第145話
第145話 ピポナッチ・メーカー
魔国では、街が発展するにあたり、資材や労働力が必須になっていた。
労働力に関しては、量産型のエヴァや移住者が担っているため特に問題は起きていなかったが、資材が足りていなかった。
多くの資材は、魔物からの加工品であるが、魔大陸の魔物は狂暴であり、量産型エヴァを連れた冒険者パーティが腕試し程度に依頼を受けるくらいだった。
そのなかでも、アダマンタイト級冒険者のピポナッチ・メーカーは、魔大陸の魔物狩りを中心に稼いでいた。
相棒の量産型エヴァは、ボロボロになっているが、その性能は落ちてはいない。
なぜボロボロになっているかというと、漆黒の鎧を装備した大男のピポナッチが大剣で前線を張る以外の役割をすべて量産型エヴァが担っているからである。
本来パーティを組まなければ、魔大陸の魔物狩りの依頼は受けられないが、実力者と認められた場合はその限りではない。しかしながら、量産型エヴァの同行は必須。これはいかなる場合も変わらない。
「今日はどのような依頼をご希望ですか?」
「魔物討伐の依頼をお願いするっち。」
「ギルドカードを拝見させて頂きます。」
魔国の冒険者ギルドの受付嬢はもちろんエヴァである。
その受付嬢エヴァにピポナッチはアダマンタイト級のギルドカードを見せた。
「アダマンタイト級昇格おめでとうございます。魔国周辺での依頼の全てを受注することができます。一覧をご覧ください。」
モニターに映し出される依頼を手慣れた手つきで操作し、一つの依頼を受注した。
「メルキバトラの討伐ですね。かしこまりました。同行するのは、その量産型エヴァでよろしいですか?」
「このエヴァが好きなんだっち。」
「かしこまりました。では、討伐対象の位置をバングルに転送しておきます。依頼期限は三日です。どうぞ、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
―――――
荒地に吹きすさぶ風が視界を悪くする。
しかし、その風をもろともせずに進んでいく、ピポナッチとボロボロの量産型エヴァ。
時折、バングルに目を向け、目的地を確認しながら進んでいく。
今回の討伐対象は、悪食竜メルキバトラである。ドラゴン種であり、硬い鱗と強靭な筋肉、そしてなんでもかみ砕いてしまう顎。
以前、アルムストラ近郊に出現したメルキバトラだが、魔大陸には珍しくない。
ドラゴン種ということもあり、巨大なため、街の発展のための資材になる。しかし、一人で討伐できるほど弱い相手ではない。
アルムストラでは、緊急クエストが発令され多くの冒険者を招集して討伐するほどの脅威だった。
その時はリンにより撃破されたが、それはリンが魔人族であり人知を超えた存在であり、フィルの特注の武器を持っていたからである。
その脅威をピポナッチと量産型エヴァの2人で攻略しようとしている。
ピポナッチは魔大陸の厳しい環境のなか、重たい漆黒のフルプレートを身に付けている。
そのフルプレートは、細かいルーン文字が刻まれたアダマンタイト製だった。
名工ギルドが作成した一品であるが、その鎧を着こなせるほどの筋力をピポナッチは有していることになる。
赤褐色の丘を越えた先に見えたのは、硬い甲羅を持った草食の魔物をバリバリと音を立て咀嚼しているメルキバトラだった。
「ふむ。噂通りでかいっち。」
「まだメルキバトラには気付かれてはいません。」
「んじゃあ、いつもの頼むっち。」
「かしこまりました。『電雷球』」
ボロボロの量産型のエヴァは、魔法を放った。空中を駆け抜ける球体状の電気の塊は、メルキバトラ目掛けて一直線に放たれた。
その後ろを鎧を着ているとは思えないほどのスピードで走り込むピポナッチ。
鎧のこすれる音が、風にかき消されているため、メルキバトラは気付いていない。
そして、『電雷球』が着弾し、メルバトラは体が硬直した。
そこに踏み込みの一撃を放ったピポナッチ。
『武技:腕力』
ルーン文字の施された大剣を腕力だけで振りぬいた。
メルキバトラの硬い鱗を割き、その巨体を吹き飛ばした。
メルキバトラは不意を突かれ吹き飛ばされたが、吹き飛ばされても踏みとどまり、大顎でピポナッチをかみ砕こうとした。
紙一重で大剣でガードしつつ、次の『電雷球』が着弾する。
『電雷球』自体もダメージがあるが、特出すべき点は相手を硬直させることにある。
メルキバトラは、麻痺して一時的に動けなくなっている。
ピポナッチは、大剣を振りかぶり力を溜めている。その大剣はメルキバトラの脚部を狙っている。
「武技:腕力溜め」
ゴゴゴと筋肉が収縮しパンプアップする音が聞こえるほど、力を溜め込むピポナッチ。
メルキバトラは硬直から解き放たれた瞬間、大剣がゴオォっと風を切る音が聞こえた。
ピポナッチの武技:腕力溜めから繰り出された大剣の一振りは、メルキバトラの硬い鱗、そして強靭な筋肉、さらには片足の骨まで断ち切った。
血しぶきを上げ、くるくると吹き飛ぶ足が、地面に叩きつけられると同時に、メルキバトラは態勢を保っていられず、その場に倒れた。
それでも、残った手足を動かし、体を暴れさせ、尻尾を振り回してくる。
それを大剣で捌きながら、ゆっくりとメルキバトラの顔に近づく。
時折、ピポナッチに届きそうなメルキバトラの攻撃を量産型エヴァがサポートに入り、妨害する。
大口を開け、ピポナッチをかみ砕こうとするメルキバトラの口の中に大剣がゆっくりと押し込まれた。
上顎から脳へ突き刺された大剣を引き抜くと、大量の血を吹き出しメルキバトラは絶命した。
「ドラゴン種も余裕だっち。」
「討伐に8分34秒かかりました。」
「ぼくっちの戦いぶり、どうだったっち?」
「致命的な隙がありますが、私と行動している間は、魔大陸の魔物の討伐に不自由はありません。」
「力を溜めている間の隙っちか?それは、エヴァがいるから安心して行える代物だっち。一人なら剛力や怪力を使って倒すから心配ないっち。」
「体に負担のかかる武技はお勧めしません。腕力より強い武技を発動したときは、メディカルルームに行くことをお勧めします。」
「わかったっち!」
そうこう話していると、金属でできた球体が土の中から無数に現れた。
これは、魔国の運搬用ドローンであり、討伐した魔物を回収するためのドローンである。
コロコロと転がりながらメルキバトラの下へ潜り込み、メルキバトラを固定し、魔国へ最短距離で運んでいく。
ピポナッチは、ボロボロになった量産型エヴァと共に魔国への帰路についた。




