第305話
第305話 親善試合 ガルフVSヴィヴィ2
「『列炎龍の剣』!」
ガルフの闘気は、「ボッボッ」と小さな炎を上げ始めていた。
見た目とは裏腹にガルフ自身がは高温になっていた。体温の度を越えた温度を保っていた。
熱情、熱意、熱望、熱狂、熱中、熱心、熱血、熱烈そして、熱愛。そのすべての熱がガルフの体温をヒューマンの枠組みから外した。
ヴィヴィは闘気が変わったのを肌で感じた。
そして手に持っていた鞭を手放し、四つん這いの姿勢になった。
ガルフの変貌に合わせるかのように、ヴィヴィ自身も戦闘態勢に入った。
ヴィヴィの頭に生える角のような長い触手が、鞭のようにしなっている。
ガルフは、鞭の特性を理解していた。中距離でかつ、動いているものに宛てるのは難しいと。
だからこそ、近距離に詰めて攻撃を仕掛ける。高温に上昇した闘気が身体能力を向上させる。
ガルフは目にも止まらない速度で距離を詰め、一刀を振り下ろす。
しかし、ヴィヴィは先程よりも素早い動きで攻撃を躱す。そして、不規則に動いて翻弄するガルフに強烈な一打を放った。
「『千鞭万化』」
角のような触手は、手に持った鞭とは違いヴィヴィの体の一部である。だからこそ、適格に的を射抜くことが出来た。さらには、強力なインパクト付き。ガルフの腹部をしなる角が捉えた。
「ぐっ!」
そこからが長かった。一度捉えたしなる角は、往復し、ガルフを叩き続ける。
目にも止まらないしなる角の攻撃がガルフを襲い続ける。
だんだんと砂埃が立ち始め、周りが見えなくなってきた。ガルフも剣でしなる角をさばいているが、あまりの手数の多さに圧倒される。
「私、暑苦しいの嫌い。」
猛攻を仕掛けているヴィヴィは至って冷静であり、反撃の隙を与えない。
ガルフの溶けていた鎧がさらに凹み始め、衝撃が体を貫通していく。
そして、ヴィヴィの必殺技が炸裂した。
「『竜の尻尾』」
ヴィヴィの長い尻尾が、長い肢体を生かした姿勢から、遠心力を最大まで高めた状態で、ガルフの側面を捉えた。ガルフはとっさに小手でガードしたが、メキメキという音立てて吹き飛ばされた。
ヴィヴィは、ヴィネス同様に体が武器である。二本のしなる角、そして、強靭な竜の尻尾。この3つの鞭を使いこなし相手を圧倒する。
『ガルフー!』
思わずイグニコルアスが叫ぶ。
猛攻からの強烈な一撃が直撃したガルフの行方が気になってしょうがないが、瓦礫と砂埃でよく見えない。
しかし、その不安はすぐに取り去られた。
瓦礫を押しのけガルフが立ち上がり始めた。
「え?なんで?」
ヴィヴィは渾身の一撃を叩き込み手ごたえも感じていた。確実に腕の骨は砕けていた。しかし、鎧が壊れている以外何のダメージも負っていないガルフがいた。
ガルフは、身体能力向上以外にも驚異的なスピードで体が治癒していた。身体の活性化であった。
確かに腕は折れていたが、ガルフの闘気の力により、瞬時に回復していた。
しかし、胸当てや小手などの上半身の鎧は破壊され、厚手のインナーと腰当とグリーブだけになっていた。インナーの袖をまくり上げ、剣を握りしめるとガルフは言った。
「感謝する。アドレニス王国の騎士の証である鎧を砕いてくれて。これで思う存分、一人のヒューマンとして、愛する者のため剣を振るえる。」
「勝手にどんどん話を進めるのはやめて。イグニコルアス様が可哀そう。」
「勝手にではない。これから共に考えればいい。」
「イグニコルアス様の意見も聞かないで勝手に愛してるなんて言ってどうかしてる。」
「ヴィヴィ殿。申し訳ないが、貴殿が割り込む余地はない。」
「いや、別に恋敵じゃない。」
「そうか。ならなおのこと、イグニコルアスと私のことに首を突っ込むのはやめて欲しい。それが竜人が神龍への敬意や信仰だとしてもイグニコルアスと私は対等だ。その価値観を共有することはできない。ヒューマンは種族としては、弱いかもしれないが、信頼関係に上下を作ったりはしない。ゆえにこの愛情も一方的なものではない。イグニコルアスと積み重ね築き上げてきたものだ。」
「・・・。わかんない。けど、この試合に勝てば証明できる。」
「ああ。そのとおり。勝てばいい。」
ガルフは剣を構え、ヴィヴィは四つん這いの姿勢でにらみ合う。
「ボッボッ」と炎を拭きながら纏わりつく闘気は、さきほどから変わらない。
ガルフは身を守る鎧を失い、ほとんど無防備な状態だ。しかし、驚異的な回復力を見せた。
ゆえにヴィヴィは、同じ技が通用しないと判断した。
「再生するなら永遠と苦しむだけ。『毒の竜』」
ヴィヴィの紫色の鱗のすき間から毒液が染み出した。その毒は先程の鎧を溶かした毒液と同じで滴るたび地面を溶かしていた。体表はてらてらと毒液が覆い、防御面にも効果があった。
剣を振るえば、容赦なく溶解させてしまうであろうその毒液を纏った姿が、ヴィヴィの本当の姿だった。




