。」
「我は悪魔ではないと言っているだろう!」
「悪魔が憑りついているってフィル様の作ったマジックアイテムが言っているんでありんすよ。」
「信じられるか!」
聞く耳を持たないボーガンは、素早い動きで距離を詰め翆に切りかかった。
大鉄扇で応戦する翆。ボーガンの連撃を捌ききっている。
すると、翆の後ろに身構えていた藍が、地面を凍らせスライドするようにボーガンの横に回り込み氷結弾を撃ち込んだ。
「獲った。」
どのような体制でも不可避の一撃がボーガンの鎧を捉えた。そして、氷結弾は身体を貫いた。
「がは!」
わき腹を貫かれたボーガンは血を吐いた。
しかし、悪魔の断末魔は聞こえない。
「何かおかしいでありんす。藍の銃弾が悪魔に効いてないでありんす。」
「何かの能力かも。」
「くそっ!二対一の状況。どちらが卑怯だ。貴様らこそ悪魔だな!」
ボーガンは明らかに致命傷を負っているのにもかかわらず、歯を食いしばり立っている。
ただの老兵を蹂躙しているようにしか見えない状態になってきた。
「真正面からであれば銃弾を切ることができる反射神経はヒューマンにもあるかもしれんせんが、藍の撃つ銃弾は速度が違いんす。人間離れしているのは明らかでありんす。」
「でも、悪魔が体の中にいない。」
「どこかで操っているということでありんすか?」
「でも、見えない。」
傲慢の悪魔の能力に薄々気付き始める翆と藍。姿が見えない悪魔が、ボーガンを操っていると判断した。しかし、肝心の悪魔がどこにも見当たらない。
「この悪魔どもが!」
ボーガンは、貫かれたわき腹から血を垂らしながら、再び翆に切りかかってくる。
このまま捌き続ければ、ボーガンは失血死する。
打開策がないまま、命を取ることが憚られた。
「お姉ちゃん!このまま撃ってもいいの!?」
「考えているでありんす!」
「うおおぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げ、一心不乱に剣を振り続けるボーガン。
しびれを切らした藍が、ボーガンに向けて攻撃した。
「『水手榴弾』」
投げ込まれた水球は炸裂し、ボーガンを吹き飛ばした。そして、追い打ちをかけるかのように、藍が氷結弾で足を狙撃した。
瞬く間に右足が凍り付き、動けなくなったボーガン。
「くそぉ!」
ボーガンは剣を振り回し、斬撃を飛ばしてくるが、大鉄扇に弾かれてしまう。
ボーガンは力が入らなくなっているのか、動きが鈍くなっているように見える。
「しかし、どうなっているでありんすか。」
「わからない。」
すると、ボーガンと翆と藍の戦いを見ていたマルスが叫んだ。
「翆殿!上です!」
マルスの言う方に目を向けると、藍の『水手榴弾』の水滴が空中の見えない何かにへばり付いていた。




