第133話
第133話 紅の粒子
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「というわけで、エヴァのエネルギー問題については、理解してくれたかな?」
「なるほど。小型化するのが物理的に難しいということですね。」
「そうなんだ。それで紅の方はどうなったのかな?」
「見てくれ!これだ!」
紅は自信満々に人差し指を立てている。
フィルは、注意深くその指先を見た。
「これは・・・。粒子?」
「見えるでありんすか!?」
「うちらには見えない。」
「多分だけどエネルギーの粒子だ。でも、どうやって?」
「うちは、怒りで自分自身が爆発する寸前まで行ったんだけど・・・。そうじゃなくて、この小さなやつを飛ばすことで、その怒りを制御できる気がしたんだよぉ。で、やってみたらできた。」
「ほうほう。紅自体がエネルギーの本体で、そこから粒子を飛ばすことで安定すると?」
「フィルが何を言ってるかは分からないけど、たぶんそういうことだぁ。」
「これこそ、僕が求めてたものだよ!すごいよ!紅!」
「えへへ。みんな聞いた?うちすごいって!」
「わっちらからは、何も見えないので何がすごいのかさっぱりでありんす。」
「確かにそうね。見えているのはフィル様と紅だけですわ。」
「紅。その粒子ってどこまで大きくできる?」
「今は一粒だけ。でも、大きくするのは簡単だと思う。ちょっとやってみる。」
紅は、人差し指を立て、目をつむった。
人差し指の先端には見えない何かがある。
しかし、それを中心として、風が吹き荒れ始めた。
「ん?ちょ、ちょっと、タンマ!」
「フィル、どうしたんだぁ?」
フィルは焦りながら紅を止めた。
「危ないね。これ。このまま粒子を大きくしたらヘリオスとの闘いの時に見たエネルギーをはるかに超えるよ。崩壊したらこの世界が消し飛んじゃうレベルだ。」
「だから、あの時、ヘリオスの次元の裂け目にミカエルは放り込んだんでありんすね。」
「そうだね。今回はそれ以上の代物だ。たぶん、1グラムでもあったらこの世界が消滅するレベル。」
「でも、制御できていますよね。」
エヴァが言い出した。
「確かに。紅の指先ではちゃんと制御されていた。どうやってるの?」
「えーっと。魔力でちょちょいとって感じか?」
「魔力でちょちょいと・・・。」
「魔力でコーティングしているのではないですか?」
「あ!そうそう!コーティングって言いたかった!」
「なるほど。それほどのエネルギーを魔力でコーティングか・・・。ちょっと茶々丸、魔石を一つ作ってくれる?」
フィルは茶々丸にお願いした。
その魔石を手に取り、球体へ形質変化で形を変え、球体の外側に光線彫りでルーン文字を書き込んだ。
「紅。これの中に粒子を一つ入れてもらっていい?」
「うん。ここから入れるんだな?」
「そうそう。」
紅は、人差し指のさきから見えない粒子を球体の魔石の中に入れた。
すると、魔石は激しく輝き出し、浮き上がり回転しだした。
「一粒でこの回転数!?」
「どうなってるんですか?」
「浮遊のルーン文字はさておき、魔力でのコーティングってのは、ルーン文字であるんだよ。簡単に言うと魔力付与ってやつなんだけど。例えば、ただの剣に魔力を帯びさせるっていうやつね。それを使って粒子に魔力のコーティングを施して、この魔石の動力源にしてみたんだ。もうひとつのルーン文字は回転。」
「では、紅の作った粒子一粒でこの魔石は回転しているということですか?」
「そう。すごくない?多分、止めないとずーっと回ってるよ。これ。」
「どうやって止めるんでありんす?」
「え?あ、考えてなかった・・・。」
「魔石を割るしかない。」
「そしたら、さきほどの岩の塊と同じように木っ端みじんになるのでは?」
「危ないよ。」
「回転も止められないからどうしよう。」
「紅。中の粒子を取り出して消せないの?」
「え。ちょっと待って・・・。あぁ。一回身体から完全に離れたら無理みたいだぁ。」
「わかった!これは実験の成功例ということで、とりあえず、こうしよう!」
フィルの周りに、四面体を基調とした魔法陣が浮かび上がり始めた。
すると、空間に裂け目が生じた。
その裂け目は、高速回転をする魔石を飲み込み消えた。
「あ・・・。」
「フィル様が捨てましたわ。」
「ヘリオスの技でありんす。」
「ヘリオスだ。」
「ヘリオスってめちゃめちゃ便利な技使ってたよね!」
フィルは、どうしようもないエネルギーの塊を別次元へ放り込んだのだった。
「で、でもこれでわかったよね?」
「モーターの完成です。発電できます。」
「エヴァの動力源になり得ますね。」
「さすが、うち!」
「安全面に不安が残るでありんすが・・・。」
「確かにそうね・・・。急に大爆発とかしないかしら。」
「そこは、僕と茶々丸に任せてもらおう!エヴァが粉みじんにならないように・・・。というか、この世界が粉みじんにならないようにするから。」
「とんでもない兵器を卒業の成果として発表するんですね。」
「・・・。どちらかというと、魔石を利用した発電を発表しようと思うよ。それなら、問題ないでしょ?」
「そうですね。紅の粒子を使った発電は、オーバーテクノロジーです。」




