第14話
第14話 城壁都市バルカン
「ガルフ様、戦況を報告します!ダンジョン周辺の魔物は、多くが地獄の猟犬であります。個々の戦闘力はそれほど高くありませんが、集団行動に長けており、周辺の森という地形も相まって負傷者が多数出ている模様です。」
「それで、バルカンには、魔物の出現は確認されたのか?」
「はい、森から抜け出した魔物が、バルカンを襲っている報告もあります。しかし、第二の騎士団とその団長が主にバルカンの守備を行っているそうです。」
「なぜ団長が足止めを食らっている。」
「それが、地獄の猟犬以外に大型の一つ目の大鬼が複数体いるようです。」
「体力のある一つ目の大鬼と、敏捷性の高い地獄の猟犬か。相手にすると厄介だな。」
「それで、負傷者はどの程度ですか?」
同じ馬車に乗っていたサリープが言った。
「それが、死者はそれほど多くないのですが、傷を負い戦闘に参加できないものが、6割ほどいるとのことでした。」
「半分以上!?」
「どうしてそのようなことになっている。」
「どうも地獄の猟犬の動きがおかしいとのことで、目的が殺すことではなく傷をつけることに徹底していると、他の団長のご意見でした。」
「魔物にそのような戦略をとることが出来るのか?」
「一つ目の大鬼に注意を引きつけ、地獄の猟犬で戦力を削ぐ。何とも狡猾な戦略だね。ガルフ兄様。」
「あぁ。ダンジョンまでの経路は確保できているか?」
「はい、前線の第一騎士団が死守しているそうです。」
「急いで、ダンジョン内に潜入しなくてはならないな。我々ダンジョン踏破組はバルカンを突っ切りそのままダンジョンへ直接向かうがよいか?」
「準備は出来ているよ。」
「良いですわ。」
「異存ありんせん。」
―――――
バルカンに到着したガルフたち増援部隊は、絶句した。
負傷した騎士や兵士が、治療に当たっている教会から溢れ、教会の敷地内だけではなく、路上にも横たわっていたからだ。
みな、うめき声をあげ、痛みに苦しんでいた。明らかに、負傷者の数が多すぎる。
フェデルブルク教会の増援は100名程度、焼け石に水の状態であった。
「ハイランド商会からポーションを買い占めているにもかかわらずこの負傷者の数は、想定外だ。」
「ポーションはダンジョン踏破用に残しておくべきだ。残念だけどここでは使えない。」
「メルトとアルトの力を信じるしかないな。」
バルカンの敷地内を走り去る、ダンジョン踏破組の馬車の中は重い空気が流れていた。
馬車の後ろの方では、教会の馬車が何台も止まり、勢いよく聖職者たちが飛び出して負傷者の治療の増援を始めていた。
「メルト姉様!我々に出来ることを精一杯しましょう!」
「けど、この数をどうやって・・・。」
「やるしかない!メルト姉様!」
語気を強めたアルトの声にびくっとしたメルトは、自身の顔を叩き、気合いを入れた。
「弱音を吐いている場合じゃありませんわね。」
二人の初陣は、数え切れないほどの負傷者の待つ後方支援という戦場に身を投じることなった。
―――――
城壁都市バルカン北門
「一つ目の大鬼が二体、地獄の猟犬は数十頭だ。なんとしてもバルカン内に入れるな!バルカン兵士は、地獄の猟犬の討伐に専念しろ!第二の騎士団は二手に分かれて一つ目の大鬼を討伐する。」
そういうのは、第二騎士団団長のユーア・メリルだ。長い金髪に純白の鎧を付けたユーアは女性ながらたぐいまれなる剣術と体術の才能を有しており、戦姫と言われている。
二体の一つ目の大鬼は、手に大きな樫のこん棒を持っており、その巨体でのしのしと歩いてくる。
地獄の猟犬は、一つ目の大鬼の後ろに隠れるようにして攻撃のチャンスをうかがっているように見える。
「一つ目の大鬼は、弱点の目を狙うために、足元を攻撃して体勢を崩せ!」
騎士たちが一つ目の大鬼の膝を狙って攻撃している。しかし、硬い皮膚はなかなか深い傷をつけられない。うめき声をあげ、振り回したこん棒がひとりの騎士に直撃した。メキメキと骨の砕ける音が鈍く響き吹き飛ばされる騎士。
「怯むな!攻撃を続けろ!」
ユーア自身も攻撃に一体の一つ目の大鬼の攻撃を避けつつ、愛刀の聖剣エクスカリオンで思い切り一つ目の大鬼の膝に渾身の一撃を叩き込む。
バルカンの兵士たちは、地獄の猟犬の俊敏な連携攻撃を盾で防ぎ、なんとかやり過ごしている。しかし、戦力は徐々に削られていく。
「バルカンの兵士よ!お前たちの力はそんなものか!両親や妻、子どもたちを守るのはお前たちの仕事だ!根性を見せろ!」
そういうと、聖剣エクスカリオンが光を放ち、周囲を照らした。
その光を浴びた騎士や兵士たちは、大声を上げ力が増した。
聖剣エクスカリオンの能力は、自分と周囲にいる仲間の戦闘力を一時的に上昇させる能力である。
猛攻を受けた一つ目の大鬼が膝をつき崩れ落ちた。
「行くぞ!弱点の目玉を抉りだせ!」
ユーアの声とともに一斉に騎士たちが一体の一つ目の大鬼に群がり、攻撃を仕掛けている。
「とどめだ!剣技!十文字聖剣!」
剣筋は光となり、一つ目の大鬼の一つ目を大きく焼き切った。
急所を突かれた一つ目の大鬼は、その巨体をドシンと倒し動かなくなった。
一体は倒した。休むことなく次の一つ目の大鬼へ攻撃を仕掛けようと目を向けたとき、対峙していた騎士たちがほとんどその巨体に押しつぶされていた。
こん棒には、べったりと血がついており、滴っていた。
ここで聖剣エクスカリオンが万能ではないことを説明しておく。
周囲の仲間の戦闘力を上げるといったが、その範囲は遠くなればなるほど弱まってしまう。
団長の周りにいた騎士たちが、助かったのはあくまでもユーアの近くにいたからだ。
少し離れたところで、もう一体の一つ目の大鬼と対峙していた騎士たちは、能力が上がったとしても一つ目の大鬼に壊滅状態にさせられていた。
「今行く!続け!」
そこに、ダンジョン踏破組の馬車が来た。
「ユーア団長!道を開けてください!」
ガルフが大声を出して、ユーアに叫んだ。
「ダンジョン踏破組の馬車だ!何としても死守せよ!」
ユーアと残った騎士たちは最後の一つ目の大鬼に駆け寄り、馬車に攻撃が向かないようにしている。
バルカンの兵士たちは、身を立てにして地獄の猟犬の攻撃から馬車を守っている。
「見てられませんわ。」
「辛抱でありんす。」
すると、馬車にいたサリープが叫んだ。
「地の精霊よ、我が手に岩よ、集い来たれ、敵を圧し潰せ。大岩塊」
放たれた魔法は、地属性の中位魔法。一つ目の大鬼の弱点の目玉向けて射出された。
着弾した勢いで、一つ目の大鬼は後ろにひっくり返った。
「サリープ!魔力は温存しておけ!」
「でも、あの惨状をみて何もするなというんですか!」
「内輪もめは止めるでありんす。」
「今の攻撃がなければ、馬車は押しつぶされていましたわ。」
「しかし、ダンジョンでサリープがやられてしまう方がもっと損失が大きい。」
「仕方ありんせん。ここからはわっちも出来るだけ戦闘をサポートするでありんす。馬車の中から攻撃できるのは、わっちとサリープ様くらいしかおりんせん。」
「ありがとう。翆殿。」
ダンジョン踏破組の馬車は、バルカン北門を通過し、第二騎士団の横を駆け抜け、目の前にある巨木の森へ突入していった。




