第31話
第31話 暴食の悪魔1
最初の異変に気付いたのは、シュナの村に通う商人だった。
いつもの取引先の酒場の店主が消えたことだ。繁盛していたのに急に蒸発するとは考えにくい。
辺りの村人に聞いても行方はわからないという。
大事な取引先の店主のことを村人に話を聞きまわっているときだった。見たこともない太った大男が一軒の家から窮屈そうに出てきた。
「あんな太った男いたか?」
と不思議がっていると、太った大男はこそこそと辺りを見回し裏の小屋へ消えていった。
商人は、恐る恐るその小屋へ近づいた。
すると、ひどい腐敗臭が小屋の奥から漂ってきた。吐き気を我慢しながらなかの様子を確かめようとしたとき。
「なんか用か?」
と、声をかけられた。
「うお!脅かすな!・・・ふう。見ない顔だったから挨拶しようかとな。商人をしてる者だ。」
「そうか。すまんな。匂いがひどいだろ?この小屋で肉の加工をしているんだ。」
「そうだったか。そんなことより、村人に聞いて回っているんだが、酒場の店主がどこに行ったか知らないか?」
「食った。」
「え?」
「だから、俺が食った。」
「何を言ってんだ?」
というと、その太った大男は持っていた切れ味の悪そうな包丁で商人をたたき切った。
―――――
「ガルフ様、ケルン周辺のシュナの村にて商人が消息を絶ったと報告がありました。」
「野盗か?」
「その可能性もありますが、どうやらシュナの村で行方不明になる者が多いそうで。」
「なるほど。悪魔の可能性ありか。フィルに連絡してくれ。」
騎士団の一人が、フィルのところへ訪れた。
「というわけで、悪魔の可能性のある異常現象が起きているようです。」
「なるほど、行方不明者ですか。引っかかりますね。では、今回は、翆と藍に行ってもらうことにしよう。情報の引き出しと悪魔の討伐を任せたよ。」
「承知したでありんす。」
「了解。」
翆は、黄緑色の着物とその身体に合わないほどの大きな大鉄扇と隻眼鏡を装備し、藍は水色の着物に望遠スコープを装着したアサルトライフルを担いで、シュナの村に向かうことにした。
「藍、戦闘は久しぶりでありんしょう?」
「うん。でも大丈夫。この武器があれば勝てる。」
「今後の苛烈な戦闘を意識しながら戦っていくでありんす。」
「レベルアップ。頑張る。」
悪魔の可能性のある異常現象については、騎士団が情報収集してくれており、対処可能な低位の悪魔であれば、騎士団が悪魔祓いの詠唱などを駆使して退治してくれる。
しかし、今回の件は、調査に出た騎士も数人消えてしまっていた。騎士団員が複数消えている状況をみると、低位の悪魔ではないと推測された。
なので、今回は翆と藍の二人が直接確認と討伐をすることになっていた。
シュナの村に入ったときだった。
「藍、わかるでありんすか?」
「強敵の予感。」
「そうでありんすね。天使はわからないけど悪魔の禍々しいオーラは何となくわかりんす。」
「こいつ溢れ出てるオーラを隠すつもりない。」
「さっさと特定するでありんす。わっちが、見て回るので、藍は後方から援護頼むでありんすよ。」
「わかった。気を付けて。」
翆は、シュナの村の一軒一軒を見て回りだした。
藍は、援護がすぐにできるよう屋根の上に陣取り、スコープを覗き込んでいた。
淀んだ空気の奥に一軒の家を発見した。明らかに悪魔の痕跡が見える。
「確実にここでありんしょう。先手必勝でありんしょうか?」
建物ごと吹き飛ばそうか悩んだ翆は、その考えを辞めドアをノックした。
「誰かおりんせんか?」
すると、中から太った大きな男がのしのしと玄関の扉を開け出てきた。
「何もんだ。俺に何か用か。」
翆は驚愕した。その風貌は人の形を辞め、上半身裸で、その駄肉には人の顔らしき物が浮かび上がっている。
翆が、驚愕して硬直しているその瞬間。藍は躊躇なくアサルトライフルの引き金を引いていた。
円錐上の氷の弾丸は、音を置き去りにし、衝撃波を放ち一直線に悪魔の下に着弾した。
しかし、その氷の弾丸は悪魔によってかみ砕かれた。
「な!」
藍は、神聖化された武器で放った氷の弾丸が悪魔によって、しかも恐ろしい反射速度で対応されたことに驚いた。
その隙に翆は、跳躍し相手と距離を取った。
「なんだ。貴様ら。この俺を殺しに来たのか?なら遠慮なく食わせてもらうぞ。」
そういうと、のしのしと前に出てきた。
しかし、ゴンっと音を立てて見えない壁に激突した。
「ん?これは一体・・・。」
「悪魔封じの魔法陣でありんす。」
翆は距離を取った一瞬で相手の足元に魔法陣を書いていた。
「んんん!小賢しいな。食わせろ。女ども!」
そういうと、悪魔は激しいどす黒いオーラをまき散らし、魔法陣の中で暴れだした。
悪魔封じの魔法陣に亀裂が入り、バリンと音ともに割れかき消されてしまった。
「かなりの悪魔でありんす。間髪入れず打ちまくるでありんす。藍!」
アサルトライフルから連射された氷の弾丸が悪魔を捉えている。しかし、その駄肉を貫くことができない。
「効かないわ!この暴食の悪魔、貴様たちを食らうもの。俺の力の一端になれ!」
ゴオォっと吠えるように大罪の名を口にした悪魔が翆に向かって突進してきた。
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