第192話
第192話 鬼2
エクスカリオンの効果は、ニニンにも発揮された。
この中では、一番の速度を持つニニンが戦闘に参加したことで、形勢が傾いた。
『鬼』の攻撃を華麗に除け、的確に短剣での攻撃を入れていくニニン。
その黄緑色に光る刀身は、毒を流し込んでいる。
悪魔に毒は効かない。しかし、肉体のあるものには、毒が効く。
『鬼』は、ヒューマンや亜人の血肉を生贄に捧げ誕生した、実態のある化け物だ。
次第に動きが鈍くなっていく『鬼』
エクスカリオンの効果の対象外になっているエルメスもその動きを捉えることができるようになった。
エルメスの弩弓から放たれる光の矢が、『鬼』を更に窮地に追いやっていく。
体が傷だらけになり、滴る血が赤黒い体表をてらてらと光らせる。
そして、チャンスが生まれた。
エルメスの放った矢が『鬼』の目を捉えた。
声にならない声を上げ、ひるむ『鬼』。
そこになんでも切り裂く水星剣アクアリウゼムの一振りが放たれた。
金棒を持った腕を切り落とさんばかりの一刀両断が、右の腕に食い込んだ。
「剣技:激流葬!」
水しぶきを上げウォーターカッターのような要領で、『鬼』の右腕を両断した。
血しぶきを上げてくるくると回転して飛んでいく右腕。これで攻撃力が半減した。
と思った瞬間。
マルスの腹部に巨腕が貫いた。
「がはっ!」
なすすべなく吐血し倒れたマルス。
エクスカリオンで防御力も上がっているはずの体を切ったはずの腕が貫いていた。
なにが起きたのか誰も理解できてない。
「マルス!」
「ガルフ!私が前にでる。マルスを下げろ!」
「ユーア様、拙者と共に!」
ユーアとニニンが『鬼』の前に立ちはだかり、ヘイト買う。
その間にガルフがマルスを運び、後退する。
両断した腕は再生しており、その手には金棒が握られている。
傷をつけていたはずの体表も回復しており、『鬼』は元通りの姿に戻っていた。
『鬼』とは、大量の悪魔憑きが時間をかけて、行きつく成れの果てである。
それは、悪魔とは違い、詠唱や退魔の武器で少し傷を付けただけでは地獄に送り返すことは出来ない。
悪魔が、悪意の影であるとするならば、『鬼』は悪意そのものを具現化した化け物である。
倒し方は、伝承が残っている地域やフィルのようにこの世の歴史を知っているような人物でなければたどり着くことができない。
驚異的な再生力を有し、ヒューマンを遥かにしのぐ力を持っており、目にも止まらないスピードも兼ね備えている。
悪意を体現するために存在する化け物を倒すには、首を切り落とすしかない。
しかし、ガルフたちは『鬼』の正体にも気づいていない。倒し方など知る由もない。
さらに、なんでも切り裂くことのできる水星剣アクアリウゼムの使い手のマルスがやられてしまった。
首が弱点だと知ったところで、切り落とすのは至難の業だった。
「メルト!マルスを頼む!絶対に死なせるな!」
「わかりましたわ!アルト!一緒にお願いですわ!」
「しかし、相手の攻撃がくるかもしれないですよ!」
「そんなこと構っていられないわ!一刻を争いますの!」
「わかりました!」
二人は、腹部に大穴の開いた瀕死のマルスに治癒魔法を施した。
「「『最大回復』」」
二重詠唱からなる最大の治癒魔法は、瀕死のマルスを救う。
徐々に腹部が再生していく。
それと同時に大量の魔力を失っていく二人。
「もう二度は使えませんよ。」
「前線が崩れたら、どちらにせよ、みんなやられてしまうわ。」
―――――
ユーアとニニンが二人で戦っている。
再生能力を有している『鬼』に有効な攻撃が見つからない。
一撃必殺の攻撃を紙一重で躱し、短剣の乱舞を食らわせているニニン。
とっくのとうに致死量を超える毒を与えているはずなのにもかかわらず倒れる気配がない。
しかし、麻痺毒は有効なようで、時折動きが鈍る。
それも耐性がついてしまえば、効かなくなってくる。
動きの鈍った瞬間を狙ったように、突き刺さるエルメスの弩弓の光の矢は、『鬼』の体の一部を吹き飛ばす威力だが致命傷にならずに再生してしまう。
さらにエルメスの攻撃に枷を作っていたのが、ニニンたち前衛だった。
『光の矢』を打ち込みたいところだが、何百という光りの矢の雨は、前衛を巻き込んでしまう。
ゆえに、エルメスは得意の技を打てずにいた。
撃ったところで、再生されてしまうのも目に見えていた。
エルメスは、戦況を確認しながらアルトとメルトの前に立ちふさがり、『鬼』からの攻撃が来ないようにしている。
ニニンとユーア、そして合流したガルフが戦闘を始めたとき、悪意が口を開いた。




