第173話
第173話 ガブリエルの思惑
魔国の魔王城の中では、ピポナッチの治癒が行われ、さらには、鼠人や土竜人により魔王エヴァの機体が収容されていた。
魔王城のなかには、ザラキエルの病原体の影響を受けずにいた子供たちが多くいた。
各部屋で身を潜めて、戦闘からの脅威に晒されることもなく無事でいた。
ピポナッチは武技:怪力により自壊した肉体を修復され、治療台の上で目覚めの時を待っている状態だった。
魔王エヴァは、機体の損傷が激しく、代替となる機体を作成するまで、コアを魔王城の厳重な保管庫へ一時的に預けられていた。
魔王エヴァが不在であるのは、由々しき事態だが、運んできた鼠人や土竜人は、慌てることなく他の量産型エヴァの支持のもと、魔王城にいる子供たちの安全を図っていた。
魔王城の外、居住区では大量の国民が意識を失い倒れている。
ザラキエルの病原体は身体を蝕み、息絶えてしまう者も現れ始めていた。
マザーブレインは、特効薬の生成にほとんどのエネルギーを割いており、量産型エヴァの生産ラインや魔王エヴァの代替機の製造もストップしている状態だった。
地中に住んでいた鼠人や土竜人が、ガスマスクを身に着け、トンネルから居住区へあふれ出てきた。
量産型エヴァの指示のもと、病原体の蝕まれた者をトリアージするためだった。
特効薬の完成まであと48時間といったところだったが、ザラキエルの病原体は確実に魔国の国民たちを滅亡させようとしていた。
抵抗力の弱い高齢者は次々と黒い紙を張られていく。
鼠人や土竜人は、ただなすすべなく量産型エヴァの冷たい声に従うしかなかった。
生存の可能性のあるものは、次々と運ばれていき、魔王城の前に並べられていく。
しかし、地べたに横たわる魔国の国民たちは、どんどんと衰弱していく。
今の魔国を救えるのは、マザーブレインによる特効薬の生成にかかっており、そのための演算をするために「天照」の動力をフル稼働させていた。
魔王エヴァも不在であり、フィルたちもダイダラボッチとの戦闘で満身創痍であり、動けない。
魔王城には、数少ない量産型のエヴァと子供たちと大量の罹患した国民、そしてひっきりなしに働く鼠人と土竜人たちの姿だった。
そんな状態のなか、魔王城のマザーブレインの核の前に現れたのが、ガブリエルだった。
羽根を広げ降り立ち、マザーブレインの動力源の「天照」の前に音もなく現れた。
「ザラキエルは、よくやってくれた。魔国の技術は目を見張るものがある。攻撃手段を持たない我にとっては脅威。それをここまで、そぎ落としてくれた。」
「警告。マザーブレインに侵入者。量産型エヴァ。至急迎え。」
魔王城内にアラームが鳴り響いた。
数少ない量産型エヴァが、マザーブレインのある部屋へ急いだ。
「マザーブレインとやら、少しの間対話しようではないか。己らのやろうとしていることを少しでも理解したいと思う。」
「単刀直入に伺います。目的はなんでしょう。」
「我の目的か?それは、この動力源だ。」
「この『天照』を奪われると特効薬の演算が出来なくなるため阻止させていただきます。」
「それは、我には関係のないことだ。」
「天使を使って国民を病原体で蝕ませたのは、あなたの差し金ですか?」
「我は助言したまでだ。貴様たちの行っていた寿命を固定するやり方は、死神の役目を侵害していた。それは許されざる行為である。」
「あくまでも、魔国内の円滑な成長のため、そして、国民の幸福追求のために行ったまでです。」
「貴様は、死後の世界を理解しているのか?」
「はい。死とは肉体的な死であり、思考が停止した場合、虚無となります。それを阻止するために、脳を保存し、電磁記録媒体にし、マザーブレインとして統合することで、死後も利活用される仕組みです。」
「違うな。それは一種の割り込みだ。肉体が滅びれば、魂だけが残る。その魂は、地獄または天界へ行くことになる。」
「魂は不確定な存在です。記憶や記録の塊を魂として認識することは可能ですが、有効に活用するには、死の直前に記録として残すことが現実的だと考えます。」
「魂は存在する。貴様のデータベースにもあるであろう?」
「魂は不確定な存在です。地上で魂を利活用する技術を有する生物は存在しないと思われます。」
「確かに。地上ではいないであろう。だから、魂になるまえに利用するという結論に至ったわけか。」
「脳に記録された情報を別の媒体に移行して利用するのは、現実的であり、魂の状態では利用不可能だからです。」
「まぁ。その通りだ。しかし、魂を利用することは出来る。天使や悪魔、貴様らが手が届かない者であればな。」
「そのような、強者がマザーブレインの核をなぜ欲するのでしょうか?」
「このエネルギーは、地上にあるべきではない。それだけ驚異的なものだ。」
「高度な演算には『天照』を用いた動力源は必須です。」
「ほう。『天照』と・・・。また、大きく出たな。なおのこと、地上には必要ないものだ。」
「目的は動力源の奪取と判断。量産型エヴァ。攻撃命令。」
ガブリエルとマザーブレインが会話している間に量産型エヴァたちが部屋に集まっていた。
帯電した機体は、ガブリエルに攻撃をしようとしていた。
「ひれ伏せ。」
ガブリエルは一言そういった。
その場にいた量産型エヴァは、ガタンっと音を立て地面にうつぶせになってしまった。
「さて、我の声は機械にも通用するのだな。」
「量産型エヴァの制御不能。」
「我は万物に声を届ける者。『熾天使』のガブリエルだ。」
「データベースに存在しません。対処法演算中・・・。」
「ただの頭脳だけで何が出来る。では、我の目的を果たすとしようか。」
ガブリエルは、マザーブレインの核に近づき、手を触れた。
「小癪な封印か。天使ごときの封印ではどうにもならんぞ。」
フィルが施した封印術が、ガブリエルの手で破壊され粉々に砕けた。
そして、高速回転するマザーブレインの核をガブリエルは奪った。
ブゥーンっとエネルギーの供給が止まったマザーブレインが停止する音が鳴った。
そして、至る所にいた量産型エヴァがバタバタと倒れ動かなくなってしまった。
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愛猫私




