第2話
第2話 詠唱魔術
フィルは、退屈していた。
勉強が嫌いなわけではない。教えられるすべてをすでに知っているからだ。
天界の図書館の司書をしていた時に、数多の魔導書を読みつくし記憶している。
5歳児に教えられる魔法など遊び程度にしか感じない。
「フィル様、聞いておられますか?」
「ん?うん!聞いているよ。詠唱魔術は、誰でも魔法を使えるようにした画期的な技術なんでしょ?」
「はい。その通りでございます。」
「単一の詠唱魔術はもう暗記したから、二重詠唱とかの複数詠唱について知りたいな。」
「恐れ入りますが、単一の詠唱魔術ももっと深みがございます。基礎を学び終えましたら、次の段階へと参りましょう。」
「え~。」
不服そうなフィルをなだめつつ、魔法教師のゲインは続けた。
「単一の詠唱魔術も詠唱時間の長さが欠点でございます。より上位の魔法を発動させるには、長い詠唱を間違えなく唱えなければなりません。そこで、生み出されたのが無詠唱魔術でございます。」
「詠唱を分割して、縮めて略し続けた結果、無詠唱魔術が出来たんだよね。」
「その通りでございます。しかしながら、先ほどフィル様がおっしゃっていた二重詠唱とは相性が悪く、無詠唱による二重詠唱というのは、根本からできません。」
「唱えてないんだからそりゃそうだ。」
「圧縮した詠唱の最終段階は、発動する魔法名を言うこととあります。詠唱魔術の最小単位は発動する魔法名ということになります。お分かりですか?」
「ということは、発動する魔法名で二重詠唱できるってことだよね?」
「ご明察!無詠唱魔術は、相手の不意を突く場合などに用いりますが、複数詠唱はできません。詠唱魔術は最小の発動する魔法名を唱えることで、複数詠唱に対応することができます。しかしながら、ここまで高等技術は王宮内の魔法団でもほとんどおりません。ましてや、二重詠唱などは一人のヒューマンで成し遂げることは出来ないとされています。」
「ふ~ん。そうなんだ~。」
「私も多少の詠唱の省略はできますが、完全に無詠唱はできません。機会があれば王宮魔法団長とお話してもよいかもしれませんね。あの方は多忙ですが。」
「僕は無詠唱魔術できるよ?」
「はい?」
「いや、だから無詠唱魔術出来るよって」
「またまたお戯れを。今詠唱魔術の基礎を勉強しているフィル様が出来るはずがありませんよ。」
「なんかムカつくなあ。んじゃあ見せてあげるよ!中庭に行こう!」
ゲインは集中力が切れたのだと思い、フィルの言う通り息抜きがてら中庭に向かった。
「まずは、私がお手本をお見せします。『熱よ。赤き熱よ。火球と成りて燃やせ。 火球!』」
炎の球は、一直線に木の的に命中し、対象を燃やした。
「こんなところでございます。今度はフィル様の言う無詠唱魔術をお願いします。」
「まったく信じてないね。行くよ。」
フィルは、掌を前に出した。
すると、ゲインと同じような炎の球が出現し、的を射抜き燃え上がらせた。
「は?」
ゲインは驚愕している。
「ま、まさに無詠唱魔術ではありませんか!」
「だから言ったろ。出来るって。」
「これがどれだけすごいことか理解されていますか!?」
「あんまり使えるヒューマンがいないんでしょ。」
「それだけではありませんよ。王国の王子が無詠唱魔術の使い手と知れ渡れば、フィル様の王位継承も夢ではなくなります!」
「え~。そういうのはいいや。気楽に生きたいよ。」
「魔術の才がおありで、王位も気にせず魔術を極めたいということでありましたら、一層もっと魔術の勉強をしなければいけませんね!私、気合いが入ってきましたよ!」
「う、うん。」