第184話
第184話 エルメスとサリープ3
サリープとエルメスは、フィニアのエルメスの家にいた。
マンドラゴラの採取には、フィニアの樹海へ入る必要があった。
安全とは言えないフィニアの樹海で採取を行うために、準備をしていた。
「私の家に人を入れたことは無いのだが、特別だ。」
「そうなのですか。」
「なんだ?女性の部屋だぞ?」
「いや、何と言いますか・・・。何もありませんので・・・。」
「必要な物以外は置いていない。残念だったな。」
「なにも期待していませんよ!」
「はっ!可愛げのない王子だな。」
「エルメスさんから見たら私は子供なのでしょうけど、私はアドレニス王国の第二王子です。」
「子供だとは思っていない。可愛らしいとは思っているが。」
「そういうところですよ!」
「ははは。冗談はさておき、フィニアの樹海には、魔物が出る。用心すべきだ。特に私は前衛ではない。何かあっても、後方からの攻撃になってしまう。」
「私も土属性の魔法が多少使えるレベルです。」
「はぁ。それでは、私の後ろから離れるな。」
「わかりました。肝に銘じておきます。」
―――――
サリープはもともと用意周到な男であるため、マジックボックスの中にいろいろマジックアイテムが入っている。
そのなかには、ポーション以外にも役に立つマジックアイテムがある。
そういった品を持ち歩いているため、今回も何かあればそれを使用しようと思っていた。
だが、フィニアの樹海は、一筋縄ではいかなかった。
サリープはフィニアを少し出たところからそれを感じていた。
ローブを着たサリープには、鬱蒼とした植物が行く手を阻むのだ。
大樹だけではなく、地上には大小さまざまな植物が生えており、枝や葉、足元には根が張り巡らされており非常に歩きづらい。
エルメスは、軽装な装備であるが、ルーン文字の刻まれた胸当てをつけている。
小さなナイフ一本でどんどん先に進んでしまう。
「エルメスさん。もう少しゆっくりお願いできますか?」
「この調子では、マンドラゴラの生息域まで日が暮れてしまうぞ。」
「ですが、この格好では、進みづらくて・・・。」
「うむ。地上から行くのはやはり間違っていたか・・・。」
「野営するのであれば、準備はしてありますので、もう少しゆっくりでお願いします。」
「わかった。そうしよう。」
「ありがとうございます。」
エルメスは、サリープを気遣いナイフで辺りを切り開いていく。
少し道幅の広くなった植物の中をゆっくりと進んでいく。
すると、エルメスが立ち止まった。
「サリープ殿。動くな。」
「!・・・。」
「シルバーエイプだ。1匹か。やり過ごそう・・・。」
そこにいたのは、巨大な銀毛のゴリラのような魔物だった。
その腕は丸太のような太い腕で、銀色の体毛が特徴的だった。
シルバーエイプは、辺りをキョロキョロしながら、植物の実を食べている。
サリープやエルメスよりはるかに大きいシルバーエイプは、二人に気づいていない。
しかし、ちょうど先に進むところに陣取っており、迂回しなければならなかった。
「サリープ殿、私に捕まれ。」
「わかりました。」
サリープはエルメスの肩に捕まった。
「そうじゃない。私がサリープ殿を背負う。」
「え?」
「なんだ?」
「男としてのプライド的なものが・・・。」
「サリープ殿にそんなものがあったとはな。」
「・・・。ありますよ、一応。」
サリープはエルメスに背負われた。
そして、エルメスは、隣にあった巨木に手を当て、魔力を込めた。
すると、エルメスの足元から巨木の枝が生え始め、木の上へと押し上げていった。
これは、エルフの植物を操る魔法である。
どんどんと上昇していく二人。木の上に到着すると、エルメスが弩弓を取り出し、矢に紐を取りつけ、シルバーエイプの奥にある巨木に放った。
紐の付いた矢は、巨木に突き刺さり、簡易的なジップラインを作った。
ロープスライダーを取りつけて、サリープを背負ったまま、シルバーエイプの奥にある巨木へ渡った。
「なんだ?怖いのか?」
「さすがに高いです・・・。」
「さすがアドレニス王国の王子様だな。」
「いや。育った環境が違いすぎますよ。」
「はっ!この先もと危険だぞ。」
「足手まといになるつもりはありませんので。」
「言うじゃないか。次もこのままジップラインを作って行くがいいか?」
「魔物の脅威がない安全な場所に行ったら地上に下ろしてください。一応、マンドラゴラ以外の薬草も採取したいので。」
「そうか。高いのが怖いのだな。」
「そうじゃありません!」
軽口を叩きながら、さきに進む二人。
―――――
樹海のなかは、日暮れが早いため、安全な木の上に陣取り野営することにした。
エルメスの魔法で、巨木の枝の上に大きな横穴を作り、サリープがそこにマジックボックスから取り出した簡易テントを張った。
さらには、魔石を使った簡易コンロや携帯食や飲み物を用意した。てきぱきと用意するサリープをエルメスは眺めていた。
「王子はそんなこともするのか?」
「これは、マジックボックスを持つ者の役目ですよ。夕食も用意しますので、エルメスさんは休んでいてください。」
「こんなところで料理をするのか?携帯食で十分だぞ?」
「だめですよ。お腹が減っては何とやらですので。」
「匂いに魔物が来なければいいのだが。」
「それは心配ありませんよ。そこに置いてある御香が、魔物除けの効果を持っていますので。」
「ほう。便利だな。」
「旅のお供に私を連れて行けば不便はありません。なんて。」
「確かにな。」
夕食を食べ終え、火を消し、御香を最大限炊いた状態で、二人は狭い簡易テントのなかでゆっくりと休んだ。
サリープは、なぜだかエルメスのことを意識してしまい、なかなか寝られなかった。




