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幽霊皇女は婚約者の浮気現場を目撃する

 黄玉宮の主は第六皇女、黄玉公主 雷燐。享年十七歳。

 金の髪に、黄玉の瞳を持つ姫だった。


 胡族の血を引いている少女には婚約者がいた。

 宮廷武官の雨 駿狼という。



 たしか茶と菓子を食べて...



 雷燐が目覚めた時、黄玉宮はお通夜のような雰囲気だった。


 侍女や下女たちがむせび泣いている。その光景を雷燐は後ろからぼんやり眺めていた。


「嘆いても仕方ないわ。それぞれ形見分けは持ちましたか。公主様にご挨拶を済ませたら、次の職場に向かってください。いいですか。主が変わっても公主様のご恩は忘れてはなりませんよ」


 侍女頭が嘆いている侍女下女に言い聞かせる。

 皆白い羽根を胸元や腰につけている。白い羽根は死者への弔意皇を表している。皇子公主の誰かにご不幸があったのだろうか。急いで私も参列の支度をせねばならない。


「誰か支度を手伝いなさい」


 雷燐が声を張り上げるも誰も雷燐を見なかった。まるで声が聞こえないようだ。誰も雷燐に気づかない。


 なぜと思いながら、最後列の下女の肩に触れてみるが、すり抜けてしまい、思わず飛び退いた。そこで鏡を目の端に捉えてしまった。ゆっくり顔を鏡に向ける。


(え? 私映ってない?)


 目立つ金髪や金の瞳、身に付けている衣装、宝飾品の一切が映っていない。

 自分の両手の平を見る。確かにそこにある。次はその手で頬をぺたぺた触ってみた。感触はちゃんとあった。

 なのになぜ下女に触れなかったのか。


 色々理解が追い付かぬまま、移動し始めた侍女たちの列の後を付いて歩く。



 目の前には小さな塚があった。


 抹香の匂い。木の実や酒、水、菓子などが並んでいる。

 卒塔婆にかかれている日ー亡くなった日は、雷燐が茶菓子を食べた日と同じ。

 同じ菓子を食べたはずの第三皇子は大丈夫だろうか。


 雷燐の陵墓の前で、侍女下女がむせびなき侍女がしらがもう一度、同じことを熱弁し、侍女下女一同深々礼をして解散となった。


 暇をだされる者、次の職場に向かう者、もう一度琥珀宮に立ち寄り、さめざめ泣きながら花瓶から花を引き抜き花瓶を懐にー


「ちょい待ち」


 公主にあるまじき声で制止するが、侍女はさめざめと泣きながら、花瓶を懐に入れた。確かあの女官の名はー


 飾られていた花は一応雷燐お気に入りの円卓に置かれているが、そういう問題ではない。


「祟られても知らないわよ」


 雷燐の呟きに侍女は気づかず行ってしまった。


 侍女頭がさっと室内を確認し、放置されている花に気づいて他の器に生け、深く一礼したあと黄玉宮の施錠を終えた。


 宮は本当に主を失ってしまったのだ。


 もう高価な品は宝物庫にしまわれている。


 がらんどうの黄玉宮。わずかに残された品々に触れようとするが、やはり幽鬼の類いの自分ではすり抜けてしまう。雷燐の目は暦で止まった。


「四十九日も経っているのね」


 涙が溢れてくる。こんなところに一人残されて。


 母は雷燐が幼少の頃に亡くなっている。

 皇帝である父は行事ごとの宴での挨拶、他の異母兄弟、異母姉妹には時おり開かれる茶会にきまぐれに呼ばれる程度。


 婚約者を探そう。今はこの世にいるが、いつ彼岸に渡るか知れない。

 一目顔を見てお礼を言いたかった。例え聞こえないとしても。


「触れなかったということは、当然通り抜けられるはずよ、ね?」


 怪談話のなかには壁をすり抜けられない幽鬼も少なからずいた。

 息を詰めて(息をしていないはずだが)、そっと扉に触れる...と指先がなんの抵抗もなく扉にめり込んだ。


「駿狼様は陽春宮の警護についていたはず」


 婚約者の会話からいくつかのあたりをつけ、人や壁をするする抜けて、やっと見つけた彼はー


「ご機嫌はいかがかな?」

「お仕事を抜け出して悪い人。まだ喪は明けていないのでしょう?」


「婚姻直前に公主様に死なれて泣きたいのはこちらですよ。よい条件の人はなかなか見つかりませんから。ねえ?」


 二月も経っていないのに恋人がいた。

 それも異母姉である第五皇女、文月公主翠蘭だ。


 ー私は難しい顔をしている所しか知らない。


 駿狼は翠蘭にはとても甘ったるい流し目を送り、取り次ぎの侍女とも朗らかな笑顔で話している。


 衝撃だ。


「そりゃ、いくら公主だからって、年の離れた小娘と話したって面白くないわよね」


 皇女がたくさんいるのに小娘を割り当てられたのだから。

 確かに年も離れていたし、雷燐の片恋という名のわがままを皇帝が叶えてくれたに過ぎない。でも、それでも。


 雨駿狼が雷燐(こんやくしゃ)の前で、生き生きと妙齢の女性たちに話かけている。


「ぼくねんじんだと思っていたのに」


 ぽろぽろとこぼれた涙は地面にたどり着く前に消えた。

雷燐...第六皇女。幽霊。黄玉公主。


雨駿狼...雷燐の婚約者。武官。常は第三皇子の宮付近を警護している。


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