第1話
第1話 堕天使の司書
ここは、天界にある図書館。この世の理を全て記録している魔導書を扱っている。その管理の一切を任せられている天使ことフィルゴームは、神に呼び出しを受けていた。
「フィルゴームよ。お前がこの天界の図書館の司書として任命されてからどの程度経つ。」
「はい。私が任命されたのは、およそ2,000年前となります。」
「そうか。日々の務めご苦労。」
「滅相もありません。禁書庫を含めた魔導書の管理は私の務めでございます。」
「さて、しかしながら、この世のすべてを記録している魔導書は時代を経て増えていく一方だ。」
「そうでありますね。書棚の増設や空間魔法による収納にも限りがございますので、古代の書物に関しては、圧縮し封印して対応しております。」
「そうか。フィルゴームよ。単刀直入に聞こう。お前が任命されてから図書館に来訪した者はいるか。」
「・・・来訪した者はいません。」
「・・・正直なところ、これ以上図書館への経費は出せないのだ。よって我々も紙による保存ではなくでじたる(・・・・)とやらを導入しようと思う。」
「な!それでは、今までの書物はどうなるのですか!」
「それもでじたる(・・・・)化だな。」
「では、私の務めは・・・。」
「すまないが今日をもって司書の任を解く。そして、天界ではなく地上にて余生を過ごすことを命じる。」
「堕天ということですね。」
「・・・そういうことだ。」
こうしてフィルゴームは、司書の任を解かれ、大好きだった蔵書に囲まれた生活から地上の王族として転生することとなった。
神が用意した憑代は、地上の王国の王位継承権第四位という争いにも巻き込まれなく、かつ不自由もない子どもへと転生させた。
転生して5年後・・・
「フィル様どちらにいらっしゃるのですかー!」
広い廊下を数人のメイドがあちらこちらを探している。
転生後の名前は、フィル・バン・アドレニスという。アドレニス王国の第四王子として誕生し、天界の記憶、本への興味は引き継いだままだ。
「見つかってたまるか。おっと、言葉使いに気をつけなきゃ。」
天界のましてや神に仕えていた天使だったので、仰々しい言葉を使うのに慣れてしまっていた。しかし、ヒューマンになった今では、その言葉すらも制限されることもなく自由にできていることが純粋に嬉しかった。
フィルが何をしているかというと、そう読書である。
王宮の中にある図書館に入り浸っているのである。フィルが興味を持ったのは、おとぎ話だ。
想像の世界を記述した本というのは、天界の図書館には存在しなかった。
「な!強敵倒してハッピーだったのに、同じときにこんなひどいことになっているなんて。悲しすぎる。」
胸が締め付けられる思いをしながら感情移入していると・・・。
「また、読書ですか?フィル様もお好きですね。」
話しかけてきたのは、王宮の図書館の司書のミレンだ。
メガネをかけ、前掛けをしてきちっとした正装をしているのは、彼女が本を愛しているという表れだとフィルは思っている。
「ミレンはこの本読んだ?」
「もちろんです。今は最新刊の入荷を待っているところでございます。」
「あああ。ネタバレは禁止だよ!」
「わかっておりますとも。しかし、物語の本ばかりでは、父であるアドレニス王に叱られるのでは?」
「大丈夫だよ。この国の歴史とか、周辺国とのいざこざとか、剣技、魔術なんかは、もう読み終わったからさ。」
「はて?私が見る限りそういった本を読んでいるお姿は見かけておりませんでしたが。」
「あはは。え~そうだったかな?」
吹けない口笛を吹き、誤魔化しているフィルを怪しそうに見てくるミレンは、結構鋭い。
「物語の本ばかりではなく、お勉強もしっかりされないとだめですよ。」
「わかってるよ~。」
そんな雑談と読書を楽しんでいると、メイドが入ってきた。
「フィル様また図書館にいたのですか!魔法の稽古の時間ですよ!早くお支度を!」
メイドに抱きかかえられ連れ去られていくフィルに小さく手を振るミレンだった。
またゆるゆると書いていきます。