第274話
第274話 模擬戦 藍VSガルフ1
『ようよう、馬鹿にするのもいい加減にしとけや。『神龍』がビビるやと?犬っころごときでか?』
『事実だ。甘く見るな。イグニコルアス。』
『笑わせんなや。うちが負けるやと?大概にせえよ?繋がりがどうのこうの言うてる場合ちゃうやろ?『神龍』が負ける?んなわけあるか。』
顔が引きつり苛立ちを隠せないイグニコルアス。
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「次の対戦は、藍対ガルフ兄様です。よろしくお願いします。」
「よろしく願おう。」
「よろしく。」
お互い軽いお辞儀をして、距離を取る。
「では、始めてください!」
フィルが合図をした。
「フィルの兄さんかどうか知らないけど、すぐ終わらせるよ。」
「申し訳ないが、マルスの敗北を見て一層やる気が出た。藍殿、全力でいかしてもらう!」
「はいはい。うちも手を抜く気ない。『誘波』」
とてつもない魔力量を誇る藍の『誘波』が発動された。青色の羽衣を羽織っている状態で妖艶だが、渦巻く魔力は刺々しく荒れ狂う。
その姿を見た『神龍』たちは、息を飲んだ。
『・・・なんという魔力量だ。』
『・・・。堅狼の比ではない。質も違う。』
『何言うてんねん・・・。』
強気なイグニコルアスも藍の膨大な魔力に宛てられて、わなわなとしている。
しかし、ガルフだけは一点の曇りなくその魔力の嵐のなかでも藍を見ていた。
『うちがビビってちゃしゃあないか。いくぞ。ガルフ・バン・アドレニス。』
イグニコルアスが、ガルフの名を呼んだ。
ガルフの闘気は青白い火炎のように燃え上がった。最初からイグニコルアスはフルパワーだった。ガルフとの繋がりが焼き切れるのではないかというほどの一方的で強力な力の譲渡。
大気の温度が急上昇し、砂がガラスへと変わるほどの熱量を出した剣をガルフは引き抜いた。
剣は形を変えており、列炎龍を刀身に宿したと言っても過言ではないほどの威厳を放っている。
「負けるわけにはいかない。王の剣。ガルフ・バン・アドレニス。押して参る。」
「熱いなぁ。」
灼熱の剣が藍を襲う。機動力はガルフの方が上であった。体温の上昇もあり、身体能力が向上し機動力や攻撃力も大幅に増幅していた。
藍は、水の壁を即席で作るが、ぶくぶくと蒸発して消え去ってしまう。
炎を巻いた剣が藍を襲うが、ひらりと躱す。蒸発した蒸気によってガルフの攻撃の軌道を読んでできる所業だ。形質変化を利用した回避は、機動力の無さを砂や水を使って先読みすることで対人戦での回避に一役買った。
藍は、天魔神を超魔法で倒した。同じことをガルフ相手に打ち込めば勝てる。しかし、これは模擬戦であり、対人戦だ。藍に取っては、そこが違った。大魔法を放つまでの魔力を練り上げる時間を捻出させてもらえない。
形質変化によって、蒸気となった水で辛うじて攻撃を回避する。一見ガルフが押しているように見えるが、高温の熱が藍には効いていない。
『なんでやねん!うちの炎がなんで通用しないんや!』
『あの娘。何か変だ。』
『・・・。水そのものと戦っているようだな。』
『んなら、蒸発させて終いやろ!いくぞ!ガルフ!うちの咆哮を使えや!』
ガルフは踏み込み、藍の懐へ一瞬にして移動し、剣を振り下ろした。
「『列炎龍の咆哮』」
真っ白な光を放ち、超高温の世界が広がった。目の前にあるものすべてが融解していく。
模擬戦で放つにはあまりにもありすぎる力の開放。砂漠が一瞬にして溶解し、瞬時に固まりガラスを形成していく。
すべてを蒸発させる高温は、藍も例外なく蒸発させてしまった。藍の姿がどこにもない。
『ほら!見てみい!うちの咆哮で消し飛んだやんか!所詮精霊やな!』
イグニコルアスが歓喜の声を上げている。
ガルフも渾身の一撃を放ち手ごたえを感じていた。
しかし、フィルが一向に勝敗の合図を出さない。
マルスやユーアがきょろきょろしだし、何を待っているのかと感じているその時だった。
「熱いなあ。」
ガルフの背後に集まりだす水の塊。
それがどんどんと人の形を成していき、藍が復元された。
「水を生み出すだけじゃなくて、うち自身が水なの。わかる?」
「・・・更なる高みとはこのことか。」
藍は水そのものであり、操ることも生み出すことも、そして水そのものになる事もできる。
その藍を打開するには、ガルフはイグニコルアスと更なる協調を繰り出すことになる。




