第93話 不人気なシーフードダンジョン
「おいしー」
「父さんの鰻は日本一美味しいよね」
横を見るとリザとアルバロも夢中で鰻丼を食べている。
「たくさん焼いたし複製もしたからな!」
「おかわりください」
リザのおかわりのペースが早い。アルバロもおかわりした。ハナと私はいつもの量でデザートに梨を食べた。
「俺、明日は釣りに行きたい」
「お供します」
リザは当然、ついていく。
「カナとハナはダンジョンに行ってみない?」
「この街のダンジョン?」
「うん。食べ物がドロップするよ」
「いく!」
ハナが即答したから明日はダンジョン決定だ。
「どんなダンジョンなの?」
「魔物はエビとかカニとか深海魚みたいな感じが多いよ」
「ドロップ品は?」
「シーフード!」
「……もしかして不人気ダンジョン?」
「どうしてだろうね?」
「すぐそこで獲れるからでしょ」
「………そうか!」
「マジで今まで気づかなかったの!?」
「だってほら、ドロップ品はクオリティが良いんだよ!美味しくて大ぶりで!ボス部屋の貝はいろんな真珠をドロップするし!」
「ダンジョンの方が断然危険だもん。目の前の海で同じものを獲れるなら当然避けるでしょう」
アルバロがガーン!とショックを受けている。
明日は父さんの釣果と私たちのドロップ品でシーフードの夕食になりそうだけどシーフード好きなので嬉しい。
「みんなのアドバイス通り階数を倍にしたよ。偶数階はスイーツの原料やフルーツ。奇数階に大きくて美味しいシーフード。でもボス部屋は真珠!このこだわりは譲れないから!」
「いいと思うよ」
食後すぐに出かけて行ったアルバロが戻ってくるなり報告した。寒い地方のフルーツも暖かい地方のフルーツもドロップするありがたいダンジョンにリニューアルだ。今よりは人気が出るだろう。今よりは。
翌日は朝からダンジョンに行ってみたが、予想通り閑古鳥が鳴いていた。
「すみませえええええん!」
受付に人がおらず、思いっきり声を張ったら奥から人が出てきた。
「いらっしゃいませ!ダンジョンですか!?」
「はい。一昨日この街に着いたんです。ギルドカードはこれ」
「可愛い従魔さんですね!」
褒められたハナが調子に乗ってギルドカードを何度もピカピカさせると受付のお兄さんがキュン顔になった。
「受付にこられた皆さんに説明しているんですが、このダンジョンは目の前の海でも獲れるようなシーフードばかりドロップするので不人気なんです。危険をおかさなくても朝市で買えるものばかりですから」
親切な説明に私が肯く横でアルバロが落ち込んでる。
「唯一の例外はボス部屋の真珠ですが命をかけるほどのものではありません。割りに合わないと思ったら引き返してくださいね」
「ご親切にどうも」
アルバロを引きずって中に入る。
低層階はザリガニっぽい魔物や空飛ぶウーパールーパーっぽい魔物などが続いたが問題なくハナが蹴散らしてドロップ品を拾う。合間に挟まれる階の魔物はスイーツの階に現れる戦い慣れた魔物やフルーツトレントなので、こちらもぐんぐん進む。フルーツトレントが飛ばしてくる種や果実を剣で打ち返して命中すると一瞬でドロップ品に変わるので手応えがない。
シーフードダンジョンには1階ごとにボス部屋があった。低層階では小粒な淡水真珠がドロップしたが上に進むに従って粒の大きい真珠になってくる。
ハナはシーフードとフルーツに夢中だけど私はボス部屋が楽しくて仕方ない。
ピンク、ホワイト、クリーム、ゴールド、ブルー、シルバー、ブラック、グリーン系など、あらゆるカラーがドロップした。
ブラックパールもピーコックやダークグリーン、レッドブラックなどバリエーション豊かにドロップして楽しい。シェイプもバロックからラウンドまで様々だ。嬉しいことに南洋真珠も出た。
20階のボス部屋攻略を終えてセイフティゾーンでお昼にした。今日はロブスターサンドにした。具がぱんぱんの贅沢仕様だ。
「真珠のダンジョンって楽しいね!」
「シーフードのダンジョンだよ」
「フルーツのダンジョン好き!」
「シーフード!」
アルバロのこだわりはスルーした。
最上階の60階のボス部屋を攻略して帰還の魔法陣に乗る。
「全員乗ったよ」
「えい」
ハナが魔力を流すとダンジョン職員たちに出迎えられた。
「ご無事でよかった〜!」
私たちはポカンだ。
「このダンジョンに入った方は例外無く1階で引き返してくるので1時間ほどで帰還されるんですよ。なにしろ国1番の不人気ダンジョンですから!」
「2時間経っても戻られないので探しに行ったんですが1階にはいらっしゃらなくて…」
「心配でした〜」
「なんかすみません」
このダンジョン職員の皆さん、ほんといい人たちだな。
「いえいえご無事で良かったです」
「私、真珠が好きなんです」
「ああ、なるほど〜」
「良いものがドロップしてたら良いですね」
「ハナ、フルーツが好き」
「がうがう可愛いですね」
「ハナはフルーツの階が好きと言ってます」
ダンジョン職員たちの空気が変わった。
「フルーツ?」
「1階置きにフルーツや蜂蜜がドロップしましたよ」
「詳しく聞いても?」
「ハナ、1個ずつならいい?」
「また来る?」
「また獲りに来ようね」
「いいよ」
「あそこのテーブルいいですか」
少し離れた場所にあるテーブルに1種類ずつ出してゆく。マンゴー、マスカット、イチゴ、みかん、パイナップル、桃、リンゴ、メロン、バナナ、スイカ、さくらんぼ…全部は乗らなかった。
「この他にもいろいろ」
「事前に警告出来なくてすみません」
「なにしろ国1番の不人気ダンジョンでして…」
「ご無事で良かった〜!」
「いえいえ、1階置きにフルーツが出ましたよ。最上階は60階でした」
『不人気』連発でアルバロの口が見事なへの字口になった。




