第127話
第127話 天よりの宝札
ミカエルは、キューピッドになったヘリオスを連れて天界に帰って行った。
荒野となった元ダンジョン周辺の森は、ミカエルの手で復元された。
戦闘の最後を見ていた従者たちは、ミカエルとフィルの話を聞いて驚愕していた。
何せ、『熾天使』であるミカエルよりも古い天使というのは、初耳だったからだ。
戦いぶりも神そのものであり、地上の生物のなかで最も上位の存在だと確信していた。
「フィル様、さきほどの話は本当なのですね・・・。」
スーツ姿のリンが、茶々丸に寄りかかりながら話しかけてきた。
「あんまり、特別視されたくないから言わなかっただけなんだけど・・・。僕はもともと天界の図書館の司書をしていたんだ。2000年くらいね。それ以前は、天使として普通に地上を眺めていたんだけど、神様から任命されてからはずっと図書館にいたよ。」
ぼろぼろの着物の翠がリリィを抱えて言った。
「お強いにもほどがありんすね。あのヘリオスを別の存在に書き換えてしまうなんてチートでありんす。」
集まって来た従者をみてフィルは、焦った。
回復したとはいえ、ボロボロの姿で紅やリリィは意識を失っている。
「そんなことはとりあえず置いといて、みんな僕の周りに集まって!」
そういうと、従者たちとクロムウェルとエヴァは、フィルの周りに集まった。
フィルの手には『簡易図書館』から取り出された一冊の本があった。
「『天よりの宝札』」
辺りに淡い光が灯った。みるみるうちに傷ついた体はもとに戻り、ボロボロだった服やエヴァの金属のボディも元に戻った。
全回復した紅とリリィが意識を取り戻した。
「・・・どうなったんだぁ?」
「周りが元通りになっていますわ。どういうことですの?」
「細かいことは私が後でお話しいたします。」
と、リンが二人に話しかけた時だった。
紅がエヴァを見つけ大声を上げた。
「エヴァ!助けに来てくれたのかぁ!?」
「はい。あまりお役には立てませんでしたが・・・。この体を頂いた代わりといっていいのかわかりませんが、私がやりたいことを実行してみました。」
「うちはものすごくうれしいぞぉ!」
「それはよかったです。魔王城のことは、定期的に連絡すれば大丈夫だと思うのですが、これから私はどうしたらいいでしょうか・・・。」
「どうするって一緒にくればいいじゃないかぁ!なぁ!フィル!」
「こら!紅!フィル様ですよ!」
「なんだぁ?急に。フィルはフィルだろぉ?」
「紅は無頓着でいいでありんすね・・・。」
フィルの扱いが今まで通りの紅を見て他の従者は嘆息した。
そんななかクロムウェルがフィルに話しかけてきた。
「フィル様。今回の件、まことにありがとうございました。契約の履行として魂の復元の件なのですが・・・。申し訳ございません。私も切羽詰まっており、実は魂の復元の仕方はわからないのです。」
「そんなことだろうとは思っていたよ。今回、クロムウェルには助けられた。べつに見返りはいらないよ。さらに言えば、魂の復元は、フィニアの時に解決していたからさ。」
「そ、そうなのですね。それでは、私は地獄の管理がありますので、皆さまとはここでお別れといたします。」
「あぁ。ありがとう。地獄で何かあれば、天使じゃなくて僕が介入させてもらうからね。」
「は、はい。かしこまりました。」
黒い煙になって姿を消したクロムウェルは、地獄へと戻っていった。
「さて、地獄の門も無事みたいだし、復元もミカエルにしてもらったからあとは帰るだけだ!ガルフ兄様にちょっと出て来るって言ってからかなりの月日が経っちゃったから心配してるだろうね。」
「エヴァの歓迎会もするぞー!」
「紅。あんまり恥ずかしいので、普通でいいですよ。」
「エヴァ。こういうときは、理由を付けて飲むものなのですよ。」
「確かに。今回はわっちらも頑張りんした。」
「羽目を外すチャンス。」
「浴びるほど血が飲みたいわ。」
「ワン!」
フィルは、『簡易図書館』を連発しても魔力切れを起こすこともなかった。
それは、自分のヒューマンの魂をメルトとアルトの魂の復元に使い果たし、天使の恩寵が解放されたことにより、本来の力を手に入れたからである。
しかし、それとは別に、今回のヘリオスの一件で大量の魂を恩寵の動力源にすることで、一時的ではあるが『熾天使』になっていた。
その効果は、ヘリオスをキューピッドに変えた神の御業を行使した後も残っていた。
『熾天使』まではいかないまでも、ただの天使だったフィルは、『智天使』まで進化していた。
堕天しヒューマンに転生したフィルは、地上で天使として力を取り戻し新たな調和を生み出していくのであった。




