【第1.5章】
【第1.5章】
太田文はシャワーのノズルを回した。
すぐにはシャワーから出てくるお湯は生温く、程よくなるまでに約10秒を要する。火照っていた身体には、別に生温いお湯でも構わないかと思ったが、いつものように、文は待つことにした。
先ほどまで行われた情事を思い出しているうちに、さらに身体が火照っていくのを感じる。
幸太郎と寝た。抱かれた。嬉しさで胸がいっぱいになった。25歳の女の身体は、久しぶりの情事が行われたことを、好きな男に抱かれたことに、最大限応えた。過去に行われた情事を思い出しても、今夜の情事を上回った記憶はなかった。
(よかった。よかった。嬉しい)
文は水温を確認すると、シャワーのお湯を頭から浴びる。
初めて、男を家に呼んだ。好きな男を家に呼んだ。かつてない自分の勇敢な行動を称えるべく、
勢いよくシャンプーの泡を髪の毛に撫でつける。
会社の先輩である幸太郎と、初めてのサシ飲み。終電で帰るつもりであった幸太郎の腕をつかみ、
引き留めた。言おうと思っていた言葉。「好きです。」「付き合ってください」。
文から出てきた言葉はこうだった。
「私の、家来ませんか」
元来奥手である文の口からはかつてないほど大胆な言葉であった。いった途端に、顔が赤くなった。しかし、その大胆な言葉故に、幸太郎を家に連れてくることが出来た。
(クーラー、もっと涼しくしてあげればよかったのかな)
文は冷え性のため、室温は夏場でも28度で設定する。汗をかきまくっていた幸太郎のことを
思い出し、自分の配慮が足らなかったのでは、と後悔をする。
(SEX、上手だったな。やっぱ、モテるのかな)
他に女がいるのではと、文の思考は不安へと舵を切る。順番が違ってしまった。先に告白を
するべきだった。このままでは、ただのセフレで終わってしまうのでは。
(明日、起きたらきちんと告白しよう。好きって言おう)
決意を胸に、文は体を清めていく。体を拭き、ドライヤーを当てる。寝てるかもしれない幸太郎に
配慮し、普段よりも1段階弱い風力で髪を乾かす。いつもよりも乾くまでに時間はかかるが、
気持ちを整えるのにはちょうど良かった。
ペタペタと鳴る自分の足音に気を使いながら、幸太郎のいるベッドへ歩いていく。