第291話
第291話 魔国の日々1
時は、竜谷との和平を結んだあとに戻る。
「早々に僕たちは帰ってきてしまっていいんでしょうか?」
フィルは不思議そうに魔王エヴァに話した。
「竜谷自体が、未開拓の地にあったのだ、我々が舵を切っては、面白くないであろう。」
「確かにそうですね。いきなり部外者があーだこーだいう事じゃないですね。」
「それよりもいろいろ情報が欲しいことが山ほどあるのだ。一つは鳥竜種の育て方だ。今魔王城にピポナッチ殿を中心に鳥竜種を育てている。その知識が欲しい所だな。」
「鳥竜ですか。卵が羽化したんですね。」
「あぁ。試行錯誤しているが、本来であれば竜谷に住まわせる方がいいのかもしれない。」
「魔国はドラゴンが済むには適していないですもんね。」
「出来れば、竜谷に研究施設を移したいのだが、まだそれも難しいであろうな。」
「そういうことでしたか。竜谷は少数の人員を派遣して技術提供するということになりましたもんね。」
「そういうことだ。今は彼らの力を信じて見守る事だな。それはそうとエネルギー問題はどうなった?」
「え?あ、えー。難しいです・・・。」
「ははは。それはそうだ!無理難題を押し付けているのは、我も承知。ゆえに、我の提案を聞いてくれないか?」
そういうと魔王エヴァはフィルに耳打ちをした。
フィルは目を見開き、頭をぶんぶんと縦に振り、理解した様だった。
―――――
「ピポナッツ!」
「ピポナッチです。未だに覚えられていないのですか?」
「どっちも同じだよ。んで、今日は名工ギルドにうちと茶々丸とエヴァが呼ばれている理由は何だっけ?」
「それは、ピポナッチ様からの依頼です。」
「依頼?なんだぁ?」
「ワン!」
ここは魔国内にある名工ギルドの受付広間である。
そこにいたのは紅と茶々丸とそして、金色のエヴァであった。
「おお!よくぞ来てくれた!」
3人を見たダダンが近寄ってきた。
「これはダダン様。一体私達になんの依頼でしょうか?」
「ピポナッチ殿の直接の頼み事じゃ。我々名工ギルドも苦労している案件でのう。」
「なるほど。どういったことですか?」
「簡単に言うと、ピポナッチ殿の力にも耐えうる硬い武器を制作してもらいたいんじゃ。」
「硬い武器?」
「そうなんじゃ。依然作ったものは合金に合金を重ねて、さらにはルーン文字もありったけ施したのにもかかわらず、壊れてしまったんじゃ。だから、最強硬度の武器を作ってもらいたいのじゃ。」
「そうなんですね。確かに紅と茶々丸がいれば、出来そうですね。私の役目は、フィル様の代わりという事で調整なのでしょう。」
「また、石造りかぁ?」
「そうですね。今回は魔石ではなく純粋に硬い金属ということです。茶々丸は、フィルから教わった硬質の物質を作り出せますので、それを使えば容易だと思いますが。」
「頼んでもよいかの?」
「承知しました。では、工房で作業いたしましょう。」
4人は名工ギルドにある工房へ移動した。
「まずは茶々丸が思いつく、一番の硬度を誇る物質を生成してください。」
「ワン!」
茶々丸は、頭上で魔力を形質変化させ、黒い物質を作り出した。
「ワン!」
「サーチさせてください。・・・。確かに超硬度の物質ですね。しかし、まだ目が粗い。では、次に型を作りましょうか。ピポナッチさんは、大剣を使うという事だったので、大剣の型を作りましょう。」
「ワン!」
茶々丸は、砂を固めたもので大剣の金型を作り出した。
「なんとも便利じゃのぅ。金型があっという間じゃ。」
「茶々丸は大精霊ですからね。さらには、含有する魔力は、神格化された紅と同等。今回作る武器も神器と呼ばれるものに近いのではないでしょうか。」
「神の武器か。もはやドワーフのわしでも手の届かない代物じゃな。」
「では、次にこの超硬度の物質を紅。溶かしてください。」
「いいの?」
「はい。溶かしてこの金型に流し込んでください。」
「わかった!」
紅は茶々丸の作り出した黒い物体を燃やしだした。
そこからが長かった。茶々丸が作った物質自体の融点がとてつもなく高かったのだ。
温度をどんどん上げていく紅。まわりの職人たちは工房から逃げ出し始めた。
そして、エヴァが電気を用いた磁場を発生させた。
「これは何じゃ?」
「磁場アニーリングですね。熱加工している最中に強力な磁場をかけることで、磁性素材の結晶配向がそろうんです。」
「まったく何を言っているのかわからん!昔のフィル様を見ているようじゃ。」
「とにかく。金属の分子配列をきれいにしているっていうことです。」
「そうなのか・・・。」
「では、どんどん溶かして金型に流し込みましょう。」
「もっと熱くするぞぉ!」
温度がさらに上がった。
どろりと茶々丸が生成し続けている黒い塊が赤くなり溶け出している。
それが金型に入っていく。エヴァは金型に流れ込んだものに強力な磁場を当て続けている。
「もういいでしょう。茶々丸。この砂で出来た金型を極限まで圧縮してください。そしてそのままゆっくり冷却します。」
「ワン!」
茶々丸はエヴァの指示通り、砂の金型を圧縮した。一見して変化はないが、超強力に圧縮されている。
「あとどれくらいでできるんだぁ?」
「とにかく触れるくらいまで冷え固まるまで待ちましょう。」
そして、数時間かけて完全に冷え固まった。
今までの作業は全て空中で行われていたが、その時が来た。
出来上がっていた金型と作業台に置いたその時だった。
メキメキと音をたて、作業台を破壊し、さらに床が抜けた。
「あ?どうなっとるんじゃ!」
「高密度すぎて重量がとんでもないことになってしまいました。」
「あーあ。これ動かせないぞぉ。」
「茶々丸の金属を操る力で運んでもらいましょう。とにかく金型から出しましょう。」
そういうとエヴァは、砂で出来た金型を自らの拳で破壊し始めた。
そこから露出して現れたのは、漆黒の金属板だった。
「これまた、大剣とは言えん形しておるの。」
「あまりに硬すぎて刃を研ぐことが出来ませんね。しかし、凶器としては十分です。」
「これでピポナッツの武器は完成なのか?」
「はい。これ以上の強度のものはおそらくないでしょう。」
「ルーン文字も刻めないほどの強度か。どうなのじゃ?純粋にこの金属の硬さのみでいいのか?」
「はい。十分です。この金属は、一切のすき間なく整列した分子で出来た茶々丸の最高硬度の金属です。紅が本気を出せば融解しますが、それ以外なら欠けることもないでしょう。」
「きっとピポナッチ殿も喜ぶぞ!この板の名前はどうする?」
「・・・。真に黒いと書いて『真黒』にしましょう。」
「ダジャレか!エヴァはネーミングセンスないなぁ。」
「いいじゃないですか。格好いいと思います。」
「ワン!」
「茶々丸までいうんだから、いいか!」
こうして、ピポナッチの新しい武器『真黒』が完成した。




