第33話
第33話 暴食の悪魔3
暴食の悪魔の能力は、対象の物を体へと引き寄せる力と対象の物を弾く能力である。
勘のいい翆は、能力を見破っていた。暴食の悪魔の叫び声とともにその能力が切り替わっていることもわかっていた。しかし、この能力の強さは、自分のさじ加減でいつでも切り替えが可能であること。そして、その吸引と弾く力からはどんなことがあっても逃れられないところであった。
「暴食からは逃げられないのだ!」
そういうと暴食の悪魔は、「ミート!オア!フィッシュ!アイウォントトウイートミート!」と叫んだ。
すると今度は、藍が強い力で引き寄せられた。
「ぐっ」
「藍!」
と、叫んだ翆だが、吸引されている状態ではなす術がない。
暴食との距離が近づいていく。暴食は渾身の一撃を打ち込むべくその巨体を身構えている。
藍は、吸い寄せられながらも銃口を向け、反撃の一撃を狙っている。
「『魚喰の巨撃』」
ここにきて、暴食が必殺技を繰り出した。
右手に溜まった高質の禍々しい魔力を藍の腹部へと叩き込んだ。
吸引を解放すると同時に弾く力を乗せた右ストレートは、藍を人形のように吹き飛ばした。
吹き飛ばされ家屋を倒壊させ叩きつけられた藍は、激しく吐血した。
「藍!大丈夫でありんすか!?」
吹き飛ばされる藍の後ろに風のクッションをいくつも作り衝撃を殺した翆が駆け寄る。
「食らえ、悪魔。水手榴弾・・・。」
藍は呟いた。
暴食の右腕には無数の水球が付着していた。
水球が音を立て爆発した。暴食の右腕は木っ端みじんに吹き飛び、血と駄肉が辺りに飛び散った。
「ぐああああ。貴様ぁ!っと言うと思ったか?」
辺りに飛び散った血肉は、ぶるぶると震えだし、暴食の口へ吸い込まれた。
すると、見るも無残だった右腕が再生した。
「なっ!再生能力もありんすか!?」
「でも、無限じゃないはず。」
血の塊を口から吐き出しゆっくりと立つ藍が言った。
「でも、わっちもわかったでありんす。対処法が。次は絶対に守れるでありんす。」
「何が分かっただあ?わかっても避けられないのが最強の称号なんだ。」
「その能力は、対象一つにしか発動できないんでありんしょう?吸引する力も弾く力も対象は一つだけ。どんなものも弾くのであれば、藍を弾き飛ばした時、水球も一緒に弾いていたはずでありんす。さらには、弾く力は一定の距離に近づかないと発動できないんでありんしょう。今こうして話している間に吹き飛ばさないってことはそう言うことでありんす。」
「妹を盾にして、観察してたってわけか。薄情な姉さんだな。」
「藍はやられてるだけでは、ありんせん。」
「じゃあ、お前の目の前で妹がバラバラになるところを拝ましてやる!」
そういうと暴食の悪魔は、「ミート!オア!フィッシュ!アイウォントトウイートミート!」と叫んだ。
しかし、藍も翆も吸引されない。
「は?どういうことだ。」
「大鉄扇投扇興奥義『玉鬘』・・・。大気の壁を作ったでありんす。吸引したとしても大気の壁がわっちたちを守ってくれるでありんす。」
「反撃開始。」
すると、藍は銃口を向け魔力を溜め始めた。
周囲の空気が先端に集まり、キラキラと輝いていく。
「そうはさせるか!」
吸引できないとわかった暴食の悪魔は、その巨体を大きく揺らしながら突進してきた。
「大鉄扇投扇興奥義『鈴虫』」
強烈な風は上空から暴食の悪魔を押さえつけた。
巨体は地面にへばり付くように押し付けられ、バタバタと身動きが取れないようになっていた。
「くそ。どこからそんな魔力が!」
「これもフィル様のマジックアイテムのおかげでありんす。フィル様の施した魔力増強効果は計り知れんせん。能力を封じられた途端に弱くなったでありんすね。」
「は?舐めるなよ。こんな風ごときで動けなくなるわけがない!『魚鱗の突撃』」
そういうと、暴食の悪魔は自分を弾き飛ばし、風の拘束と大気の壁を無視し突撃してきた。
駄肉がぶるぶると震え、どんどん加速していく。大気の壁はより圧縮されているにもかかわらず、その巨体はどんどん波打ちとてつもないスピードになって飛んでくる。
銃口を向け魔力を溜めていた藍が翆に合図を出した。
「藍、やるでありんす。」
そういうと、凝縮された魔力が解き放たれた。
「『絶対零度』」
一直線に伸びた光の筋が、ものすごい勢いで飛んでくる暴食の悪魔に着弾した。
その瞬間、扇状に氷の大地が広がり、辺り一面が銀世界となった。
「かはっ!」
瞬時に辺りが凍結し、キラキラとダイアモンドダストが辺りに舞う。
口から白い息を吐き、渾身の魔力砲を打ち込んだ藍が言った。
「気持ち悪いんだよ。」
「芯まで凍結したでありんすね。フィル様が作ったわっち達の武器は悪魔を殺せるでありんす。暴食の悪魔も例外ではないでありんすね。」
氷像と化した暴食の悪魔は、パキパキとひびが入り砕け散った。
「でも、ちょっときつかった。」
「そうでありんすね。打たれ弱いのは、難儀でありんす。」
ボロボロの着物の二人は寄り添うように気を失った。
―――――
「二人とも大丈夫?」
明滅する世界で翆と藍は目を覚ました。
「ん・・・。」
そこにはフィルがいた。
「フィル様・・・。わっち達は・・・。」
「お疲れ様だったね。ここは学園だよ。二人ともかなり消耗してたから、僕が再召喚したんだ。身体の傷とか消耗した魔力とかは元通りのはずだよ。」
「暴食の悪魔は?」
藍が頭を振りながら言った。
「ちゃんと二人が倒してくれたよ。ありがとう。」
「不甲斐ないでありんす。かなり手こずってしまったでありんす。挙句の果てには、気を失ってフィル様にご迷惑をかけてしまったでありんす。」
「暴食の悪魔は、大罪の一人だから二人が無事で何よりだよ。上位悪魔よりもさらに凶悪。僕の作った武器で何とかなってよかったよ。」
「堕天使と渡り合えるか心配。」
「そんなに気を落とさなくて大丈夫だよ。二人は武器に頼らなくても汎用性の高い魔法が使える。サポートも攻撃もどちらも出来る重要な役割なんだ。これからも期待してるよ。」
「そうでありんすね。暴食の悪魔の能力から得たこともありんす。」
「うちらにしかできないこと。」
「そうだよ。一人で戦う必要はないんだから、協力していこう。」
「はい、でありんす。」
「うん。」
―――――
「ところで、リンとリリィはどちらでありんすか?」
「二人とも別の異常現象の調査に行ってもらっているよ。そろそろあの二人も悪魔に出会っているかもしれないね。」
「今回わっち達は、情報収集も出来なかったでありんす。二人に頑張ってもらいんしょう。」
「二人とも強いから大丈夫。」
「二人は別々の場所に行っているから、僕はちょっと心配なんだよね。」
「リンが戦いに行くのは初めてでありんすね。」
「そうだね。リンには悪魔を見分ける力があるから、別のマジックアイテムを渡してあるんだ。それをうまく使ってくれたらいいけど。」
大罪の一人暴食の悪魔を何とか翆と藍の力で撃破した。
そのころ、リリィも大罪の一人と対面していた。




