第208話
第208話 選抜
フィルは、自分の『簡易図書館』の範囲で天魔神の情報を調べ上げた。
「みんなに集まってもらったのは、誰が天魔神の相手をするかを決めるためなんだ。」
「やれることはやったでありんす。」
「あとは自分を試すだけ。」
「この窮地を乗り越える力をみな有していると思います。」
「最強の私がどんな相手も蹴散らしてやるわ。」
「ワン!」
「茶々丸も神様になるつもりだなぁ!」
「冷静にフィル様の話を聞きましょう。」
各々が自分の力を信じ、仲間を信じてこの窮地を乗り越えようとしていた。
「まず、天魔神ライズについて説明するね。こいつは地属性と火属性の能力があるみたい。ゆえに導き出される能力は、地震や火山活動とかだと思う。」
「だと思う?というのは・・・。」
「読み取れたのはここまで。この能力が一部神格化されたものであるのは間違いない。だけどその能力が何なのかまでは分からなかった。」
「なるほどでありんす。」
「この天魔神ライズの相手をお願いしたいのは、『藍』。君だ。」
「うち、一人・・・?」
「そう。藍一人で対応してもらいたい。火の弱点は水だからという理由もあるけど、地属性を含む場合、強力な範囲攻撃がくると思う。それに対応できるのは藍。君しかいない。やってくれるね?」
「なんとかする!」
「ありがとう。次に天魔神チラスについて、説明するね。こいつは、水属性の能力がある。特に予想されるのは天候を操る能力だと思う。これについては、『翠』。君にお願いする。」
「確かにわっちであれば、雲をかき消すこともできるでありんしょうね。」
「そういうこと。でも、多分、一番規模が大きい。生半可な魔法じゃ太刀打ちできないと思う。」
「大丈夫でありんす。わっちも最強になりんすから。」
「なんだか頼もしいね。じゃあ、次に天魔神ラストについて、説明するね。こいつはたぶん風属性を操る。嵐や竜巻、突風といった風を操ると思うんだ。だけど、それだけじゃない何かの能力があると思っている。これは、『紅』と『茶々丸』にお願いする。」
「やっとうちの番かぁ!しかも茶々丸と一緒か!」
「ワン!」
「風属性は火属性を強化する能力がある。だから、紅と相性がいい。紅の力を発動させるまでの盾役は茶々丸にお願いするね。」
「ワン!」
「茶々丸、攻撃は紅がやるから、ちゃんと練習の成果を出してね!」
「ワン!」
「茶々丸!うちに任せろ!」
「それじゃあ、最後に天魔神フィアについてなんだけど・・・。ごめん。これは、情報がない。」
「・・・情報がないとは?」
「調べたんだけど、真っ黒な挿絵しかなかった。どういうことかもよく分からない。」
「ぶっつけ本番というわけですわね。」
「ごめん。そうなる・・・。」
「これは、リン様とリリィ様、そして私の3人で相手するということでしょうか?」
「その通り。情報がない状態だから、人数を多めに割きたい。」
「なるほど。そしてフィル様は、首魁のガブリエルというわけですね。」
「そういうことになるね。役割分担も決まったことだし、ここでもう一つ重要なこと伝えるね。各都には、船が配置されているのは、知っているね。その周りを警備している兵士たちや冒険者たちについては、守る対象じゃない。あくまでも君たちは、天魔神の討伐に専念してほしい。」
皆が沈黙した。
助けられる命は、乗船したものだけということをフィルから伝えられたのだ。
今回の戦いのなかで、すべての者を助けることは不可能だとフィルに言われた。
従者たちは、命令である以上従うが、ガルフやアダマンタイト冒険者たちとは面識がある。
フィルと一緒に生活していれば、アドレニス王国だったころの兵士たちとも顔見知りだ。
その人たちを救えないと思うと心が痛む。
「もちろん。僕が何もしないわけじゃない。乗船していない人たちも含めてなんとかして見せる。だから、戦いに専念してほしい。」
「分かったでありんす。」
「わかりましたわ。」
「わかった。」
「しょうがないかぁ。」
「致し方ない判断です。」
「承知いたしました。」
「ワン!」
「ありがとう。こんなこというのは、矛盾しているかもしれないけど、みんなは絶対生きて帰ってきてほしい。」
「なにかあったら再召喚できるだろぉ?」
「心配はしていませんよ。」
「存在ごと消えたら再召喚はできない。相手が天魔神なら何が起きてもおかしくない。だから、絶対に倒して帰ってきてほしい。」
「神に抗って、無傷で帰ってこいっていうのは、無理難題でありんすね。」
「フィル様、傲慢。」
「最強の私なら簡単でしょうけどね。今はまだ根拠に乏しいですけど・・・。」
「大丈夫です。我々は、今までとは比べ物にならないほど強くなっているはずですから。」
今回の相手は、フィルが直接手を下すものではない。各々が自分の力で打開する脅威であり、その相手は天使以上の力を有している天魔神だ。
フィルが、心配するのも無理はない。淘汰された歴史がその強さを物語っている。
この淘汰を従者たちだけで乗り越えようとしていることが、無謀であることを理解したうえで、フィルは信じていた。
従者たちの力が天魔神に匹敵するほどの能力だと信じているからこそ、天変地異の災禍に送り込むのだ。
間もなく想像絶する規模の大戦が始まろうとしていた。




