第90話 オスカル様
今日は馬車に揺られて南西に位置するルースラゴスという漁師町へ向かっている。
ローレでタンク職などパワー自慢の冒険者たちの間で『グッと持ち上げてドーンのカナさん』と呼ばれていると知った時は崩れ落ちた。
モンテ・トラスで『猛獣使い』や『真っ二つのカナさん』が定着する前に出発した。居なければ呼ばれることも無いし忘れてもらえるかもしれないと期待している。……期待してる。
馬車が止まった。
「浄化するぞー」
今回もアンデッドが出現するエリアを浄化しながら進んでいる。父さんとリザが右へ、私とハナとアルバロは左へ。
マッピングスキルの地図から危険地帯の黄色や赤が消えたので馬車に乗り込んで進む。
朝からおやつの時間まで進んだら転移の魔法陣で戻ってハナのお散歩で一日が終わる。これを4日繰り返したら次の街が見えてきた。
「今日の昼にはルースラゴスに着けそうだな」
「たしか漁師町だったよね、楽しみだね」
「秋だし鯖や秋刀魚のような魚があると良いな」
間もなく城門が見えてきた。活気があり城門には行列ができていたが並んで20分ほどで順番が回ってきた。全員降りて馬車は父さんのインベントリに収納。ハナはペットスリング。
「ルースラゴスへようこそ!」
「俺たちは家族で冒険者をしているパーティだ。これがギルドカードだ」
順番にギルドカードを見せる。今回もハナが魔力を流してギルドカードを光らせると可愛いと褒められた。
「ルースラゴスでの滞在をお楽しみください」
あっさり許可が通って街に入る。
ペットスリングの中からハナが門番さんに手を振ると、列に並ぶ他の旅人や商人、冒険者たちからも可愛いと声があがった。
「まずは冒険者ギルドに行ってみる?カミロさんの紹介状があるし、インベントリの魔石とかドロップ品を買って貰おうよ」
「そうだな、その後で商人ギルドと錬金ギルドに寄って買い取りしてもらうか」
市場で魚を買うなら朝なので今日はギルドを回って明日に備えるつもりだ。ギルドの看板はどこの街でも同じなのですぐに見つかった。間取りも同じ。酒場と掲示板と受付カウンター。
「いらっしゃいませ」
「この街に着いたばかりのカルピオパーティだ」
「ローレの冒険者ギルドのカミロさんから紹介状があるんです」
「オスカル宛ですね、お掛けになって少々お待ちください」
「お待たせしました」
── オスカル様だった。
美しいものが好きだったおばあちゃんと一緒に観た『ベニスに死す』という映画の美少年を美青年にした感じなのでオスカル様と様付けで呼ぶことにした。この人に合コンとか絶対に頼めない。
イレーネさんも恐れ多いくらいの美人だけど親しみやすいお人柄で良かった。
「おじいちゃんの手紙ですね、読んでも良いですか?」
「どうぞどうぞ」
「なるほど、きっと魔石やドロップ品をたくさんお持ちだろうと書いてあります」
「買い取りしてもらえますか」
「もちろんです、倉庫に繋がる部屋でお願いします」
部屋に通された後、鑑定士を呼んでくると言ってオスカル様はメガネの男性を連れて戻ってきた。
「ルースラゴス冒険者ギルドの鑑定士、ゴンサロです」
「よろしくお願いします」
「これはルースラゴスの冒険者ギルドによく依頼されるもののリストです。魔石はリストに含まれません」
「じゃあ先に魔石を出しちゃう?」
「そうだな」
父さんと私のインベントリから各種魔石を出した。それぞれ4桁あるので重い。毎日お散歩に行くから増える一方なのだ。
「…大量ですが全部魔石なんですね?」
「品質ごとに同じ巾着に入れてます」
「こっちが低、こっちが高。品質が低い順から高い順に順番に並べているから必要なだけ買い取ってくれ」
「鑑定してもらってる間にリストを確認しようか」
「そうだな」
オスカル様は、おじいちゃんの手紙に『カルピオパーティは善良な一般人だけど非常識だから心の準備をしておきなさい。善良だけど、ちょこっと常識に欠けるんだ』と書いてあった意味を理解した。




