第108話
第108話 氷上の戦い3
船の後方に巨大な氷の山脈がそびえ立ち、『鎧武者ゾンビ』の歩く音が消えた、そのころリリィは5つ目の心臓を破壊されていた。
残りの心臓はあと3つ。雷虎はそれを知らないが、「死ぬまで殺す」を体現するように、何度も電撃で動きを封じては、的確に心臓を貫いてくる。
本来であれば、すでにリリィの敗北であった。しかし、時間を操れる能力によって、何度も危機から回避していた。
「どうしたぁ!もう終わりかよ!」
「もう少しの辛抱ですわ。」
「何を待ってやがる!何かしでかす前に殺す!」
わしゃわしゃとグルーミングをして帯電する雷虎。
その場でぴょんぴょんと跳躍し、身体を温める。
そして、足元が爆ぜ、ロケットのようにリリィに向かって飛んでくる。
『反撃できるところを見せておかないと時間が稼げないですわね。』
一直線に飛んでくる雷は、リリィの時間操作でゆっくりになる。
「『時間遅延』」
「『魅力的視覚』」
雷と化した雷虎の突撃を間一髪のところで避けたリリィは、雷虎の腹部目掛けてクリティカルヒットをたたき込んだ。
コミカルなエフェクトが迸ると同時に、雷の轟音が鳴り響いた。
「ごはっ!」
強烈な反撃を受けた雷虎は、腹部を抑え悶えている。
一方リリィは、感電しその場で黒い炭と化して硬直したまま動かなかった。
リリィの心臓はあと二つになった。
「くっそおおおおお!痛ってええええええ!」
息を荒げ大声で叫ぶ雷虎。
転げまわり、のたうち回り、暴れまわっている。
リリィの『時間遅延』『魅力的視覚』のコンボを受けても耐えている強靭な肉体は、獣人特有のものである。しかし、最高戦力のリリィのクリティカルヒットは、確実に雷虎にダメージを与えた。
リリィは、黒い炭から元の姿に戻り、雷虎が暴れまわっている姿を見ている。
「どうかしら。本気を出したらこの程度じゃ収まらないわよ。」
転げまわるのを止め、口から血をぺっと吐き、向き直る雷虎が言った。
「死なねぇくせにこんな強烈な攻撃持ってんのかよ。・・・手が止まっちまう・・・わけねえだろ!」
リリィは雷虎の攻撃させないために、わざわざ一つ心臓を使い、反撃したにも関わらず、雷虎はテンションを上げている。
その場でぴょんぴょんと跳躍し、肩を回し、屈伸し次の攻撃に移ろうとしてる。
「まずいわ・・・。とりあえずあと一回は・・・。」
海上は藍の超魔法によって、気温が極度に低下していた。
無意識のうちに雷虎は、その寒さから来る体のこわばりを準備運動をすることで、体温を上げ血流を促し、本来の攻撃力を保とうとしていた。
獣人に関わらず、人間は寒さに弱い。しかも、魔法により一瞬にして環境が変わった中で対応するには、自分の体温を上げるしか方法がなかった。
雷虎は、電気を帯電し突撃の姿勢を取った。
その時だった。それは雷虎を襲った。
「ぐふぅ。」
急に雷虎は吐血した。
目の前がぐらっと歪み、回転しだした。立っていられず、その場に倒れ込んだ。
「な゛んだぁ?」
「藍の魔法に助けられたわ。」
「な゛に゛言ってやがる・・・ごはっ。」
再び大量の血を吐く雷虎。
「あなたをひっかいたときに私の血をあなたの体内に少し流し込んだのよ。吸血鬼の血は猛毒って知らないかしら?」
「毒・・・!?」
「あなたは獣人だから毒の効き目が遅くて、ひやひやしたけど。藍が気温を下げてくれたおかげで、あなたは勝手にウォームアップして、血流を良くしてくれた。でようやく効いてきたってわけですわ。」
「てめぇ・・・。毒なんて卑怯だろ・・・がふ。」
「卑怯も何も、あなたみたいに触れただけで死ぬような能力も十分卑怯だと思うわ。」
雷虎が倒れている場所は、吐血により段々と血だまりになっていく。
大量の血が吐血によって排出された雷虎は、体温を維持することが出来ず、動けない。
「くそっ!・・・。」
雷虎の罵声が小さく氷上の風音にかき消された。




