表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/34

18.いつもいつも私がやらかすと思ったら大間違いなのよ。たまには計画通りにやらせてよ、ねえ、ホント、頼んますよ……。

「うおおおー!! ハイパーグレートスペシャルトルネードピカピカシャキーンフラッシュ!!」


「……どんなネーミングセンスやねん」


 魔法での的当て授業で一番に名乗り出たライト第二王子。

 果たしてどんな魔法を繰り出すのかと思って皆で見ていたら、謎の言葉を大声で叫び出した今日この頃。


「ハァッ!」


「……いや、普通に【光球(フラッシュボール)】やん」


 そうしてライトの手のひらから出てきたのはごく普通の、光の属性の初級魔法だった。

 掌大の光の玉が的に向かって飛んでいく。

 奴はなぜかそれに独自の長ったらしい名前をつけて自信満々に撃ちやがったのさ。

 ……うん、正直気持ちは分かるけどね。

 あ、ちなみに、ほとんどの魔法は魔法名とか言わなくても発動できるからね。強力なやつは詠唱とか必要だったりもするけど、戦闘中にそんなことしてらんないから基本は無詠唱でバカスカやりながら戦うっていう現実的なスタイルの世界観なのよ。


「爆ぜろ!」


「へ? ……うわっ!」


 なんてことを考えてたら、ライトがかざした手をぎゅっと握ると、光の玉が的の前で無数に分裂して、弧を描いて全ての的へ。

 それが的に当たると光の玉は渦巻いて、的を巻き込んで光の竜巻になった。


「わーお」


 無数の光の柱がそこここで上がり、クラスメートたちが歓声をあげる。

 だいぶ眩しいけど、けっこう綺麗。

 え、てか、皆このレベルなの?

 これって上級魔法の【フラッシュブレイズネイド】よね?

 こんなん使える連中に授業とかいらなくね?

 このクラスだけで世界滅ぼせそうですよ?


 と、いう私の疑問はモブたちの歓声が解決してくれた。



「さ、さすがはライト殿下っ!」

「ああ! あんなの、三年の先輩だって使えないぞっ!」

「これが尊き王族の力っ!」



 と、いうことらしい。

 アブねーアブねー。アレを基準に魔法使ってたら、「私、何かやっちゃいました?」ムーブを全力でかますところだったぜー。


「おおー。さすがはライト。我が弟子だな。

 一年でこれだけの高威力の魔法を使うとは。さらに腕をあげたみたいだなー」


「はっ! ありがたき幸せっ!」


 ソーヤ先生に褒められてビシッと頭を下げる王子様。

 こういうとこちゃんとしてるのよね、この人。


「はい。じゃあ次ー。どんどんいこー」


 ソーヤ先生がそう言ってるうちに光の竜巻は消え去り、全ての的が消滅していた。

 だけど、すぐに的が時計の針を戻すみたいに元の状態へと戻っていく。

 ライトの魔法もすごいけど、あれの方がだいぶすごい。

 時間の巻き戻しみたいな魔法はないから、あれはたぶんあの空間自体を保存しておいて、空間に変化があったら保存したときの状態を再現する魔法をかけてるんだろうな。

 たぶん範囲は極小。あの的のみ。地面は黒焦げだしね。たぶん生物には使用不可。

 とはいえ、あれだけのとんでも魔法。

 十中八九、あのロリババア先生の仕業よね。


「……」

「……」

「……」


「おいー、どうしたー。早くやってくれー。

 さっさと終わらせて帰って寝たいぞ俺はー」


 先生、本音すぎます。

 どうやら皆、ライトのすごい魔法を見たあとじゃ気が引けるみたい。

 かく言う私も他の人の実力を見てからじゃないと動けぬ。

 クロードことグランバートも同じみたいね。

 私がどのぐらいの力加減でサポートするか分からないから不用意には動けない。

 やらかさないか心配なわけね。信用ないね。うん、私も私に信用ないよ。


「では、自分が行きます!」

「私も行きましょう」

「わ、わたくしも!」


 おー。ガルダにサイードにルビー。さすがはライトの取り巻き様方。


「ふんっ!!」

「ハッ!」

「え、えいですわっ!」


「おー」


 三人はそれぞれ一つずつの的に狙いを絞って魔法を放った。

 ガルダは土の魔法。サイードは水の魔法。ルビーは火の魔法。

 三人とも中級魔法。威力もそれなりに強い。

 周りの反応を見るに、これでもかなり優秀らしい。クラス内でも上位に入るレベルみたい。

 中の下とか下の上ぐらいを目指す私ならもっと弱い魔法を使わないといけないってことね。


「あ、そだ」


 終わった人たちは少し離れたところで見学するみたい。

 ルビーは心配そうに私を見守ってくれてる。

 その視線をもう少し独占しておきたいけど今は……。


「やぽ」


「……ああ」


 ススス、とクロードのもとへ。

 他の人たちも少しずつ的に向けて魔法を撃ちだした。

 最後にはなりたくないから手短に。


「……クロードはどれぐらいの成績がいいの?」


 魔法を遠隔発動してクロードがやったことにする手はずだけど、その威力を事前に決めておかないとね。

 クロードの挙動にも合わせないといけないし。

 ルビーがなんだかニヤニヤしながらこっちを見てるのは気付いてないことにしてるよ、うん。


「……そうだな。基本は自分の技で何とかするつもりだが、こういう属性魔法が必要な時にだけ手を借りたい。

 とすると、真ん中ぐらいの成績にいた方が身の振り方を考えやすいか……いや、中間より少し下ぐらいがいいか。

 努力の余地がある方がミスする可能性があるからな」


「ふむふむ。ま、そだねー」


 ほぼほぼ私と同じ考えかな。

 クロードは私のサポートを受けられなくて、かつ属性魔法を使わないといけない場面を想定してるんだろうね。

 そのときに失敗してうまくいきませんでしたってことにしたいから、あんまり優秀じゃない方がミスもしやすいって考えてるみたい。

 そもそものクロードことグランバートの目的が王国の調査だから、成績はそこまで気にしてないんだろうね。あ、私の調査も兼ねてるんだっけ?


「んー」


 二人で話してる間も他の生徒たちのレベルを確認してる。

 半分ぐらいの生徒がすでに魔法を的に撃ち終えてる。


「おっけ。だいたい中間値は分かったから、もういつでもいいよ」


「そうか」


 先に済ませてる生徒ほど実力に自信がある場合が多い、と思う。多少のムラはあるけど。

 なんかカッコつけて最後に見せつけてやろうみたいなイタい人もいるかもだけど、残ってる生徒たちの魔力を見る感じそんなことはなさそう。

 そこから想定して、クロードの成績具合に応じた魔法を準備する。


「じゃあ、先に行く。

 よろしく頼む」


「あいさー」


 腰の剣を抜いて、的に魔法を撃つための線が引いてある所に向かうクロード。それに軽く敬礼をして送り出す。

 クロードは風の属性にするって言ってた。そして剣を使用するなら、魔法は十中八九【風刃(エアスラッシャー)】だろうね。

 斬撃を風の魔法で撃ち出す魔法。初級魔法だけど、速いし切断力も高いから実戦でもけっこう使われる魔法。


「……」


 クロードが剣を構える。

 あ、ちなみに学院では授業とか緊急時以外での抜剣および攻撃魔法は禁止されてる。ていうか、やっても結界でロリババア先生にバレて速攻ヤツが飛んでくる。

 初日にクロードと私がやりあったのは私たちだから出来たことなのよ。ガルダとのやつは校門の外だったしね。


「……さて」


 先生の様子を窺いながら、こっそりクロードの剣に魔法を飛ばす。

 隠密魔法と遠隔発動の魔法をかけた【風刃(エアスラッシャー)】。でも発動時にはちゃんと風の魔力を伴って発動するように。


「……」


 クロードがじり、と地面を踏みしめて的を狙う。

 私が魔法を放つにしても、ちゃんと狙いは定めないと先生に違和感抱かせちゃうからね。


「……ハァッ!!」


 そうして勢いよく振られた剣からは空気を切り裂く風の刃が現れて、遠くの的を見事に一刀両断にしてみせた。


「おー。なかなかだなークロード。

 もうちょい溜めの時間を短くできると実戦でも活きてくるぞー」


「はい。ありがとうございます」


 ビシッと深くお辞儀するクロード。

 帝国の皇太子が王国のいち教師に頭を下げてると思うと凄い光景よね。

 でもどうやらバレてはいないみたい。

 これを看破することはロリババア先生にも出来ないでしょうね。

 自分の実力を隠す技に関しては激しく自信あるのよ、私。

 ちゃんと努力の余地があるようにもしたし、まあ及第点でしょ。


「はいー。もうちょいだぞー。残りも早くやっちゃえー」


「そろそろ行こっかな」


 だいたい三分の一ぐらいの生徒が残ってる。

 魔法にあんまり自信がない生徒が多いみたいで、なかには的にうまく当てられずに何度か魔法を撃つ生徒の姿も見られる。

 私はまあ、なんとか的には当てられた、ぐらいにしようかな。

 やりすぎるとボロが出ちゃうしね。


「……ファイアーボール」


 線の前に立ち、指先に小さな火球を生み出す。

 うん、言わなくてもいいけど一回は言ってみたくならない?

 あ、それともライトに憧れてるみたいに映ってたかな? ……あ、もう誰も見てないや。

 ちょっとマズったかなと思ったけど、皆もう目ぼしい生徒は終わっちゃったから流れ作業を見てるみたいになってる。

 うんうん。いい感じ。

 こういうときにこっそり終わらせるのが陰キャのプロよ。

 あ、ルビーだけは祈るように見てくれてる。ありがとねー。頑張るよ。


「よし」


 掌よりちょっと小さめの火の玉。

 それをちょっと時間をかけて安定させ、頑張ってキープしながら的を狙う、フリをする。

 うん。そろそろ撃っていいかな。

 行こう!


「グレースさん、頑張ってくださいませー!!」


「うわっ!?」


 ル、ルビー!?

 撃つ寸前で声かけないで!


「お、っと、っと、とぉっ!!」


「あ、ご、ごめんなさいっ」


 ビックリして、一瞬だけ魔力を注ぎすぎて火の玉が人間ぐらいに膨らむとこだったけど、ギリギリで何とか抑え込んで元の大きさへ。

 あぶないあぶない。

 どうせこれでやらかして大火球をぶちこんじゃうとか思ったでしょ。

 そうは問屋が卸さないぜー。


「ふー」


 再び集中して的を狙う。

 ルビーは反省してシュンてしてる。可愛い。だけどあとでちょっとだけ怒ろう、うん。


「えいっ」


 そうして今度は無事に火の玉を的に当てることができた。

 的はメラメラと少し時間をかけて燃えた。うん、威力も予定通り。


「……おー、グレースお疲れー。

 溜めの速さに威力に、まだまだ修練の余地があるなー」


「はい。頑張りますっ!」


 実力はないけどひたむきに。真面目に。身の程を弁えつつ。

 この調子でやってくよ!





「ほい。お疲れー」


 そうして全員が魔法を撃ち終えた。

 予想通り、最後の方の生徒はあんまり魔法が得意じゃない人が多かった。

 クロードも私もだいたい想定通りの成績に落ち着けそう。


「だいたい全員の実力は分かったわー。

 明日からはこれをもとに授業を進めていくなー。

 あ、ルミナリアは別に授業を用意しておくから心配するなよー」


「はい」


 あ、そうそう。

 ルミナリアは今回の授業はやってないのよ。

 ルミナリアは王国唯一の闇の属性。

 んでもって、彼女の魔法は戦闘向けじゃないから、今日みたいな授業のときは別のことをやるみたい。


「んじゃ、今日はこれで解散なー。

 あ、グレース。後片付けやんの手伝えー」


「ええっ!? なんで私っ!?」


「んー、適当ー」


 嘘だろおい。

 どんだけ運ないの、私。

 たしかに、前世でもこういうときに謎に指名される呪いにはかかってたけどさ。


「あ、わたくしも手伝いますわ」

「あ、私も」


 おお。ルビーにルミナリア。

 あんたら姉妹はマジ天使よ。


「いや、一人でいいわー。

 ルビーは準備やってもらったし、ルミナリアは学院長が呼んでるぞ」


 ぐぬぬ。ソーヤ先生。

 せっかくの申し出を。

 だがしかし、


「ルビー様。ルミナリア様。

 温かいお言葉ありがとうございます。

 ここは私一人で大丈夫ですから、どうかお気遣いなく」


 私のポジション的にこう言うしかない。

 ちょっと周りの生徒の目も気になるし。

 ルビーたちに目にかけてもらってると思われすぎるとモブ路線からアウトしちゃうからね。


「分かりましたわ。先に帰ってますわね」

「では、ごきげんよう」


「ええ。ごきげんよう」


 くそう。


「はい、皆お疲れー」


 そうして私と先生を残して生徒たちは解散していく。

 クロードもちょっと気にしてくれたけど、周りの目もあるからそのまま立ち去った。


「はい。じゃーまずは的を抜いてくぞー」


「……はーい」


 しゃーない。

 ここはさっさと片付けよう。

 早く終わらせて早くステラに癒してもらうんだ。


「……で、グレースさんよー」


「なんですかー?」


 地面に埋められた的を抜いてると、隣で同じように作業してる先生が唐突に話し掛けてきた。


「お前、なんで自分の魔力を隠してんだー?」


「っ!?」


 え、なんで?

 なんでバレた?

 どこまでバレた?


「一瞬だけだけど、ルビーに驚いて火球にけっこうな量の魔力を込めかけたよな?」


「……」


 あ、それか。

 どうやらクロードの方の隠蔽魔法はバレてないみたい。

 でもそっか。この人はあの一瞬でも分かっちゃうぐらいの実力者なんだ。

 さすがはロリババアことエミーワイス先生の弟子。


「で、それをまた一瞬で元に戻した。

 お前、じつは魔力の精密操作が出来るのかー?」


「……っ」


 こっちを見ない。

 でも空気が鋭い。

 なんか疑われてる?

 スパイかなにかだと思われてるのかな。

 本当の実力を隠して学院に潜入してる、みたいな?

 高位貴族しかいない学院に入ってきた男爵令嬢だし、たしかに怪しさはあるよね。


 どうしよ。

 なんて答えよ。


 ……あ、そうだ。


「……バレてましたかー」


 作業をしつつ、苦笑いしながら答える。


「まーなー」


 のんびり話してるけど、空気はピリピリしてる。ていうか、ビリビリしてる。

 下手すると先生に首ちょんぱにされそう。

 まあ、実際戦闘になればソーヤ先生には負けないだろうけど、そうなったらまず間違いなくあの化け物がやってくる。

 そうなると今の私には勝ち目はない。

 今は教師陣と事を構えるわけにはいかない。


 だから、


「……じつは、私は生まれつき魔力が多い方でして」


「ふむ」


「ですが、それを自分では上手くコントロールできないんですよ」


 ってことにする。

 さらに、


「……」


「でも暴走してしまうと迷惑がかかるので、魔力を抑え込むことだけはたくさん練習しました。

 なので、さっきはちょっと暴走しかけましたが、溢れる魔力をすぐに収めることが出来たのです」


 ってことに。


「……なるほどなー」


 先生からピリついた感じがなくなっていく。

 隠してた理由としては十分だと判断してくれたみたい。

 でもこんな説明だけでいいのかな。


「なぜ男爵令嬢であるお前が入学できたのか不思議だったけど、潜在魔力が膨大ならばそれを半端に放っておくのは危険と判断したわけか。

 それを御する術を学ぶなら、たしかにこの王立学院がベストだろうなー」


「はい。エミーワイス先生には見抜かれていたようで、便宜を図っていただいたようです」


 ってことにしといてね、ロリババア先生。


「まあ、師匠ならそうだろうなー。

 自分の手元に置いとくのが一番安全とか考えそうだしなー」


 あの人ならそうだよね、って思ったからそういうことにしたよー。そしてまさにその通りだよソーヤ先生ー。


「ったく。俺には先に言っといてもいいのに。あのババアは」


「はは……」


 おいおい。ロリババアが聞いたら激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだぞ。

 でもまあ、師匠の話を持ち出したからソーヤ先生も納得せざるを得ないって感じだね。

 あとでエミーワイス先生には話を通しとかないとだけど。


「まあー、話は分かった。

 周りに迷惑をかけないように、魔力を暴発させないようにしようとするスタンスは悪くない。

 抑える方だけではなく、徐々に解放する方にも慣れていくように。

 他の奴らには秘密にしたいようだから徐々に、な。

 俺もサポートはするさ」


「あ、ありがとうございます」


 良かったー。

 担任の先生に目をつけられたらいろいろ面倒そうだからねー。


「……ま、心配すんな」


「わぷっ」


 先生は私の頭にぽふっと手を置いた。


「学院に入学して俺の生徒になった以上、しっかり教えてやる。

 報酬分の仕事はきっちりやる主義だからな、俺は」


「あわわわわわっ」


 そんで、そのまま私の頭を無遠慮にぐりぐりしてきた。

 やめれ! ステラがせっかく可愛くセットしてくれた髪が台無しぞ!

 なんなん。この世界の男は人の頭をワーッてやるのが好きなん?

 それとも私がちっちゃいからなのか!?


「んじゃーな。

 俺はもう帰って寝るから。お前ももう帰っていいぞー」


「え!? 残りの片付けはっ!?」


「そのままでいいぞー。あとで師匠が一瞬で元通りにするからなー」


「んなっ!?」


「じゃなー。おやすみー」


「帰るの早っ!」


 ソーヤ先生はあっという間に地平線の彼方に消え去った。

 私から話を聞き出すためにわざと片付けを手伝わせたってことね。


「やれやれ。ま、なんとかなって良かった」


 私が魔法をわざと加減してるっていうことへの言い訳としてはピッタリの理由だったかもね。

 先生も無事に信じてくれたし。

 てか、ソーヤ先生はやっぱりわりかし良い先生よね。なんなら仕事だから~とかってのも照れ隠しに思えてきたもん。


「とりあえず初日は無事に終わったかー。

 あ、そだ」


 ソーヤ先生はエミーワイス先生がここを一瞬で直してくれるって言ってた。

 それなら、


「えーと、『エミーワイス先生へ……』」


 私は魔法でエミーワイス先生に宛てた手紙を残した。

 先生の魔力に反応して出現するように。

 今日のソーヤ先生とのことを伝えて、話を合わせてもらうように。


「よしっ」


 仕込み完了!


「さ、帰ろ帰ろー」


 ステラー。メシー、風呂ー、膝枕ー。

 それとも今日は私がステラにやってあげようかー? ……それもありだな。

















「……」


 クロードことグランバートは寮への道のりを一人で歩いていた。

 授業を終え、各自解散となってそれぞれが帰途に着くなか、明らかに自分を意識した視線が機会を窺っているのを感じたグランバートは他の生徒から離れて一人になることにしたのだ。


「……何のご用でしょうか?」


 そしてピタリと足を止めると、踵を返してその人物に話し掛けた。


「ふっ。さすがに辺境伯の子息は野生に鍛えられているといった所ですか」


「……貴方でしたか」


 木の陰から出てきたのはサイードだった。

 嫌味を言いながら、かけたメガネをくいっと上げる。


「私に、何か?」


 グランバートは一定の距離を保ったままサイードと相対する。

 剣はいつでも抜けるようにしていた。


「警戒せずとも、いきなり攻撃したりなんてしませんよ」


 サイードはやれやれと肩をすくめる。

 剣は抜けばエミーワイス先生がすぐにやってくる。

 それはお互いよく分かっていた。

 もっとも、グランバートはその感知結界を無効化してサイードの首をはねることが可能だが。


「貴方に、一つ言っておきたいことがあるのです」


「私に?」


「ええ。グレース嬢に関して」


「……!」


 サイードのメガネの奥が怪しく光るのをグランバートは見逃さなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一難去ってまた一難( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ