第273話
第273話 模擬戦 茶々丸VSマルス2
『アクアリウムゼム!上や!』
イグニコルアスが叫んだ。
マルスの頭上から黒い巨大なものが落っこちてきた。
マルスはとっさにそれを剣で受け止める。それもやはりバターのように切り裂くことが出来た。しかし、落下してくる黒い鉱石が止まらない。裂けた鉱石が、辺りに流れ出る。
終わりがないく降り注ぐ巨大な鉱石は、魔剣により割かれているが、終わりがないので切り裂かれてはいない。
「ぐう・・・。」
あまりにもの質量にうめき声を上げるマルス。剣を振り切れず、落下してくる巨大な鉱石をひたすら割き続ける。
その巨大な鉱石の出どころは頭上にあった。茶々丸がどんどんと土属性の形質変化を行いマルスへと降らせていた。切り裂かれた鉱石は砂となり、頭上へと舞い上がり、再び形質変化として再利用されていた。
『一度使った魔力を再び形質変化に再利用するだと!?』
『あの犬っころすごいやん!』
『・・・。ループというなの無限地獄か。』
切り裂くとは、割くものの境界があるからできる所業であり、無限に続くものは切り捨てることはできない。マルスは、必死に巨大な鉱石の塊を切り裂き続ける。
アクアリウムゼムは間違っていた。茶々丸は魔力を再利用していたわけではなく、辺りにあった砂だった。砂を操ることで、再利用を実現した。砂を操作する程度であればそれほど魔力を使わない。
砂を魔力で練り上げ、硬質化させることで、威力を上げたものを頭上から落とすというシンプルなもの。しかし、それは地表につけば、再度砂に戻り頭上へ舞い上げられて、再び硬質化し落ちてくるの繰り返し。疑似的な無限ループを作り出した茶々丸は、マルスを釘付けにすることが出来た。
『小癪な!すべて飲み込み流し去ってくれる!いくぞ!マルス!合わせろ!』
マルスとアクアリウムゼムは、心の中で繋がっている。言葉を交わさずとも次に何をすべきなのかが頭に浮かんでくる。
マルスは、硬質の巨大な砂の塊を剣で切り裂いている。
永遠に繰り返されるその攻撃を打開する一手をマルスとアクアリウムゼムは、放った。
「『氷牙激流葬』」
バキバキっと砂の塊が凍り付いていく。そして一つの氷像となって、動かなくなった。
茶々丸の形質変化を氷で無理やり凍り付かせ、封じ込めた。
茶々丸とマルスの模擬戦は、見守る皆をハラハラとさせる。
茶々丸の頭脳プレイは、まだ続いていた。辺りにある砂を使い巨大な塊にし、マルスにぶつける。
切っても手ごたえのない砂の塊は、さらさらと音を立てて崩れる。しかし、なかには、見た目は砂だが超硬質な塊が混ざりこんでいた。その緩急が、魔剣を消耗させていた。
小さい砂埃も発生しており、マルスは目を細める。
砂が目に入らないようにするためだ。視界が狭くなるが、砂が入っては、茶々丸を見失う。
砂の攻撃に対しての打開策が、氷による強制的な凝固にあると理解したマルスとアクアリウムゼムは、剣を振るい辺りを凍らせる。
徐々に砂による猛攻が収まり始め、茶々丸への攻撃に転換できたマルスとアクアリウムゼムは、闘気を練り上げ、一刀両断の一撃を茶々丸へと向ける。
「茶々丸殿。私の活動限界も近いのでこれで最後ですよ。」
『おお!見せてやれ!一撃必殺の抜刀を!』
マルスは納刀し構えた。
茶々丸は攻撃させまいと、硬質なドリル打ち込む。
しかし、マルスが刀身を見せる前に、ドリルは両断される。
「行きます!剣技:星屑の一閃」
マルスの攻撃は何もかもを置き去りにして、茶々丸を切り裂いた。
血しぶきを上げる茶々丸だが、倒れない。致命的なダメージを回避していた。
それを可能にしたのは、やはり辺りにあった砂だった。空中に漂う砂や、地面から伝わるマルスの軌道を感じとり、即座に致命傷を避けた。
マルスは、すでに納刀していた。が、目を見開き恐怖に取り付かれていた。
ガタガタと体が震えるのが分かる。それは圧倒的殺意と物量が周りにあるからだ。
アクアリウムゼムも目を見開き、マルスが感じる恐怖を共有し、絶句していた。
それもそのはず、マルスの周り一寸先には、何百何千、何万という小さく鋭利なドリルが回転して、マルスを貫かんとしていた。
茶々丸は、マルスの一撃で怒りつつも、理性を保ち、そのドリルを放たなかった。
もし、放たれていたら、マルスは串刺しになり続け、ぼろ雑巾のようになり果てていた。
「ま、参りました。」
大きな傷を受けたのは茶々丸だったが、勝負に勝った。その逆で大したダメージは負っていないが、勝負には負けたマルスとアクアリウムゼム。
膝を着き、肩で息をし始めるマルス。アクアリウムゼムとの共闘が切れたためである。
しかし、段違いな業の切れを見せることが出来たのもすべて、お互いの協調があったからだ。
「はい!そこまでです!この勝負、茶々丸の勝ちです!」
フィルが、大きく声を上げる。
急いで二人に回復魔法を施すフィル。模擬戦といっても、全力を出し切りたいと申し出た元騎士団長達の初戦は、敗北に喫した。
しかし、四大精霊であり、神格化していないとはいえ、強大な魔力量を誇る茶々丸に一太刀を入れたマルスは、人知を大きく超えた存在と言える。
「茶々丸殿。ありがとうございました。さすがの戦いぶりでした。」
「ワン!」
―――――
「ようよう!犬っころに気圧されて負けるなんてありか!?」
「馬鹿を言うな。あの犬の殺気を感じなかったのか?マルスから伝わるあの殺気。遊ばれていたようだ。」
「・・・。あの一太刀は、正真正銘。マルスとアクアリウムゼムの一撃であった。」
「アクアリウムゼムも殺しにかかっとるやないか!」
「ああ。殺すつもりだった。しかし、レベルが違いすぎる。」
「・・・。なら、われらも同じようにしなければな。」
激闘の末、マルスと茶々丸の試合は終わった。
しかし、この戦いは残された『神龍』たちに火をつけてしまった。




