第296話
第296話 竜谷の洗礼1
ユーアとガルフとマルスは、魔国から竜谷への転位魔法陣の前にいた。
『石筒之男神』は、ガルフのマジックボックスの中に収納されているので、竜谷に向かう3人だけが転位魔法陣にいた。そこへ、フィルがやってきた。
「お疲れ様です。」
「フィル様。わざわざご一緒していただいてありがとうございます。」
「いえいえ、一応『石筒之男神』の設置は僕がやったほうがいいと思いますので。」
「フィル。ありがとう。それで、竜谷には、我々と繋がりを結ぶ『神龍』がいるのだろ?」
「ええ。そうです。今は竜谷の代表として、魔国やフィニアと協力してくれるとのことなので、いきなり何かされることはないと思いますよ。」
「そうか。少し緊張していてな。」
「我々に絶大な力を与えて下さった『神龍』に会うのですから、緊張もしますよ。」
マルスはガルフに同調した。
「実のところ、我々に力を貸してくれたのは、フィルのルーン文字によるものが大きいはず。ゆえに、我々をどこまで信用しているかということは、これから我々自身で培わなければならないと思っている。」
「そのとおりだな。魔剣はあくまでも繋がり。これからは対等な種族間交流となる。だからこそ我々も甘く見られたくはない。」
「ヒューマンが竜谷に入るのは、初めてでしょうから、逆に言えばガルフ兄様たちのような人が適任なのかと僕は思いますけどね。」
「買いかぶりすぎだ。今も制御しきれない力である『神龍』の力は、これを機に自分達のものとしたい。だからこそ、魔石を運ぶというだけの仕事ではなく、『神龍』の思惑を理解することが今回の最重要課題だと私は思う。」
「ガルフ兄様がイメージするような感じじゃないかもしれませんよ。」
フィルは、『神龍』たちと会っている。ガルフが思い描く威厳のある『神龍』とは少し違う気がしていた。とくに、ガルフと繋がりのあるイグニコルアスを見たらガルフは落胆するのではないかとすら思っていた。
そして、4人は竜谷へ向かい、転移した。
―――――
竜谷の入り口。世界樹の横に出来た転位魔法陣にフィルたちは降り立った。
そこにいたのは、竜谷の長の息子、ヴィネだった。
「遠い所からわざわざ来て頂き感謝する。」
「いえいえ。今日は魔石の取り付けに来たのと、『神龍』の皆さまに会わせたい人がいまして、竜谷へ伺いました。」
「ほう。神龍様に会わせたい者・・・。その後ろにいらっしゃる方々で?」
「はい。そうです。」
ヴィネは、あごに手を置き、吟味するようにユーア達を見回した。
「あまりじろじろと見られるのは好まない。」
「これは失礼した。フィル様以外のヒューマンを見るのが初めてなもので。しかし、立派な装備だ。さぞ、お強いのであろう。」
「我々、魔剣を持つ身。『神龍』との繋がりがあるため、この地で『神龍』と一度話しておきたい。」
「『神龍』との繋がり・・・。我々、竜谷の竜人も神龍様の加護を受けている。そのような寵愛を受けていても簡単に話せるようなお方たちではない。」
「寵愛?そのような偏った愛情表現ではない。我々は、魔剣を通して共闘している。」
ユーアがヴィネの言いぶりにひりつきながら言い返した。
「ちょっといいですか!とにかく、今回は魔石の設置です!そのあと、魔石の内容を『神龍』の皆様方に説明する必要があります。その際に、魔剣の使い手として紹介するという流れなので、大意はありませんよ!」
「そういうことですか。しかし、試すようで申し訳ないのだが、『神龍』との繋がりとやらにふさわしいか試させていただく必要があると思っている。」
「なぜだ?」
「今やこの竜谷は『神龍』様を中心に動いている。ゆえに、その力の一端が別の領土へ行くのは納得いかない。」
「竜谷は魔国やフィニアと協力関係にあるのではないのか。」
「協力はしている。信頼できる土竜人や鼠人、エルフもいる。しかし、それはあくまでも竜谷の発展に寄与していただき、我々で培ったものだ。昨日今日で理解できるものではない。」
「まぁ。それは確かにそうだ。我々も『神龍』の繋がりがあるというだけで、竜谷の竜人に信頼してもらおうなどとは思っていない。実力を見てもらい判断してもらっても構わない。」
「それなら話が早い。腕の立つものを用意して戦ってもらう。もちろん、『神龍』様の力は使わず実力で戦ってもらう。」
「わかった。」
「いいでんすか!?ガルフ兄様。」
「あぁ。ユーア殿がそういうのであれば、従う。この竜人との親善試合という形で信頼関係が構築できるのであれば、こちらも望むところだ。」
「フィル様。我々は元騎士。技術者とは違い、教授できるものがありません。戦うことでしか、有用性を示すことが出来ませんので。」
マルスはフィルに自分達には竜人との一戦が必要だということを説いた。
「そうですか。でも、それを含めて『神龍』様に話を通すべきです。」
「もちろん。私の一存で決める事ではない。しかし、両者が望むなら『神龍』様も承諾してくれるだろう。」
「では、案内してもらえるか?」
ユーアはヴィネに言うと、ヴィネは少し頭を下げ、世界樹へ歩き出した。




