第250話
第250話 ゴーレムVS雷猫2
ニニンは懐から丸薬を取り出し、奥歯で嚙み砕いた。
その丸薬は、もちろん毒だ。飲めば、大幅に魔力を回復し、痛みも感じなくなる。
だが、体に甚大な副作用をもたらす丸薬であり、これを飲んで、最大火力を叩き込んで破壊できなければ、それまでの冒険者だったということ。
そう頭の中で考えるニニンは、フィルが作り上げた魔石の副産物と戦う羽目になってしまったが、自分が出来る全てを相手にぶつけるつもりでいた。
「忍者とは耐え忍ぶものでござるにゃ。」
壊れた左手も丸薬のおかげでなんとか動かせる。動かせると言ってもほとんど機能していない。前足のように支え踏み込めば、次はない。そんなことはこの際どうでもいい。
ゴーレムと距離をとり、しゃがみこんだ姿勢から、まずは1つ目。
「『紫電:雷の環』」
ニニンとゴーレムの前に10個の電気でできた輪っかが現れた。
するとまた一瞬、妖艶な体が、しわくちゃの枯れ枝のような体になった。
『紫電:雷の環』とは、線形加速器のようなものであり、その輪の中を通るたび直線的に加速させる雷の形質変化だ。高周波電場を用いてその輪に通ったものに連続的にエネルギーを与えことができる。
簡単に言えば、輪をくぐれば加速するという事だ。それが10個設置された。その直線上には、もちろん魔石がある。
ニニンがいたところが爆ぜた。
驚異的な脚力から始まったスタートダッシュは、完全に左手を破壊した。しかし、『紫電:雷の環』を通り抜けるたびどんどんと加速される。もはや、目で追える速度でなくなり、超高速の体は瞬時に魔石との距離を縮め、その爆速のエネルギーと共に魔石に着弾するとき、2つ目を発動させた。
「『紫電:無黒雷貫』」
今度は右手だけだった。だが、先ほどとは比べ物にならないくらいの加速したエネルギーが付与された「『紫電:無黒雷貫』」。右手の爪が魔石とぶつかり火花を散らす。
まさにレイルガンの砲弾となったニニンは、魔石と自分との間に出来た衝撃に体が破壊されそうになっている。それを無理やり身体強化と丸薬の力でねじ伏せる。
歯を食いしばり、耐え続け、その衝撃と雷撃の融合が臨界点に達した時、3つ目を発動させた。
「『無黒雷貫:真心打』!!!!!」
加速エネルギーと雷のエネルギーそして、その両方が一つに集約された貫き手の衝撃を魔石の中心へと響かせた。魔石の中心に突如として、現れた超強力な電流と衝撃波は、行き場を無くし放出しようと暴れまわる。
そして、行き場を無くした電流が内部から、魔石を崩壊させ、さらにとてつもない衝撃が内側から魔石を破砕させた。
粉々に砕け散り、きらきらと舞い散る魔石。
ばたりと倒れ、動かなくなるニニン。その体は、もとの小さい姿に戻っており、さらには、枯葉のようにしわくちゃになり、老婆のようだった。
ニニンの必勝の三連コンボ。倒れこんだニニンの周りでは、がれきと化したゴーレムと未だに地面を這うように電撃が迸っていた。
アダマンタイト冒険者のニニンが、人型以外のものを倒すのは少ない。なぜなら、今この時のようなときにしか発動できないからである。自分よりも格下相手に短剣を振るい状態異常を狙うやり方ではなく、秘術を使えば、強敵も倒すことができる。
しかし、秘術は理不尽を払いのけるほどの力があるからこそ、その代償がある。
ニニンの副作用は、体を老化させてしまうところにあった。若返りの術を使っているからこそ幼女の姿をしているように見えるが、ニニンはもう100年近く寿命を使っている。
特殊な忍術という能力を持っているからこそ、会得できた境地。しかし、この戦いで一番寿命を削ったのは、エヴァに託した巻物の召喚だった。
エヴァは、倒れて小さくなったニニンを目にした。
最後は残すところあと1体。これを一刻も早く倒し、二人のところへ駆けつけ回復させなければならなかった。
ピポナッチもニニンも意識を失っている。
ニニンが託してくれた巻物が何を示しているのかは、読んでみなければわからない。
ゴーレムを倒したニニンのことだ、この場を打開できる策があるに違いないと思うエヴァは、放り投げられた巻物を取り、広げた。
そこに書いてあったものは、『秘術:水晶化粧』
エヴァは、みるみるうちに電雷鉱のエネルギーが失われているのに気が付いた。
発動させるためのエネルギーまで、ニニンは与えてはくれなかった。それはそうだ。
ゴーレムとの闘いで、体が老婆になるほどの魔力を使ったのだから、エヴァとゴーレムの闘いに譲渡できるほどの魔力などないに決まっている。
「まずいですね・・・。電雷鉱がないと活動が停止してしまいます。この術がなんなのかわからないまま発動させてしまいました。」
エヴァの視界が狭窄し始めた。
体を動かそうにもそのエネルギーが術の発動のために使われてしまった。
「ピポナッチ様、ニニン様・・・。」
ギシギシと抵抗するが、エヴァの目の前は真っ暗になり完全に停止してしまった。
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