第289話
第289話 竜谷の開拓2
『自由な塊』は、魔力で如何様にもできる有能な金属だ。
魔国ではこれを建物の骨組みなどに利用されることもあれば、複数人で大型のもの作り出すことで水道管などを作ることに利用されている。
インフラ整備や居住地の拡張などに利用されるものであり、その技術は土竜人や鼠人により日々試行錯誤され、長い年月をかけて完成したのが、『自由な塊』である。
それを竜人たちが見よう見まねで作ろうとしている。しかし、すぐに出来るものでもない。そもそも、通常、土属性の形質変化でできる事は、砂を操ったり、金属や岩石を生成したりすることだ。
『自由な塊』には、耐火性などの付与がされており、さらには魔力を込めると自由に形を変えられるという摩訶不思議な金属である。そんなものを見たことがない竜人からしたら、形質変化で重要なイメージが湧いてこない。単純な複製とは違い、理解して初めて生成できる代物だった。
―――――
『数日経つけど一人も作れんやん。』
「私は竜人の皆様なら出来ると思っています。」
『根拠はなんやねん。』
「見てくださいよ。誰一人も文句を言わず、魔力が切れるまで作ろうと必死です。これほど熱心な種族はいないと思います。」
『悔しいだけやろ。相手に出来て自分に出来ないことが。』
「理由は何でもいいです。成し遂げようとすることが重要なのです。」
『モグレン。なんかコツでも教えてやってくれへんか?』
「・・・。正直なところ、こればっかりは、『自由な塊』がこの世に存在するんだと認識してもらい、それを自分の手で作るとしか言えません。例えば、そこら辺にある岩は、その岩があると認識していますよね?だから、形質変化で作れるんです。しかし、『自由な塊』は、そもそも我々が作り出した人工物。それを認識してもらうところからなんですよ。」
『何日かかるんや・・・。』
「我々の仲間を派遣しないと決めた以上、竜人たちで作るということです。気長に待ちましょう。」
―――――
そのころ、エクスカリオンは一人の小さいエルフを背中に乗せ、世界樹の周りを飛び回っていた。
『・・・。ここは、飛竜種の巣にしたいのだが。』
「全然、余裕ですよ!」
『・・・。そうか。それは頼もしい。どこから取り掛かる?』
「あの辺りで降ろしてもらえますか?」
『・・・。わかった。』
エクスカリオンと小さいエルフは、巨大な世界樹の枝に降り立った。
すると、そこには、褐色の小さいドラゴンの雛が数匹いた。
「わお!でっか!」
『・・・。ポルルはドラゴンを見るのは初めてか?』
「は、はい!食べられませんよね?」
『・・・。断言はできない。だが、食べられそうになったら我が助ける。』
「絶対に助けてください!」
『・・・。では、さっそくだが、お願いする。』
「はい!分かりました!」
ポルルと呼ばれる小さいエルフは、世界樹の枝に手を添えると、みるみるうちに枝の形が変わっていく。それは、ドラゴンの雛を取り囲むように、枝と葉が取り巻いた。
それは、ドラゴンの巣であった。本来であれば、巨大な枝の上に放置されている雛だが、ポルルのおかげで、枝から落下することはない。
「あと何か所くらいですか?」
『・・・。世界樹を止り木にしているドラゴンたちはかなりいる。いたるところに簡易的な巣を作ってもらいたい。これは竜人ではできないので頼む。』
「分かりました!たぶん魔力が切れると思うので、その時はエクスカリオン様お願いします!」
「・・・。あぁ。任せてもらおう。」
「ありがとうございます!」
ポルルはエクスカリオンの背中に乗り、世界樹の上部で巣作りを行った。
―――――
そのころ、アクアリウムゼムは、一人の鼠人と一緒に大量の水が落ちる滝にいた。
「これはすごいっすね~。」
そういうのは、鼠人のチュレムだ。
『これが竜谷の壮大な景観だ。豊富な水資源から得られる魚は、竜人たちやドラゴンにとっての主食だ。』
「ここに養殖場を作ると・・・。魔王エヴァ様の考えることはすごすぎて俺にはわからないっす。」
『人材は、竜人たちを使うといい。』
「ありがたいっす!」
『しかし、この滝から流れ出る水、そして川のどこに養殖場を作る気だ?』
「それはもう決まってるっす!この滝の裏に作るっす!」
『滝の裏?』
「そうっす!滝の裏を掘削して、広大な池を複数作るっす!もちろん、滝が崩れないように補強するっすよ!滝の流れは、池の古い水を流すのに最適っす。うちらは地下の空間を利用するのが得意っす。だから、養殖場は滝の裏に作るっす。」
『我には難しすぎて、分からないが合理的なのだな?』
「そうっすね。川沿いに作る方法あるっすが、それだと居住地の範囲を狭めることになるっす。あと洪水になると汚れた水が逆流して養殖場の水が濁るっす。その面、滝の裏であれば、流れは一方的で常にきれいな水を利用できるっす。」
『しかし、養殖場の水はどこから取り入れる?』
「流れを作る必要はあるっすけどね。それは任せてもらいたいっす、地下水を利用すれば養殖場に水を溜めれるし、汚れた水は滝の向こうへ流せるっていう寸法っす!」
『なるほど。よくできた案だな。』
「魔王エヴァ様は、最強の頭脳っすからね。」
『では、指示をくれ!我も手伝おう。』
「ありがとうっす!じゃあ、神龍のアクアリウムゼム様は、この膨大に流れ落ちる滝の水を止めてもらっていいっすか?」
『は?』
「いやいや、じゃないと滝の裏側を竜人の皆さまが掘削できないっすから。」
『この滝を止めろだと?』
「そうっすね。」
『わ、わかった、どうにかしよう。』
そういうと、アクアリウムゼムは小さかった体を元の巨大な神龍へと戻し、滝に打たれ始めた。
翼を広げ、流れ落ちる滝の水の流れを変え、滝の傘となった。
「では、竜人の皆さん!アクアリウムゼム様が傘になっている間に、滝の裏の工事を進めるっすよ~!」




