第102話
第102話 エヴァ3
「そういえば、難しいことはわからないけど、なんでエヴァはあんなに温厚なんだ?魔人族は争いごとが好きなんだろぉ?」
「きっとエヴァ自体が分かっているのですよ。その考え方自体が、自分の与えられた役割の邪魔をしていることに。」
「種の保存ってやつかぁ?」
「そうです。弱肉強食は世の理です。しかし、それでは結果を出せなかった魔人族の在り方をエヴァは考えている最中なのですよ。だからこそ、今が重要なのでしょうね。」
「なるほどなぁ。」
湯あみをしていると、そこにエヴァがやってきた。
「おおお!エヴァ!お湯に浸かって大丈夫なのか!?」
「えぇ。問題ありません。私もお話しに入れてください。」
「魔王様から面会の許可は下りていませんが・・・。」
「お二人の湯あみの時間にここに来ればお話しできるかと思いまして。」
「確かに。魔王も女湯はさすがに覗けないなぁ。やっぱりエヴァは頭がいいなぁ!」
「しかし、その体。とてもよく似合っていると思いますよ。」
リンは、エヴァの特注の身体を褒めた。
「ありがとうございます。一つ思うことがありまして。」
「なんだぁ?」
「このパーツのお返しはどのようにしたらいいのでしょうか。」
「そんなことかぁ!それはうちらがエヴァにやりたくてしたことなんだからお礼なんていらないぞぉ!」
「とは、言いましても・・・。」
「では、何かエヴァが恩返しできることを考えてみたらいいのでは?私たちはあなたが選んだものであれば嬉しいです。」
「難しいですね・・・。」
「まぁ、気長に待ってるから気にするな!」
「はい。」
―――――
エヴァとリンたちは、面会時間以外にも湯あみの時間を共にした。
そして、最終判断を下すと気が来た。
「エヴァについてだが、このまま魔人族の繁栄、維持を担えるかどうか結論を出してくれ。答え次第よっては、新たにエヴァを作り直す必要が出てくるからな。」
「正直言うぞ!エヴァは、魔人族の繁栄、維持とか難しいことから距離を置いた方がいいと思う!エヴァはエヴァとして魔王が作り出した一人の魔人だということ、それだけで十分じゃないかぁ?」
「・・・。リンスはどう考える。」
「私も正直に申し上げます。魔人族は、滅ぶ。これは抗いようのない事実です。エヴァが存在することで魔人族の繁栄、維持というのは、不可能だと考えます。なぜなら、今エヴァは、エヴァとしての個の確立を成し遂げようとしています。そこに役割を与えてしまうのは、彼女の成長を著しく阻害するものと考えるからです。」
「では、エヴァの存在意義とは何になる。」
「エヴァは傀儡じゃないだぞぉ?自分の考えがあってそれに悩んで前に進もうとしている普通の女の子だ。魔王が存在意義を与えなくてもエヴァは勝手に見つける。」
「エヴァはエヴァとして、生きてもらうことを進言します。そのうえで、魔人族の滅亡は切り離して考えるべきです。」
「・・・。」
「魔王様の考えはわかりますが、エヴァを使い魔人族を保つという前提が厳しかったのかもしれません。今は多種族との争いを避け、各地に散らばっている魔人族を呼び、少しずつ人口を増やしていく・・・。申し訳ございません。今の私に考えられる代替案はこの程度です。」
魔王は目をつむり長い沈黙のあと口を開いた。
「・・・。わかった。消えゆく残り少ない時間で、エヴァと協力しリンスの代替案を参考に次なる一手を見つけてみよう。」
「ありがとうございます。」
「やはり、私一人では、解決することができない。リンス。魔王城に戻ってきてはくれないか?」
「・・・。申し訳ありません。今はフィル様にお仕えしている身。魔王様のお言葉でも出来かねます。」
「では、そのフィルとやらが死ぬまで、魔人族が滅ばぬよう尽力しよう。一度は会ってみたいものだな。フィルというヒューマンに。」
―――――
茶々丸は、小さな体を変化させて巨大な魔獣と化していた。
門番たちが茶々丸に荷車を結び、荷車に物資を積み込んでいた。
「ありがとうございます。荷車と地図まで。」
「いいのだ。早くフィルの元まで帰ってやるといい。そして、ヘリオスとやらを倒してこい。」
「結局何もお返しできずに申し訳ありませんでした。」
「いいんだよ!ヘリオスを倒したら、転移で遊びに来れるからなぁ!」
「楽しみにしています。」
「では、魔王様、エヴァ。お世話になりました。また。」
「またなぁ!」
リンたちを乗せた荷車が徐々に動き出した。
魔王城のある赤褐色の荒野に吹く風が今日は、止んでいた。
絶好の出発日よりであった。
そのころ、リリィたちは船の奪取に奮闘していた。




