第41話
第41話 憤怒の悪魔4
「なかなかタフですね。顎に一撃入れているんですけど。」
「ふふふ。そろそろお前の攻撃の威力より俺のタフさが上回るんじゃないか?」
「やせ我慢もここまでくると面倒ですね。」
「やせ我慢ではない!そういった能力なんだ!」
「でも、肝心の反撃が当たらなければ意味がないですよ。」
「ああ。そうだな。耐性も付いてきたことだ。これで終わりにしよう。『真っ向勝負』」
リンと憤怒の悪魔の足元に魔法陣が現れた。
その距離はちょうどお互いの攻撃が最大限に出される範囲であった。
リンは、気づいた。その魔法陣に足が固定されていることに。
撃ち合いを強制する魔法陣の中に閉じ込められてしまったリンと憤怒の悪魔は、お互いに最終局面だと察した。
「これで回避も逃げることもできない。さらには足技も使えない。どうだ。完璧な一騎打ちを用意したぞ。」
「あなたも同じでしょう。強いていうなら明らかに私有利な状況ですね。」
「まだ強がるか。」
「いや、さっきからダメージを食らっているのはあなたですよ。」
「はっ!これから利息を付けて返してやろうじゃないか!」
憤怒の悪魔の肩から肘にかけて、丸太のような腕が変形した。
ジェット噴射出来るように発射口の付いた腕は、炎を噴き出している。
「『真の炎の魔人拳』」
ジェット噴射で加速したパンチは、リンに直撃した。
「ぐっ!」
思わず声を漏らしてしまうリン。
足が固定されているため、後ろに退避して勢いを殺すこともできない。
体も吹き飛ばないので、その衝撃が体を巡る。
「ははは!どうだ!これぞ本物の拳だ!」
口の中を切り血がにじむリン。
「確かに先ほどとは別物ですね。しかし、私がつけているこの小手は拳を守るものじゃないんですよ。私も本気を出させてもらいますね。今の痛かったので。」
「『真魔人連撃』」
憤怒の悪魔はとっさにガードをした。そのガードの上にリンの正拳突きが炸裂した。
その初撃ですら、辺りを吹き飛ばし、砂埃が舞う。憤怒の悪魔がにやりと初撃を受けた次の瞬間。
リンの小手から射出された杭が、二撃目を食らわせた。
ドン!っという音ともに憤怒の悪魔のガードの上を貫き、大気がビリビリと揺れ、火口の溶岩が波打つほどの衝撃が憤怒の悪魔を襲った。
「シーシーシー!」
独特な呼吸法をして目を見開いている憤怒の悪魔は、なんとか耐えた。
背中の液体は一気に6本目に達し、神聖化された武器の攻撃によって徐々に溜まっていく。
『これは悪魔退治の武器か!?衝撃だけじゃない、焼かれるようなダメージ・・・。システマの呼吸法でも耐え切れない。』
「私の拳には耐性が付いたかもしれませんが、このパイルバンカーの攻撃はやはり効くみたいですね。」
「シーシーシー!」
「フィル様が作った対悪魔用武器は、どんな悪魔でも浄化してしまう代物ですから当然ですね。」
「シーシーシー!!」
「そのシーシーいう呼吸やめてもらませんか。うるさいですよ。」
憤怒の悪魔の背中にある試験管のようなものはすべて満タンになった。
「くふふ!すべての痛みが溜まったようだ。これからすべてをお前に跳ね返してくれる。魂のこもった一撃を食らい歓喜しろ!」
「わかりました。もうそれで終わりにしましょう。種族の違いを見せてあげますよ。」
憤怒の悪魔の背中にある試験管の中の液体が体の中へと吸収されていく。
そして、右手がさらに変形し、巨大なロケットのような形になっていた。
まさに、拳そのものがロケットのようになっており、エンジン部分から勢いよく炎を吹き出している。
憤怒の悪魔の能力によって、足が固定され動けない状態であり、よけられる程の些細な攻撃ではないことが一目瞭然であった。
「『魂の点火』」
憤怒の悪魔の右手は、火山の噴火かと思うほどの大爆発が起きた。
拳は超高速で射出され、爆風をあたりにまき散らし、その衝撃波は、リンの後方にあった山々を吹き飛ばした。
凝縮された一撃は、リンに着弾し、爆発とともに砂埃と熱風を巻き起こし、リンを蹂躙する。
「ふははは!見たか!この威力!大地が悲鳴を上げているのが聞こえる!」
砂埃が収まり始めたとき、憤怒の悪魔は気づいた。
リンが辛うじてボロボロのジャージ姿で立っていることに。
「なんだと!この一撃を耐えきったというのか!?」
「よくも私のジャージをボロボロにしてくれましたね。」
ところどころ下着が見え、焼き尽くされているジャージ姿になったリンが怒りに満ちた声で言った。
「ふざけるな!お前の攻撃をそのまま、いやそれ以上にして返したんだぞ!どんな耐久力の服なんだ!」
そういうと、魂の一撃を食らわせたはずの憤怒の悪魔は、拳を振り上げ二撃目を打ち込もうとしている。
「あなた、さっき一撃で決める的なこと言っていたのになんて卑怯なんでしょう。しかもさっき以上の攻撃をしなければ意味がないというのに、本当に馬鹿ですね。」
憤怒の悪魔は「うるさい!うるさい!」と連呼しながら、リンを殴り続けている。
渾身の一撃を耐えられてしまい、成すすべのなくなった憤怒の悪魔はやけになり殴り続けている。
「滑稽で笑いが止まりませんね。頑張っても頑張っても所詮は悪魔。魔人にかなわないということを身をもって理解してください。」
そういうとリンは、拳を固め、憤怒の悪魔の腹に強烈な一撃を食らわせた。
そして。
「『魔人電磁砲』」
電気に形質変化させた魔力をまとった右手の小手からパイルバンカーの杭がレールガンとなって射出された。リンの拳の威力とパイルバンカー自体の射出能力とそして、磁気による射出効果の三位一体の威力の増強は、憤怒の悪魔の腹部に容易に風穴を開けた。
一直線に伸びる光の筋は遠い彼方へ消えていった。




