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2.返事がない。ただの屍のようだ……

 いや、落ち着け!

 落ち着け落ち着け餅つけ餅つけペッタンペッタン磯辺焼き食べたい……。

 うん、バカみたいな自分を再認識してちょっと落ち着いた。


「お嬢様? どうかなさいましたか?」


「あ、う、ううん。なんでもないわ!」


「そ、そうですか? では、お(ぐし)を整えますのでそちらにお掛けくださいませ。

 すでに朝食の用意が出来ております。本日は旦那様もご同席なさるそうです」


「り」


「り?」


「あ、ううん。分かったわ」


 アカン。グレースに転生したことが分かってまだ十数日。

 私は自分が貴族令嬢であることを受け入れきれてない。

 つい、かつてのピチピチJK時代の言葉が出てしまう……いや、嘘だ。ホントはただのイキり陰キャで言葉遣いだけ陽キャっぽくしてただけの、地味メガネくそ陰キャJKだ。

 とはいえ、染み付いてしまった言葉が口をついてしまうのは事実で。気を付けるに越したことはない。

 てか、前世の自分の記憶とやらを思い出したのがまだ最近だし。

 一応、それまでのグレースとしての記憶もあるんだけど、前世の私としての記憶が強すぎて、それまでのグレースとしての記憶はキャラの解説書でも読んでる感覚なんよね。


「……お嬢様の髪は今日もお綺麗でございますね」


 メイドのステラに髪を直してもらう。

 とっても綺麗な人。でも、なんだか疲れてる?

 私が読んでた小説にはステラなんて個人名のあるメイドは出てこない。グレースの家の使用人は主たちから酷い扱いを受けてるって情報だけ。


 てか、いや、メイドて。

 そんなん動画で「萌え萌えきゅん」してるのぐらいでしか観たことないわ。

 しかも、フリフリで可愛いメイド服を着た銀髪メイド。その抜群すぎるスタイルでメイド服とか、その筋のおっきなお友達に大人気になりそうだよね。

 女の私でも、お風呂で体を洗ってもらったりしてると、たまにヨダレ出そうになるもん。


「……ありがとう。ステラ」


 でもね、肝心の私もまたヤバいのよ。

 えと、小説みたいに説明するとね。絹糸のように流れるさらっさらの金髪に、顔のどのパーツよりもでっかい綺麗な澄んだ蒼色の瞳。すっと通った鼻筋におしとやかに結ばれたピンク色の唇。すらりと伸びた手足に、背は小さいのに大きく突き出た胸。それはまさにヒロインというものを絵に描いたかのような姿だった……てな感じよ。

 いやいや、マジで。この胸どうした?

 なに食ったらこんなんなるん?

 身長は、たぶん百五十センチぐらいかな?

 それなのにこの胸よ。絶壁の支配者だった前の私からしたら、こんなたぷんたぷんするものぶら下げてるの違和感しかないのよ。そりゃ肩こるわ。

 え? なにこれ? 自分で見ててヨダレが……いや、これはもうやめよう。


「……お、お嬢様」


「んあ?」


 驚いた顔してどったの、ステラさん?

 てか、あんたもたいがいお胸でっかいよね。身長もあってスタイルもいいからマジでハリウッド女優になれるよ。

 後ろから私の髪を解かしてくれてる時に、何度その立派なのが私の頭に当たったことか。あたしゃもう後頭部に全集中よ。


「お嬢様が、ありがとう、などと……。そんなこと、言われたの初めてで……ステラはもう……う、うぅ」


「泣いとる!?」


 ス、ステラさん!?

 お礼言われただけで泣いちゃうメイドさんて。情緒大丈夫? 話聞こか?


 あ、そうか。

 小説でのグレースは自分のお屋敷ではまさに傍若無人。ワガママし放題のスーパー嫌な奴なんだった。

 使用人に手をあげなかっただけでその日は機嫌が良かったと言われるような、まさに絵に描いたような性悪クズ女なんよね。そりゃ首ちょんぱされるわ。


「だ、大丈夫?

 え、と、その、今まで、イジワルしてごめんね?

 いつも、感謝してるわ。

 あーっと、これからも、よろしく、ね?」


「グ、グレース様ぁっ!!」


「うわぷっ!」


 ステラさんアカンて!

 そんな豊満な胸で抱きしめられたら、ちょっとご褒美すぎるて! 鼻血出るて!

 いや、てか、肉厚すぎて呼吸がががが……。


「わ、私、お嬢様のメイドになれて幸せです!

 今までの苦労が全て報われた思いです!

 これからも誠心誠意、お嬢様のお世話をさせていただきます!!」


「……」


「……お、お嬢様?」


 返事がない。ただの屍のようだ……。


「お、お嬢様ぁーーーーっ!!!」


「……我が人生に、一片の悔いなし……がくっ」


「そ、そんなぁーーーっ!!」


 いや、無事なんだけどね。ネタなんだけどね。

 てか、転生して速攻死亡エンドとかループもの以外で見たことないわ。しかも死因がメイドの豊満なお胸で窒息死とか。草も生えんわ。リア爆案件やわ。


 この小説の世界観は正当な異世界恋愛ものなのよ。こんなラブコメにもならないようなギャグものじゃないのよ。カテゴリー詐欺言われるわ。


 いや、でもあれよね。

 私はこれからこの最高にプリティーなお顔とふくよかすぎるお胸でおバカな第二王子を篭絡させないといけないのよね。


 前世で貧相ボディーを引っ提げてメガネ陰キャオタク決め込んでた私が?

 そんな陽キャお色気で陽キャ王子様を奪う?


 ……いや、無理やろ。

 途中で吹き出さずにやりきるのが無理よ。

 絶対途中で我に返って、「私、なに『うっふん』とか言っちゃってんの?」てなるわ。


 てか、そのまま物語のストーリー通りに行ったら私、首をはね飛ばされるんでしょ?

 あのリアルな描写を実際に体感できちゃうワケでしょ?

 いや、絶対イヤやん。

 そんなんイヤに決まっとるやん。

 どんな転生特典やねん。












「グレース。分かっているな。

 この国の実権を奪い、軍備を強化して帝国を支配下に置き、いずれは世界を我々のモノとする。

 そのための第一歩として、お前があの愚かな第二王子の婚約者となるのだ」


「はい。存じております、お父様」


 いやいや、朝食の席で一発目にそんな不穏な話題ぶっ込んできます?

 団欒(だんらん)する気ないやろ、このパピィ。


 てか、あー、そうだった。

 男爵令嬢グレースの策略は一家ぐるみの計画なんだった。まあ、一家っていうか、その派閥総ぐるみの壮大な計画なんだけど。

 てか、グレースはそのために第二王子と同じ高位貴族しか通えない学院に通わせられるわけで、てか、この子は始めからそのために生まれて、育てられたわけで……。


 私が入る前のこの子は、自分にはそれ以外に価値がないと思っていて……てか、そう思うように父親に教育させられてて……。


 ……ん?

 待てよ?

 確かグレースって父親のこの思惑を知らないんじゃなかったっけ?

 えっと、確か、『このままだと家が爵位を取り上げられて没落するかもしれない。そうなると自分たちだけでなく、この家の使用人も路頭に迷うし、次にこの領地を治めるのはとんでもない悪徳領主だから領民たちも大変な目に遭う。そうならないためには家の格を上げるしかない』とか何とか、適当なことを吹き込まれて第二王子を誘惑するちょっと可哀想な子だったはず。そのプレッシャーによる反動でメイドさんたちにきつく当たってて……。

 ま、父親の本当の狙いには途中で気付くんだけど、その頃にはもう第二王子のことを本気で好きになってたし、もうあとには引けないからってそのままド畜生ロードを突き進んだからあんまり同情は出来ないんだけど。


 そうだ。

 だから私はグレース(と、一応第二王子)のことをちょっと可哀想とか思ったんだ。


「現国王は帝国と友好関係を築こうと考えている愚かな一派の意見に心を傾けつつある。おまけに王太子である第一王子はその急先鋒ときた……」


「……」


 でも、だとしたらこの状況はなんだ?

 なぜ今、(グレース)は父親から事の真相を聞かされている?

 これではグレースは一族ぐるみの悪事を始めから全て知った上で加担している、なんなら第一人者になっちゃうんじゃ……。


「おい。聞いているのか、グレース?」


「……え?」


 あ、ヤバい。

 頭の中でぐるぐるぐるりんしてたらパピィのお話ぜんぜん聞いとらんかった。

 え? なんて言ってた?

 あー、まいっか。とりあえずそれっぽく適当に……。


「……もちろんよ、お父様。

 少し頭の中であの愚かな第二王子を誘惑する(すべ)を巡らせておりましたの」


 どーよ? カンペーキやろ?


「……そうか。

 お前がやる気なようで嬉しいぞ」


 おっしゃ! せーーーふっ!!

 JKのスルースキルナメんなおらぁっ!


「……ここ最近、使用人たちに対するお前の様子がおかしいと聞いてな。よもや、我が家を救うことに躊躇いを感じているのではないかと計画の全貌を話したのだが、私の杞憂だったようだな」


「……そ、そうですわ。むしろ、私の使命を実感したからこそ、第二王子に近付くための事前準備として使用人たちから私へのイメージさえ変えておこうと思ったのですわ」


「ふむ。そうか。

 そこまで徹底しているとは。

 期待しているぞ、グレース」


「……ええ。必ずや、ご期待に添えてみせますわ、お父様」















「……いや、無理やわー」


 ご期待に応えたら、私もパピィも首ちょんぱでグッバイ現世なのよ。


 父親との食事を終え、自室に戻った私はそのままベッドに倒れ込んだ。

 布団を頭から被り、顔だけをひょっこりと出す。鏡にチラッと映ったひょっこりな私がマジかわいい。


「……」


 でも、事の次第が把握できてきた。

 父親が野望の真実をこのタイミングでグレースに告げたのは、『私』のせいだ。

 それまでは悪逆非道を地で歩もうとしてたグレースが突然、使用人たちに優しくなって態度が丸くなったのだ。

 父親としては私が穏健派になろうとしているのではないかと不安になったのだろう。

 そこで事の真実と計画の全容を伝え、私の真意を探ったのだ。


「……」


 たぶん、あそこで賛同していなければ私は用済みとして消されていた可能性さえある。

 あの父親は本当にクズなのだ。

 物語では一文で殺されるようなモブキャラだったけど、終盤のグレースの独白で父親が多くの使用人と関係を持つクズ男だったことも分かっている。

 だから、母親は愛想を尽かして家を出ていったのだ。

 母親の行方は描かれていないけど、あの父親のことだから逃がしはしないだろう。きっと追手を放って始末させたはず。


「……すでにストーリーが変わってきているのね」


 これはデッドエンドを回避するための吉兆と捉えるべきか。それとも物語の進行が読めなくなったと捉えるべきか。

『私』がグレースに転生したことでこの物語はすでに私の知っている物語とは違うものになりつつある。

 てか、そうしないと私は首ちょんぱなわけだし。そういう意味では悪くない展開なのかも。

 でも、父親の意向に従わないと父親から首ちょんぱされるわけで。


「……どうにか私が死なないルートを模索していかないといけないわね」


 顔を上げて正面を見つめる。

 そこにはベッドしか見えないけれど、私の綺麗な蒼の瞳は遠くを見据えていた。

 遠い遠い未来。

 私が悪役令嬢ルミナリアと帝国の皇太子グランバートによって処刑される未来。

 それを、なんとしても回避しなければ。

 この物語の主役はルミナリアだ。

 私はルミナリアによるざまあを回避しなければならない。

 物語のテンプレを覆すような行為。

 歴史の強制力をねじ曲げる所業。


「……上等。やってやんよ」


 メガネくそ陰キャの底力、見せてやんよ。

 だてにその手の小説を読んできてないのよ。

 現実での恋愛経験なんてかつての私の胸ぐらい絶望的だけれども、恋愛小説なら腐るほど読んできたわ。

 特に異世界恋愛なんて大好物よ。


「うっしゃ!」


 私の方針は決まったわ。


 学院では第二王子とその婚約者たるルミナリアとは極力関わらない。

 万が一にも第二王子に興味を持たれるわけにはいかないものね。

 そして、家では家で計画が滞りなく進んでいるように見せなければならない。でないと父親に殺されるから。


「……なかなかに難易度の高い展開ね」


 幸いにも、父親は国王派であるルミナリアとは関わりを持とうとしない。また、私が籠絡するまでは父親から第二王子にアプローチすることもない。

 つまり、父親は計画の進行を私による報告でしか知ることができない。

 そして、私は学院に通うために寮に入る。

 父親の目を欺くことは難しくはないだろう。

 だから私は、学院ではなるべく第二王子たちに近付かずに過ごすのだ。


「……あとは、私を護ってもらう上位者が必要ね」


 最終的に父親の魔の手から私を庇護してくれる存在。

 私は第二王子をルミナリアから奪う気がない。それはざまあルートだから。

 けど、それはいずれ父親に露見する。そうなれば私は父親によって始末される。

 グレースの存在価値は第二王子の婚約者となることだけだから。

 それを回避するには父親さえ手が出せない存在の庇護下に入ることが必要不可欠。

 第二王子たちには興味を持たれないようにしながら、私を護れるぐらいに強い家格を持つ存在を探す。そんな存在に興味を持たれるように立ち振る舞う。


「……どんな無理ゲーよ」


 改めて考えると、それはとんでもなく難易度の高い展開だと理解する。

 でも、やるしかない。

 やらなきゃ死ぬから。


「……」


 グレースが処刑される時の描写を思い出す。

 よくR18にならなかったなと思うぐらいにちゃんとした描写。泣き叫び続けるグレース。


 イヤだ。あんなのはイヤだ。

 私は全力でざまあされるテンプレ展開を回避してやるんだ!!


「やるぜ! 私!」


「……あのー、お嬢様。

 さっきからベッドの中で何をぶつぶつと呟いておられるのですか?」


「……あ」


 ステラがいるの忘れてたーーーーーっ!!!


「……えーと、聞いてた?」


 くるまってた布団ならにょきにょき出て、きょとんとした顔のステラを見る。

 可愛いな、あんたホントに。なにそのきょとん顔。美人のきょとん顔は人類救えるわ。


「え、と、ストーリーが変わってきている、とか、無理ゲー? とか、やるぜ私、とか。

 申し訳ありません。私にはよく分からないお話ばかりで」


 いやー、それだけ聞くと私、まあまあ痛い子やん。

 でもまあ、核心的なことは言ってなかったみたいだね。


「……あの、グレースお嬢様」


「んあ?」


 深刻な顔してどうしたの、ステラさん?


「……その、私たちに、近ごろお優しくしてくださっていたのは、その……全て、演技だった、のでしょうか?」


「……あ」


 そっか。

 さっきの父親との朝食の時、私付きのメイドであるステラは当然部屋にいたわけで、当然私と父親との会話も聞いていたわけで。


「……えーと」


 どう答えようか。

 正直、ステラはかなり綺麗だ。

 こんな綺麗な人を最低なあの父親が放っておくとは思えない。

 つまり、ステラはすでにあの父親に手籠(てご)めにされている可能性がある。

 ここで、あれは父親を誤魔化すための方便だと言って、それがステラから父親に伝われば全てが終わりだ。


「……」


「……」


 けど、ステラのこの不安そうな、哀しそうな顔。

 とても父親の刺客として私の真意を探ろうとしているようには見えない。

 それさえ演技である可能性は否定できないけど……。

 果たして、ステラは信用できるのか……。


 ……いっそ、聞いてみるか。


「……ステラ」


「……は、はい!」


「……ステラは、お父様とそういう関係なの?」


「……そ、そういう関係、と言いますと?」


 きょとんと首を傾げるステラ。

 うん、めっちゃ可愛い……じゃなくて、まあ、とぼけるよね。


「……肉体関係はあるのかと聞いているのよ」


「んにゃにゃっ!?」


 ……猫かな?


「め、め、め、滅相もない!

 ……私など、そんな価値も、ございません……」


「……!」


 そうか。

 ステラの銀髪。


「……貴女たしか、帝国の出だったわね」


「……はい」


 父親の派閥は帝国を目の敵にしている。

 銀髪は帝国の血筋の証。

 いくら容姿が良くても、銀髪は蔑まれはすれど、求められることなどあり得ないってわけか。

 選民思想の強いあの父親なら十分考えられる。

 つまり、ステラは完全に蚊帳の外。

 なんなら、私が寮へと移り住んだ時点で用済みとして処理されるか、より劣悪な扱いを受ける運命。


「……そっか」


 ステラはそもそもなぜ帝国から我が家のメイドへと相成ったのだろう。

 そんな事は物語では描かれていなかった。


「……」


 まあ、本人は話したくなさそうだし、無理に聞かなくてもいっか。

 それより、ステラには父親の息がかかってないことが分かったわけだし。


「……嘘よ」


「……え?」


「お父様は私が使用人を雑に扱うことで残虐性を持たせようとしているわ。いざと言うときに目標を躊躇いなく始末できるように」


「……はい」


「もう私にはそのつもりがない。

 でも、それがお父様に伝わればどうなるか、何をされるか分からない。

 貴女にも、それは分かるでしょう?」


 帝国出身と言うことで他の使用人からも疎まれてきた貴女ならば。ちょっとしたミスで行方不明になった使用人を見てきた貴女ならば。


「……そう、ですね」


 ステラは哀しそうにこくりと頷いた。

 心当たりは、ありすぎるのだろう。

 実際、父親の機嫌を損ねたことで酷い目に遭ってきた使用人は大勢いる。

 グレースにはそれをなるべく見せないようにしてきてたみたいだけど、じつはグレースはそれを陰から見てた。

 その恐怖心もあって、グレースは計画の全容を知ってからもあとには引けなかったのだ。


「だから、これからもお父様の前ではああいうスタンスでいるわ。

 でもね、私はもう貴女には酷いことはしない。

 それだけは信じてほしいの」


「……お嬢様」


 ステラをぎゅっと抱きしめる。

 温かい。人の温もりだ。

 私が今感じているこの温もりは、この世界は、やはり現実なのだ。


 過去の私がステラにしてきたことを思い出す。

 淹れたての紅茶を不味いと言って投げつけ、運ばれたケーキが気にくわないと言って投げつけ、ドレスが可愛くないと拳を振り上げ、それでも、彼女は他に行くところがないからと私に仕え、世話をしてくれた。


「……ステラ」


「はい。お嬢様」


 だから私は、彼女にもこれから贖罪していきたい。

 まず手始めに、この地獄から彼女を救ってあげたい。


「寮へは使用人の帯同を一名だけ許可されているわ。

 それに、貴女を指名したいの」


「え!? わ、私などで、宜しいのですか!?」


 私付きのメイドは多い。

 父親はきっと、自分の子飼いのメイドを帯同させようとするだろう。私の監視も兼ねて。


「もちろんよ。貴女が、いいのよ」


 でも、これだけは譲らない。

 学院でまで父親の影に怯えたくはない。

 私は生きるのだ。

 そのための第一歩がこれだ。


「……お嬢様」


「言ったでしょう? これからもよろしく、と」


 ステラをこの屋敷から救い出し、同時に私の味方にする。

 これだけの高難度ゲー。私一人では到底クリアできない。

 クリア条件は第二王子とルミナリアの結婚、および我が男爵家の失脚。そして私自身の保護だ。


 これは真の悪役である男爵令嬢が、全力でざまあルートを回避するための奮闘劇だ!


「こちらこそ! 全力でお仕え致します!

 宜しくお願い致します!!」


「わぷっ!」


 ス、ステラさん! 肉が! お胸のお肉が! 肉圧がががががっ!!


「お、お嬢様っ!?」


「……返事がない。ただの屍のようだ」


「お嬢様ぁーーーーーっ!!!」


 前途多難よ、ホント。



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