第38話
第38話 憤怒の悪魔1
「そっちがその気ならやってやりますよ!」
「お前を取り込んで、その力を有効活用させてもらう。」
「すごく気持ち悪いことを言ってる・・・。」
大男は、巨大な拳を振り上げ紅を殴ろうとする。
しかし、紅はヒョイと避け、青い炎で反撃をする。
「そんな大ぶりの攻撃、当たるわけないじゃん。」
「なら、当たったらお前は終わりだな。」
「いちいち癇に障るなぁ。」
―――――
ヒルドの村は、温泉街である。しかし、その村人たちの生活はかなり苦しかった。
なぜなら、領主が到底払いきれるはずもない税金を課したからだ。
天然資源である温泉を使えば、集客できるといい、それにかかるコストなどを一切考えずに、徴収するよう命じたのだった。
そんな中、大男は、自分の温泉を持っていないただの従業員だった。
彼は、風呂場の掃除や宿屋の掃除、源泉の確認までほとんどを任されていた。それにもかかわらず、もらえる賃金は、到底暮らしていけるような金額ではなかった。
しかし、彼はいつもにこやかにしていた。温厚な性格で、愚痴の一つも言わず一生懸命働いていた。
そんなある日。村人からいじめを受けるようになった。なぜなら、皆払いきれない税金でイライラしていたのである。自分よりも弱い存在を作ることで精神安定を図ろうとしていた。
そのいじめは、最初は風呂場で転ばされる程度だったものが、ついには、高温の源泉をかけられるようになった。
いつもにこやかにしていた彼も、次第に暗い顔になり、一言も発さなくなった。
遂にいつものように、嫌がらせをしてくる風呂場で店主を怒りに任せて殴ってしまった。
体の大きい男が、一撃を浴びせたらどうなるかは容易に想像がつく。
「すみません」と謝ろうと思いその店主に駆け寄ると、そこにはただの放射状に飛び散った赤い肉塊だけがあった。
不思議そうに見ていた男は、いつものように風呂場をデッキブラシでこすり始めた。
何も言わないでもくもくと掃除をしてく男の目は黒く淀んでいた。
―――――
紅は、憤怒の悪魔の攻撃を華麗に躱している。
辺りの岩々が憤怒の悪魔の拳で砕かれていく。
「真剣勝負なのに回避に徹しているのは、卑怯だな。」
「悪魔に卑怯なんて言われたくない。」
「なら正々堂々と撃ち合いをしてケリをつけようじゃないか。」
「賛成だけど、悪魔の言う正々堂々が信用できるほどお人よしじゃないよ。」
「なら仕方ない。力のぶつけ合いを懇願するような、熱い一撃を食らわせてやる。」
「むさ苦しいですよ。」
というと、憤怒の悪魔は、構えた。
今までのただの殴るだけの攻撃でなく、ちゃんと構えをとった。
紅は、いつでも回避できるように身構えている。
「『悪魔の拳』」
轟音と暴風を纏った溜めの一撃は、紅を掠った。
紅は、辺りに小さな火の粉をまき散らしていた。その火の粉の動きで攻撃を見極め避けた。
しかし、あまりの速度で掠ってしまった。
「ぐぅっ!」
ぼたぼたと口から血を吐く紅。
「掠っただけでこの威力・・・。攻撃させてはダメみたい。」
と、言っている間に再度、轟音が鳴り響き、拳が飛んでくる。
辺りの火の粉から読み取った動きで素早く回避する紅。しかし、避けてもどうしても攻撃が当たってしまう。
「なんで!避けてるのに!あの攻撃を溜めているときに攻撃しないと。」
避けても当たる拳に翻弄される紅。
しかし、一定の時間に隙ができる難点を見逃さず攻撃に転じた。
「『陽光炎帝』」
紅は頭上に掌を掲げ、魔法陣と共に炎と光が混ざったような球体を作り出した。
「二発も殴られた!許さない!女の子に手を上げるやつは消えてなくなれ!」
攻撃をするために構え、力を蓄えている憤怒の悪魔に足し、過剰ともいえる高温の球体が着弾した。
憤怒の悪魔の足元は、ジューゥと音を立て、溶けていく。
火属性と陽属性の混合魔法である「陽光炎帝」を食らえば、悪魔は浄化され燃え尽きる。
しかし、その球体のなかで、いまだに憤怒の悪魔は攻撃の構えを取って力を溜めている。
「は?なんで?なんで効いてないの!?」
「効いているさ。かなりな。とてつもない痛みだ。しかし、俺を消滅させるならもっと強烈な攻撃をしないとダメだ。」
「なにを言っているの?この悪魔は、気持ち悪い・・・。」
「ははは。どうした?こんなものか?お前の力はこれで終わりか?」
「バカにして。消えてなくなっても後悔するな!」
「『陽光炎帝』フルパワー!」
憤怒の悪魔の周りに5つの魔法陣が浮かび上がった。
そこから作り出された5つの球体が憤怒の悪魔に着弾し一つとなった。
「ぎゃあああぁああぁぁあぁぁ。これは熱いい!」
「ふん。塵になって消えろ!」
「ぎゃあああぁああぁぁあぁぁ!」
「さっきの威勢はどこに行ったんですかね?」
「ぎゃあああぁああぁぁあぁぁ!」
「・・・随分と長いですね。」
「ぎゃあああぁああぁぁあぁぁ!」
「まだ死なないのかい!」
「ぎゃあああぁああぁぁあぁぁ、まだだ!まだ終わらん!こんなもので怒りが収まるはずがない。」
「なんなんですか。この悪魔は・・・。なんで効かないのですか?」
「ははは。何度も言っているだろう。効いているさ。お前の攻撃は!ただ俺が我慢しているからだ!」
「は?我慢?そんな根性論でどうにかなる攻撃じゃないはずです。」
「何を言っている。すべては根性だ。お前が避けた攻撃が当たるのも根性で当てている。今のこの攻撃を耐えられるのも根性だ。」
「そんなバカな話がありますか!」
「これがお前の限界とみた。俺の根性の拳を受け取れ。『悪魔の拳』」
憤怒の悪魔は、灼熱の炎の中で強烈な一撃を放った。
その拳の一閃は、紅に着弾し、背中から衝撃波を出し、吹き飛ばした。
「ぐは!なんでこんなやつに・・・。」
薄れ行く意識の中で紅は、悔しがった。
煙をあげ、身体はボロボロにただれ、丸焦げになった憤怒の悪魔が、ゆっくりと近づいてくる。
紅は静かに気を失った。
「熱い戦いだった・・・。遠慮なくお前の力を活用させてもらう。」
そういうと、憤怒の悪魔は紅を自身へ取り込み、姿を変えた。




