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【2025年7月30日完結!】天界の司書、転生したら最強でした!  作者: 愛猫私


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第44話

第44話 騎士団の異常


 第一騎士団長のジャック・ボーガンは、訓練場で一般騎士の相手をしていた。

 ジャック・ボーガンは、フィルが10歳になった時に年齢を理由に自ら騎士団長の座から降り、一般騎士に降格していた。

 しかし、その実力はただの騎士ではないため、新たな人材を育てるための育成係として普段の練習から一般騎士と模擬戦をしていた。

 

 「そんなことでは、魔物にすぐにやられてしまうぞ!」

 語気を強め、指導するジャックに第二騎士団長となったガルフが声をかけた。


 「ボーガン隊長。少しお話しをしてもよろしいですか。」

 「なんだガルフ。我はもう隊長じゃないぞ。かしこまらなくていい。」

 「いや、私の師匠である以上、話し方は変えられません。」

 「ははは、第一王子に敬語を使わない我の方が失礼だな!」

 「いいえ。そんなことはありません。騎士団は実力が全てですから。」

 「そうだな。それで何ようだ?」

 「はい。この度ボーガン隊長が第一騎士団を退団してから、第三騎士団が空白状態になっています。それで一般騎士のなかで筋のある者を誰か団長にしたいと思っているのですが・・・。」

 「そうか。しかし、すぐには思いつかないな。何せ、根性がない奴らばかりだ。小手先の技術や能力だけではなく、統率力も必要な人材はなかなかおらん。申し訳ないが、まだまだ時間はかかりそうだ。」

 「そうですか。悪魔討伐もありますので、なんとかお願いします。」

 「わかった、善処しよう。」

 「ありがとうございます。」


 そんな中騎士団の中にも怪しい風が吹いていた。


―――――


 マルス・エッガーランドは、騎士団に配属されてまだ日が浅い。

 体力はあるほうだと思っていた。しかし、ボーガンの練習は、とてもじゃないがヒューマンの領域を超えていると思った。

 ボーガンへの打ち込みを朝から晩まで行っても誰一人、一撃を与えることができない。

 そして、一般騎士は鎧を装備しているにも関わらず、ボーガンの振るう木刀は、それを凌駕し確実にダメージを与えてくる。ケガをする者もいれば、体力の限界で動けなくなるものもいた。

 マルスは、それでも何とか食らいつくように剣を振るう。剣を握りすぎてもはや握力もなくなり、振りかぶれば剣がすっぽ抜けてしまうほどの状態でも、拳で戦おうとしていた。

 

 そんなあるとき、ボーガンは不甲斐ない騎士たちを見て嘆息していた。

 もっと厳しくしなければと考えるようになっていたが、それよりも何よりも、正義感溢れる騎士がどうしてこのような、弱い集団になってしまったのかを考えていた。


 訓練場では、ボーガンは騎士たちに冷酷無比な方法で指導するようにした。

 彼は自分の技術と力を誇示するために、騎士たちを容赦なく打ちのめした。挑戦を受けるたびに、彼の剣は鋭くなり、それに比例して心は冷たくなっていった。

 

 これについてこられなければ、戦場では生きていけないし、相手はもっと冷酷非道な悪魔や魔物であることを知ってもらいたかったためだ。

 さらには、第三騎士団の団長ともなれば、並みの精神力ではやっていけない。技術面もしかり、引退したとはいえ、元第一騎士団長と互角に戦えなければ、話にならない。

 そういった考えが、ボーガンの剣に宿り、日々の訓練は厳しさを増していった。

 諦める騎士も出てきていたが、ボーガンの意図を汲むように食らいつく者ももちろんいる。

 しかし、ボーガンは、その食らいつく騎士すらも吐き捨てるように何度も叩きのめした。


ある日、ボーガンは一人の騎士に目が留まった。それはマルスだった。

ただの平凡な騎士だと思っていたが、結局はやられてしまうが、いつも最後まで立っていた。

才能のあるなしにかかわらず、根性だけで立ち上がるマルスを見て、特別な訓練を施すことにした。


訓練は公開され、他の騎士たちも見守る中で行われた。

ボーガンは、マルスに対して、到底実現できるはずのない試練を課し、一切の慈悲を示さず、最終的には、地面に叩きつけた。それでも、マルスは立ち上がろうとする。

それをひれ伏せさせ、剣をマルスの喉元に突きつけ言い放った。


「力こそがすべてだ。お前のような弱者は生き残る資格がない。」


その場にいた他の騎士たちは震えあがり、完全に委縮していた。

ボーガンはふと我に返った。

こんなことが言いたかったのではない。

ただただ力を誇示するだけの戦い方ではなく、協調性、戦闘時の作戦の重要性、個々の能力の限界、集団行動など数多ある騎士としての教えが頭の中を駆け巡る。

しかし、己の傲慢さにかき消され、起き上がろうとするマルスを叩きのめしてしまう。


ボーガンの自制の効かない心の変化を気を失いかけていた近くにいたマルスだけが気付いていた。

そう、ボーガンは傲慢の悪魔に憑りつかれていたのだった。


そしてマルスは、気を失った。


―――――


 マルスは、騎士団の医務室で目を覚ました。

 体がギシギシしており、動くのですらままならない状態だった。

 そんなことよりも、ボーガンが悪魔憑きである事実を知ったマルスは困惑していた。

 誰よりも正義感の強い、並みはずれた精神力を持つボーガンが悪魔に憑りつかれるなんてことがあるのかと思った。

 低級の悪魔の討伐は騎士団として、従事したことがあったマルスだが、悪魔祓い自体がそう簡単には行かないものだということを理解しているし、ボーガンほどのヒューマンに憑りつく悪魔は、低級ではなく上級悪魔だと確信していた。


 しかし、今のマルスでは成すすべがない。

 物理的な悪魔の退治方法は、騎士団の中では存在しない。『クリスト』という言葉と聖水による、悪魔憑きの判別、そして拘束からの詠唱による悪魔祓いでしか対処できない。


 マルスのような一般騎士が、悪魔の判別方法を持たない状態で、自分の見たままをガルフなどの団長に伝えたとして、信じてはくれないだろうと考えた。

 マルスはフィルを頼ることに決めた。



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