第37話
第37話 ヒルドの火山
リンは、ヒルドの名物の温泉に入っていた。
「ふぅ。私だけ悪魔退治という名目で余暇をもらってしまいました。フィル様は本当にお優しい方です。まぁ、フィル様とご一緒したかったのが本音ですが・・・。しかし、気持ちの良い物ですね。温泉というものは。」
湯船につかり、伸びをしているリンは、つかの間の休息を得ていた。
ヒルドの村にはいくつもの温泉が湧いていた。
それも、活火山のアスティオ火山のふもとにあり、その火山の地熱で暖められた地下水が湧き出ているからだ。
アスティオ山は、入山不可の山で人が立ち入ることができない。
古代から炎の精霊がこの山を守っていると信じられているためだ。
「翆や藍同様に四大精霊の一人がいると噂の山が一望できるこの宿を取って正解でした。いい眺めです。さて明日からは、気合いを入れて悪魔退治の調査を始めましょう。」
リンは一人湯船につかり、英気を養った。
―――――
そのころ、アスティオ火山の火口付近で四大精霊の一人、炎の紅が足を岩に座りパタパタさせ、つまらなそうにしていた。
紅は、翆と藍とまったく違い、褐色の肌に際どい黒の下着一枚の幼い子だ。
「はぁ。詰まんないなぁ。」
火口でグツグツと煮えたぎる溶岩に石ころを蹴り入れて、暇をつぶすのが紅の一日のやることだ。
そんな暇な日常でも年に一度は麓のヒルド村から人が来る。
そう、お供え物である。今年はそれがまだ来ていない。
「そろそろ、お供え物が来てもいい頃なんだけどなぁ。今年は何かなぁ?」
去年はヒルドの村にはない、牛鹿が送られた。
料理の仕方の知らない紅は、丸焼きにして一人で平らげた。
「あの牛鹿は、おいしかったなぁ。毎年あれがいいなぁ。今回こそ、要求して見せる!」
紅は、ヒルドの村から贈られるお供え物について、とくに何も要求してこなかった。
しかし、牛鹿がとてもおいしかったので、今回来るヒルドの村人に言おうと決めていた。
「でも、うちがしゃべったら威厳みたいなものがなくなっちゃうのかなぁ?しかも、牛鹿が欲しいなんて言ったら嫌われちゃうかも。」
そんなことを考えていると、火山を上ってくる幾人かのヒューマンが見えた。
「な!牛鹿がいない!ガーン・・・。仕方ない今年は、諦めるかぁ。要求の練習しておこう。えー。遥々、このアスティオ火山まで足を運んで苦しゅうない。私は、来年から牛鹿を所望する!・・・。ストレートに言いすぎかなぁ。」
だんだんとヒューマンたちが足場の悪い火山を登ってくる。
その数人は、大きな荷物も持たず軽装の状態で登っていた。
その中でも一際大きな男がみんなの荷物を一人で抱え登っていた。丸太のような腕は、何キロもある荷物を軽々抱え、さらには腰に紐を巻きつけ、そりのようなもので荷物を引いている。
「やっと着きましたぞ。頂上に。」
「いやぁ長かった。精霊様に供物を届けるのも大変な仕事だ。」
「ほら、早くしろ!」
数人のヒューマンが大男に命令している。
その姿を物陰から眺めている紅が、勢いよく飛び出した。
「ははは。此度は、私への供物を持ってきたのだろう?苦しゅうない!しかし、今年がどんな供物か知らんが、来年からは牛鹿を所望する!そうしないと火山を守ってやらないぞ。」
ヒューマンたちはきょとんとした顔で紅を見ている。
「・・・。」
そのうちの一人が話し出した。
「四大精霊の一人炎の精霊紅様ですね。今回は、あなたを捕らえに来ました。」
そういうと、ヒューマンたちの目が一斉に黒くなった。
「お前たち、悪魔かぁ?ふざけるな!牛鹿を持ってこいって言っているんだぁ!」
癇癪を起した子供のようにいきなり大きな声を上げた紅が、有無を言わさず攻撃を仕掛けた。
「『陽光青天』」
青い炎は、ヒューマンたちに着火し、一気に燃え上がらせた。その炎は、火属性と陽属性の混合魔法であり、悪魔にも効いた。
「ぎゃあああぁああぁぁあぁぁ。」
複数の叫び声が混じり合い、火口へ断末魔が吸い込まれていく。
塵となった、ヒューマンを見て紅が言った。
「牛鹿・・・。」
すると、ヒューマンのなかにいた大男が青い炎を食らっても、平然と立っていた。
「お前さん。小さいのにその力。俺にくれないか?」
「何を言っているんですかぁ?悪魔とお話することはありません。知らないおじさんに付いていくなっていうのは、微精霊でも知ってますよ。」
「優しくお願いしているんだけどな。」
「優しくお願いしてくるのが逆に気持ち悪いです。」
「じゃあ、戦って奪うまでだ。」
「そっちがその気ならやってやりますよ!」
大男の悪魔と四大精霊の一人炎の精霊紅の一騎打ちが始まった。




