第32話
第32話 暴食の悪魔2
暴食の悪魔は、大蛇が大口を開け地面を這いずるように駄肉を地面に擦りながら突進してきた。
翆は大鉄扇に乗りふわりと上昇し、華麗に避けた。
そのまま暴食の悪魔は、藍が陣取っていた家に突っ込み建物を粉砕した。
藍は、別の家に飛び移り瓦礫に巻き込まれることは無かった。
「辺りかまわずでありんすね。」
瓦礫の中から這い上がるように起き上がった暴食の悪魔は、口を大きく開け粘液を藍に向け、吐き出してきた。
「絶対溶けるやつ!」
アサルトライフルを担いだままの藍は、機動力に欠ける。
すかさず、翆が大鉄扇の強風でその粘液をかき消した。飛散した粘液はジュワーと音を立てて物を溶かしている。
「危ないでありんす。すぐに距離を取って戦うでありんす。」
「あいつ以外に早い。」
「動けるデブでありんすね。」
「ミート!オア!フィッシュ!」
暴食の悪魔がわけのわからないことを叫びだした。
「何か来るでありんす!」
「アイウォントトウイートミート!」
そう叫んだ暴食の悪魔に翆がものすごい勢いで吸い寄せられた。
「ぐっ・・・。なんでありんす・・・。」
その吸引力は翆の耐えられるものではなく、暴食の悪魔の手の届く範囲まで成すすべなく引き寄せられた。
そうして、暴食の悪魔の渾身の右ストレートが翆を捉えた。
ミシミシという音が鳴り響き、翆は吹き飛ばされた。
口から血を吐く翆。すぐさま駆け寄る藍が、銃口を暴食の悪魔に向けている。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
「かなり効いたでありんす。よくわからない言葉は相手を吸い寄せる力があるみたいでありんすね。」
一発食らいながらも冷静に分析する翆。
「反撃しないとやられてしまうでありんす。」
「うん。」
「藍、あいつの動きを止められるでありんすか?」
「やってみる。」
そういうと、藍は暴食の悪魔と距離を取りつつも氷の弾丸を打ち込んでいく。そして
「水手榴弾!」
暴食の足元にコロコロとぷよぷよの水の塊が転がってきた。
ハッと暴食の悪魔が気づいたとき、その水の塊はドン!っと音ともに炸裂した。
さらに、藍は暴食の足元に出来た水たまりに氷の弾丸を打ち込んだ。
飛び散った水、そして足元に出来た水たまりが一気に凍り付き、白い霧を漂わせながら暴食の悪魔の動きを封じた。
「ナイスでありんす。大鉄扇投扇興奥義、『横笛』」
翆の放った風は、横一閃、不可視の刃となって暴食の悪魔の胸元を切り裂いた。
「ぐううう。」
うめき声をあげる暴食の悪魔。浄化作用のある攻撃をまともに食らい苦しんでいる。
攻撃力の面では、藍よりも翆のほうが高い。一撃の重さが違う。
サポートの面では、翆よりも藍のほうが、動きを封じたりできるので、このコンビネーションは、確立されつつある。
しかし、暴食の悪魔はまたも叫んだ。
「ミート!オア!フィッシュ!アイウォントトウイートミート!」
すると、辺りに散らばっていた瓦礫が暴食の悪魔の体にくっつき始め即席の鎧を作り上げた。
鎧と言っても、駄肉ははみ出し全てを覆っているわけではない。
「防御力を固めたでありんす。さっきの攻撃がそれほど痛かったでありんすね。」
「今度はうちがやる。」
「わかったでありんす。援護するでありんす。」
またも、突進してきた暴食の悪魔に大鉄扇を持った翆が迎え撃つ。
翆の放った強烈な風は、暴食の悪魔の突進を押さえつけている。
しかし、そこで暴食の悪魔が叫んだ。
「アイヘイトフィッシュ!」
足止めしていた暴風は弾き飛ばされ、突撃の足を止めることができない。
大口の開けた暴食の悪魔が二人へ突進してくる。
その時、藍の渾身の一撃が放たれた。
「全弾射出!」
何百発という氷の弾丸が一気に暴食の悪魔に着弾した。
しかし、なんとそのすべての弾丸が弾き飛ばされ、突進を止めることができなかった。
暴食の悪魔と二人が衝突し、ダンプカーに跳ねられた人形のように空中へ放り出された二人。
「うっ!・・・。」
「ぐあっ!・・・。」
その衝撃は、視界が明滅し、意識が飛びそうになる。
地面に叩きつけられながらも、ゆっくりと立ち上がった二人だが、突進をまともに食らいダメージはかなり高い。
「今のはなんでありんすか・・・。」
「攻撃が弾かれた・・・。」
暴食の悪魔の能力を見破らないと倒せないことを悟った二人。
上位の悪魔がこれほど強いとは思ってもみなかった二人。
今あるすべての力を出し惜しみしている場合ではないと感じた二人。
土の付いたの着物をはたきながら、暴食の悪魔を睨みつけた。




