第187話
第187話 新緑の奥地の戦い3
「キエエエエエエェェェェェェェェェ!!!!!!」
けたたましい超高周波の大音量の叫び声が樹海のなかに広がった。
―――――
エルメスはキーンとした音に目がくらんでいたが、すぐに状況を把握した。
極彩色のエリを広げた「ウルジャナフ」は、そのけたたましい音をエリで集音してしまい、完全にひっくり返っていた。
一方、サリープは、その場で倒れている。同様に間近で大音量を聞いてしまったため耳からは血が出ている。
せっかく、サリープが身を挺して作った好機をエルメスは逃さない。
キーンと鳴る耳鳴りを無視して、魔力を溜める。
「ウルジャナフ」は、足をばたつかせて、仰向けでひっくり返っている。
そこに、エルメスの弩弓から放たれた魔法矢が降り注いだ。
「『光の矢』」
それは一度ではなく、何発も打ち込まれた。
一回放つだけで約120発の光の矢が相手を穿つ。
しかし、今回は連続して何発も『光の矢』を「ウルジャナフ」の腹部に放った。
何千もの光の矢が「ウルジャナフ」の腹部を容赦なく穿つ。
光の雨が降り注ぎ、鱗の薄い腹部を集中的に狙われた「ウルジャナフ」は、完全に絶命した。
辺りには、「ウルジャナフ」の腹部から噴き出た血で、水辺が赤色に染まっていく。
エルメスは、すぐさまサリープの下へ駆けつける。
「サリープ!しっかりしろ!どうすれば助かる!?」
サリープは意識がない。
魔剤の副作用と至近距離のマンドラゴラモドキの絶叫により、完全に意識がない。
エルメスは、サリープのマジックボックスを漁った。
いろいろなものを取り出し広げ、中から彼を救えるものを探した。
「これじゃない!これでもない!くそ!何かないのか!」
すると、エルメスは、桐の箱に入っていた一つのポーションを見つけた。
それは、国宝級の上級ポーションだった。現在のところ、製造方法は確立していない。
アドレニス王国にある残り4つの貴重な一つだった。
エルメスは、そんなことは知らずに藁にも縋る思いで、サリープに飲ませようとした。
しかし、意識のないサリープの口からはポーションが零れ落ちてしまう。
それを見たエルメスは、自分の口にポーションを含み、サリープへと口移しをした。
無理やりに流し込まれるポーションは、サリープの体内へ流れ込んだ。
「がはっ!げほげほ!」
大きく咳き込みながら意識を取り戻したサリープ。
傷だらけになっていた身体もみるみるうちに回復していく。
明滅する意識がふっと浮上するように開けた。
サリープは、エルメスの膝枕のなかで覚醒した。
「エルメスさん。ここは・・・。」
「サリープ殿が、今一番安らぐ場所だ。」
「え?なんですか?」
耳の回復がまだだったサリープが聞き直したが、エルメスは恥ずかしそうにして黙ってしまった。
サリープとエルメスの周りには、マジックボックスから溢れた荷物で滅茶苦茶になっていた。
しかし、サリープはそんなこともつゆ知らずに眠りについた。
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こうして、二人で『巖砕竜ウルジャナフ』を討伐した。
エルメスは、自分の気持ちをはぐらかすために軽口を叩いていたが、サリープの戦いぶりを見て惹かれてしまっていた。
フィニアへ帰る道中も、もごもごと上手く話すことができない。
「ドラゴン種を倒すなんて、さすがアダマンタイト冒険者ですね。」
「サリープ殿がいなかったら無理だった。」
「え?」
「サリープ殿がいなかったらやられていたと言ったのだ。」
「僕は必至で守ろうとしたまでですよ。」
「かっこよかったのだ。」
「ははは。見直しましたか?アドレニス王国の第二王子ですからね。」
「・・・。してくれ。」
「え?なんですか?」
「・・・サリープ殿の妻にしてくれ。」
「は?」
「アダマンタイト冒険者のエルメス・ランダーは、アドレニス・バン・サリープに求婚する!」
「ええええええええええええ!!!!!」
フィニアの樹海にマンドラゴラモドキと同じくらい大きな声が響き渡った。




