1.転生先は思ってたんと違う……
『で、殿下っ!
わたくしはグレースさんを階段から突き落としたりなんてしてませんわ!』
『黙れルミナリア!
証拠も証人も揃っているのだ!』
『怖いですわ! ライト殿下!』
『おお、可哀想なグレース!
大丈夫だ。俺がグレースのことを必ず守る!』
『ああ、ライト殿下っ!』
『そ、そんな……』
そうだ。
覚えてる。
この小説の物語はたしかこんな展開だった。
で、なんやかんやあって結局……。
『ごきげんよう。ライト殿下、グレースさん』
『ル、ルミナリア……これは、どういうことだ』
『貴方方の企みは全てお見通しですわ』
『ル、ルミナリア様。そ、そちらの殿方は……』
『あら、そうでしたわね。
ご紹介しますわ。
このグランティス王国の隣国にあたる、ティダート帝国の第一皇子にして皇太子であらせられるグランバート殿下ですわ』
『て、帝国の、皇太子、だとっ……!?』
『初めまして。
いきなりだが私はね、君たちに感謝しているのだよ』
『は?』
『君たちが愚かにもルミナリアを追放してくれたおかげで、私はルミナリアを婚約者として迎え入れることができたからだ』
『こ、婚約者ですって!?』
ああ、そうだ。
この物語は婚約破棄された悪役令嬢が隣国の皇太子の婚約者になって、自分を貶めた男爵令嬢と元婚約者である愚かな第二王子に復讐、つまりはざまあするお話だ。
『ああそうだ。ちなみにグランティス国王陛下は退位なさる。助けを求めようとしても無駄だ。彼も、君たちに感化されなければこんなことにはならなかったのだがね。
新たな国王は第一王子であるリードビッヒ殿下だ』
『あ、兄上が!? バ、バカなっ!?』
『そ、そんなっ!?』
『リードビッヒ殿下は国王即位後、グランティス王国が帝国の傘下に加わることを快く受け入れてくださいましたわ』
『き、貴様らの属国だと!
ふざけるなっ!!』
『……リードビッヒ殿下は賢明な方ですわ。
グランティス王国はティダート帝国には敵いませんもの』
『本来であれば対等な友好関係でありたかったのだが、こうなった以上、致し方あるまい。グランティス王国の価値を貶めたのはお前たちだ。
……それに、もうお前たちには関係ないだろう』
『……は?』
『お前たちはここで私に処刑されるのだからな』
『なっ!?』
『リードビッヒ殿下は貴方方の首を差し出せば帝国による制裁を無しにしてやるという、グランバート殿下の提案に飛び付きましたの』
『そ、そんなっ!?』
『ああ。ちなみに、君の魔法は使えないよ。私の魔法はそういう魔法だからね』
『な、なぜそれを……』
そうだ。
それで二人はグランバートに首をはねられ、その後、ルミナリアは皇帝になったグランバートの妻として幸せに暮らしたという結末……。
もはやテンプレと化した『婚約破棄された悪役令嬢によるざまあ』展開。
数ある婚約破棄される悪役令嬢ものの中で、この作品の特徴と言えば第二王子と男爵令嬢がバッチリ首をぶっ飛ばされるところだ。
そのシーンは読んでいてなかなかにショッキングだったのを覚えている。
昨今はコンプラへの配慮なのか流行りなのか、自分を嵌めて婚約者を奪った相手とさえ仲良しこよしになる作品が多いなか、この小説はバッチリガッチリざまあを実行するのだ。
しかも、なかなかに凄まじい描写で。
この作品を読んだ時に思ったよね。
いや、さすがに男爵令嬢と第二王子可哀想じゃね? って。
いや実際、バカな第二王子を取り込んで国の実権を握ろうとしていたグレースとその一家のしたことは立派な国家転覆罪なわけで。
そりゃあ極刑に処されるのは当然なんだろうけど、のんびり平和なのほほんとした国でバカみたいにJKやってた身としては極刑とやらに実感もないわけで。
それよりも、そんなふうに人をぶち殺しておいて、幸せだわって笑ってるルミナリアたちの方が私的には怖かったのを覚えてる。
んで、そうやってそんな作品をのほほんと読める世界にいる私は恵まれてるんだなって思ったりもしたもんよ。
……でもね。
私はいま、人生最大のピンチに陥ってるのよ。
いや、ホント、マジでヤバいからね。
激ヤバのヤバよ。
このヤバいはスゴすぎてヤバいのヤバいじゃなくて、リアルにヤバい方のヤバいだからね。ホントにヤバい方のヤバい。マジヤバのヤバ。
いや、落ち着け。なんかもうよく分かんなくなってる。
とにかくね、私はこのままだとヤバヤバのヤバなのよ!
え? なんでかって?
そりゃアンタ……
「グレースお嬢様。失礼致します。
そろそろ起きる時間にございます」
「あ、はい。すんません」
私がそのグレース男爵令嬢に転生しちゃったからだよぉーーーーーーーーっ!!!