第105話
第105話 挟み撃ち
西側の武人、雷虎と嵐龍の二人と対峙し臨戦態勢に入った三人。
しかし、その近くにはもう一つ、いや何万という数の『鎧武者ゾンビ』が向かっていた。
その存在に気付いたのは、浮遊していた嵐龍だった。
「おや?あなた方の援軍ですか?」
「え?」
船尾のほうを振り返った翆と藍が目にしたのは、大量の船に乗った数えきれないほどの『鎧武者ゾンビ』たちだった。
大砲を撃ち込み、攻撃を仕掛けてくる船はどんどんと近づいてくる。
「藍、後ろは任せたでありんす。」
「わかった!」
「援軍ではないのですか?」
「わっちらはどちらの味方でもありんせん。」
「ということは、どちらに対しても敵ということですね。」
「なんでそうなるんでありんす!」
「東から来たものは敵。ただそれだけのことです。」
「おいおい、大人しくおしゃべりかよ。とにかく全員ぶっ殺せばいいんだろ?」
「やれるものならやってみなさい、獣人。」
「なんか、むかつくんだよなぁ!そのしゃべり方!」
雷虎が踏み込むと甲板が爆ぜ、ものすごいスピードでリリィに迫る。
強烈な大振りの右のこぶしをリリィは左手で掴んだ。
「あぁん?華奢な手で良く掴めるな?」
「それだけへなちょこってことですわ。」
「うるせぇ!『雷轟』!!!」
雷がバリバリと大気を裂くような音が海上に響いた。
リリィは強烈な電撃を浴び感電した。リリィの左手の皮膚は炭化しひび割れていた。
電流は体中を駆け巡り、髪の毛は逆立ちリリィの口からは煙が出ていた。
「リリィ!」
その姿を見ていた翠が叫んだ。
近寄ろうとしたが、嵐龍に阻まれた。
「うかつに雷虎に触るからああなってしまうんです。」
勝ち誇った顔をしながら、腕を組みリリィの姿を見ていた雷虎がぴくッと耳を動かした。
「あぁん?なんで死んでねぇ。」
「さて、なんででしょうか。その小さな頭で考えてみなさい。」
黒く炭化したものの中から、真新しい姿で傷一つないリリィが現れた。
「と、その前にこの船を破壊されたくないのですわ。藍、お願いしてもいいかしら?」
「でも、いいのかな。あいつらもこっち来ちゃうよ?」
「船が壊されたら元も子もないですわ。」
船尾で迫りくる『鎧武者ゾンビ』をライフルで倒していた藍にリリィが言った。
「まぁ、いいか。『絶対零度』!」
入り江の形の海上が一面、氷で埋め尽くされた。
どこまでも氷の大地と化し、水の上にあったすべての時が止まったようだった。
すべての船は動きを停止し、氷の上を船から降りた『鎧武者ゾンビ』が進軍してくる。
「やっぱり・・・。」
「藍、ゾンビの群れはお願いしますわ。」
「・・・何体いると思ってんの。」
「おぉ!すげえな!魔術は海を凍らせられるのかよ!いい足場ができたぜ。」
「そうですわね。これで、船の上で戦う理由はありませんわね。」
そういうと、リリィと雷虎は、船から飛び降り向き直った。
翆と嵐龍も反対側の氷の上に降り立ち、向かい合った。
ジャリジャリと音を立て迫りくる無数の『鎧武者ゾンビ』。その数は氷の海上を埋め尽くすほどだった。
戦いやすくするために足場を作ったが、『鎧武者ゾンビ』たちも同様に進軍できるようになってしまった。
藍は、こうなることがわかっていたが、海上を氷漬けにすること自体それほど魔力は使わないので、一番の戦闘力を誇るリリィのいう通りにした。
一番厄介なのは、雷虎と嵐龍である。この二人を確実に無力化しなければ先には進めない。
「じゃあ、そろそろ本気で行くぜ!雷神:雷虎。押していくぜ!」
「名前を言う必要性を感じないのだけれど、リリィ。私はだだのリリィ。これでお別れですわ。」
「私たちも参りましょうか。風神:嵐龍。繊細かつ華麗にそなたを倒します。」
「風神を名乗るなんて、何かの嫌味でありんすか?わっちは翠。風の四大精霊でありんすよ。」
お互いに名乗ったところで、両者にらみ合い合図を待っていた。
それは、藍の一撃で始まることとなった。
大量にこちらに向かってくる『鎧武者ゾンビ』に向かい藍が初弾で放った大技が凍り付いた海上に響き渡った。
「『海氷星』」
超巨大な氷塊は、頭上から降ってきた。いわゆる『隕石』の氷塊バージョンである。
『熾天使』級が使うの魔法の『隕石』とは違い、威力は劣る。しかし、藍のなかでもトップクラスに超強力な範囲攻撃である。しかも、水が豊富な海上では、水の四大精霊の藍は無類の強さを誇る。
超巨大な氷塊は大気との摩擦で白い煙を吐きながら、ゆっくりと着弾する。
メキメキと氷塊が凍り付いた海上を押しつぶしながら、崩壊する。
砕かれてもタンクローリーほどの氷塊の一つ一つが辺りに転がり、『鎧武者ゾンビ』を押しつぶしていく。
着弾とともに発生した轟音をきっかけに、戦いの火ぶたが切って落とされた。




